2 約束
第1話
授業が終わり私とカコは帰宅のため学校の駐輪場へ向かっていた。
「やっぱ、フマ君はらのちゃんが好きだと思うんだよねー」
いつもの話題だ。フマくんというのは歯机風馬の愛称である。クラスメイトのほとんどがそう呼んでいる
私の一つ後ろの席の風馬は毎日のように話しかけてくる。課題の話から雑談まで。
「はぁまたその話か。何度も言わせないでよ。私は──」
「いやでも? らのちゃんは馬鹿とは付き合いたくないって言うけどさ。意外とああいうのが一途なんだよ」
一途と言うのは、浮気をされないと言うことか。
「らのちんは自覚してないと思うけど、多分恋したら拗れるタイプだと思うの」
拗れるというのは、カコが言いたいのは「メンタルを崩す」というところだろうか。
「だから らのポンはフマ君みたいなタイプに全部受け止めてもらうのが一番なんだよっ!」
受け止めてもらうだと。この女は知らないだろうが、私は数ヶ月前にここいらで暴走したあの巨大な怪物だぞ。そんな非力な人間如きに支えらるかよ。
「ああ、わたしが らののんだったら今すぐフマ君の胸元に飛び込んでキャー(⁎˃ ꇴ ˂⁎)ッ」
一人で顔を抱えて悶え出した。てかちょっとずつ私の呼び名変わってるじゃねぇかよ。
とそんなこんなで駐輪場についた。
私は自転車の鍵を外す。4桁のパスワード「8128」にセットすると、鍵は外れた。
私は自転車のスタンドを起こし、先に校門まで行こうとしたが、どうやらカコは自転車のタイヤをずっと手で触っていた。
人が困っているときは友達であれば声をかけた方が良いと灯に教わったため足を止めた。
「どうしたの」
そう聞くと、
「パンクしちゃってるっぽいの」
と答えた。
「まじ。じゃあどうする」
「修理屋さんまで持っていくしかないね」
ということで私たち二人は歩いて自転車屋まで持っていくことになった。
この学校から近い場所にあるらしく、修理に1日くらいかかるらしいが、代車を貸し出してくれるためそこに行くことになった。
私たちは引き続き恋バナ(私が一方的に聞かされるだけ)をしながら10分ほど歩いて自転車屋に着いた。
そこそこ広く、いろんな種類の自転車が売られている。入店して左奥の受付には二人の店員がいた。私たちは自転車を押しそこへ向かう。
二人の店員のうち白髪の混じったベテランそうな店員がこちらに気づくとやってきて
「いらっしゃいませ。パンク……ですよね」
と言ってきた。
これと同時に別の夫婦客がやってきて、もう一人の若い店員がそちらの接客を始めた。カコが故障場所の説明や受付の書類の記入をしている間、わたしは無意識の夫婦客のやり取りを聞いていた。
この夫婦客の旦那さんは子供用の自転車を持ち上げており、奥さんは子供が持っていそうな犬のぬいぐるみを抱えていた。
「お客さまの自転車はもう直せなさそうなので、新しいのを買った方が……」
若店員はそう説明した。
確かに故障した子供車は前輪がとんでもなく曲がっており、車体も変形していた。私でも買い換えるべきだと思えるくらい。
しかし、妻の方が大きな声で怒り出した。
「これは、子供の大切な自転車なんです!」
と、ぬいぐるみの頭を撫でながら言った。一方夫の方は妻を静止するのでもなく同調して怒るのでもなく、軽くそして弱々しく頷いていた。
「そ、そう言われましても……直すとなると色々交換しなくてはいけなくて」
店員がそうわかりやすく説明しても、妻はヒスを起こし喚いていた。
そこでようやく夫が口を開き、
「あの、最悪乗れなくても良いんです。形だけでも……」
と優しい口振りで話した。
店員さんも戸惑っていたが、カコの対応をしていたベテラン店員が
「いいじゃないか。私がちゃんと直してやっから」
と言った。そのベテラン店員は犬のぬいぐるみを見て微笑んだ。
「かわいいですね」
ベテラン店員が言うと、さっきまで癇癪起こしていた妻も笑顔になって
「はい! ありがとうございます!」
と言っていた。その頃夫は若店員に
「先ほどは妻がすみませんでした。いくらかかっても払いますので」
と頭を下げていた。
らのはこの夫婦に対して、正直訳ありなんだろうなと思った。
二人の店員は先にこの夫婦を受付を終わらせてから、カコの対応をした。
カコは
「あれって事故ですよね」
とベテラン店員に聞いていた。
ベテラン店員は苦笑いしながらも頷いていた。
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