第10話

 私の口から出た言葉に違和感を覚えたが、嘘ではない。これは学校へ行ったり、灯と一緒に依頼人の依頼を解決していって感じたものだ。


「知ってる。お前さ、灯の遺書見た時に死のうと思っただろ」

「うん」


 私はこの想像体を使って近くの兆桃寺へ行き、そこでわざと暴走し除霊されようと思った。


「なんで死のうと思ったんだ」


 それは、私が名前の無い怪物として出現したあの日、たくさんの人を殺したからだ。


「自責の念だ」

「そうだよな。でも勝手に死ぬとか許さないから」

 うらのは言った。

「もう死なないことにする。死ぬのは嫌だって気付いた」

 私は言った。

「そっか。あとは風馬に絆創膏貰った時、少しは嬉しかったし、馬鹿にしてたけど優しいやつなんだって思ったでしょ」

「……まあ、少しはね」


 別に惚れたわけじゃない。でもみんな見下してたから、風馬を少し見直したのはある。


「そっか。じゃあ早いうちに言うわ」

 うらのは「そろそろ私消えちゃいそうだし」と言いながら慌てて財布を出した。

「私鏡の世界から来たから、札束とか全部左右裏返っちゃってるの」

「は?」

 財布の中からは、明らかにこの世界では使えないだろう、左右非対称の札束と小銭が入っていた。

「え、怒ってる? ……なんか、ごめんね?」

 うらのはそう言うと舌を出した。

「お前さ……」


 やっぱうらのは殺そう。

 裏側の本音なんていらない。


 私は爪を出した。そして大量のオーブを放出した。一瞬でここら辺は冷気に包まれた。


「らの! 人間みたく生きたいんでしょ!? それは人間じゃないよ!」

 うらのは立ち上がって両手を前に出して私を止めようとする。

 しかし怪物の私にそんな言葉は耳に入らない。


「『波動の爪』」

 私はオーブを右手に集中させて、うらのの左脇腹を掴んだ。

「オ前ノ食ッタ分ハオ前ガ払エ」

「痛い痛い! ……まああれだ、らの! 自分にだけは嘘を付かないで生きてよ! あ、あと──」

 うらのはそう言うと瞬く間に目の前から消えた。

 私の右手はオーブの塊を掴んでいた。離すとそのオーブは空気に溶けていった。

 机に無惨に残された寿司の皿を私はポツンと眺めていた。


 うらのが最後言い残したことが何か私には分かる。

 何故ならば、うらのは今私の中にいるからだ。


「風馬に絆創膏のこと、ありがとうくらい言っとくか」

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