第8話

 うらのは沢山の寿司を注文し、私はパフェなどデザートを注文していた。

「らのって寿司食べないの?」

 うらのは聞いてきた。

「後で少し食べるよ。うらのは想像体なん?」

 私は聞いた。私は想像体であるため、ほとんど食事が必要では無い。

「私は普通の人間。だかららのはこう思っていいんだよ。『私の心は人間だ』って」

「そうなんだ」


 でもそれは生まれた時からか? あの日巨大な名無しの怪物として街を襲った時の私は本当に人間の心を──

「持っていたよ」

 急にそう答えられた。続けて

「らのって急に思考モード入るけど、周りからしたら急に黙ってるように見られてるから気をつけな?」

「え、ガチで」


 私はパフェに刺さっていたチョコ味のウエハースを取った。

「うらの、チョコ好きか」

「いや?」

 私は今はあまりチョコの気分では無いため、うらのに押し付けようとしたが、嫌いなものもリンクしているのか断られてしまった。

 私はウエハースを余った寿司の皿の上へ置いた。


「正直言い難いけどさ、うらのは鏡に帰った方がいいと思うんだ」

 私は言った。

「分かってる。私は本当はらのを殺して、本物のらのの代わりをするべく自我を持ったんだけどさ。想像体殺しても意味ないし、私とらのって何故か見た目が違うから、正直代わりになんてなれない。だからもう殺意は無くなっちゃったよ」

「そうか。でも私は今10%の力を持っている。人よりも強い。今私がうらのを殺したらどうなる」

「私は多分死ぬだろうね。でもいつも私はらのに殺されている」

 私が本心を押し殺していることは、確かにうらのからすれば死に値しているのか。

「それは……ごめん」

「いいよ」


 私はレーンからサーモンを取った。

「やっぱ、表側の らのもサーモン派か」

「そりゃそうでしょ。私たち、好みがほとんど一緒なんだし」

 私はサーモンを一貫口に入れた。

「そんなこと言われても、デザートを食べてから寿司食べるなんて信じられないけどね」

「んで、うらのはこっち側の世界に住みたいの?」

「もちろん。本当は寿司が好きなのに、らのが寿司屋に行ってくれないから、たまに灯が買ってくるスーパーの寿司しか食べられてない。私はやりたいことがあるのにできない」


 やりたいこと? そんなの私にはない。

 私は灯に封印されて、窮屈ながらもただ生きれればいい。いや生きれなくてもいい。ただ灯の命令通り動ければいい。

 っていうのも、私のの本音なんだろうな。

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