第4話

 灯は月見の母に月見の症状を告げた。

「これは霊的現象ではなく、精神的な疾患かと」

 灯がそう言うと、母もそう思っていたのか

「私もそうだと思っていました」

 と言った。

「今は娘に霊と対話する真似をしてもらって、月見さんと気を紛らわせようかと思っていまして」

「そうですか、ありがとうございます」

「なので、我々には何も出来なかったので、お代は頂かないです」

 灯はそう言った。

「えっ、いやそんな。相談までしてもらっちゃって」

 母親も焦って否定してくる。


「いいんです。その代わり、お線香だけでもあげさせてもらえますか?」

 そう、軽はずみに言った訳ではないこの発言が、母親の態度を一変させた。灯もこの業界にいるからわかっているはずなのだ。全家庭が仏教の葬儀を行っている訳ではないと。とは言えど、やはり多くの家庭が仏教式な訳だから勝手に決めつけてそう言ってしまった。


「うちの義母は、仏になどなりません。義母は遠くに行ったんです」

 母は震えた声で話している。

「失礼しました。勝手に仏教と決めつけてしまい、不吉でしたね」

「はい。間違えないでください。義母は今、太陽にいます」

「た、たいよ……」

 その太陽という言葉に灯は言葉を失い、失礼ながら母親に何も伝えず月見の自室に滑り込んできたそうだ。


 そして今、月見は盃を口に付けた。

「頼む! 月見ちゃん! それだけは──!」

 灯は盃を何とか取り上げたが、月見の口には少しだけ残ってしまっていたのか、彼女は喉を鳴らしながら飲み込んだ。


 私と灯には一瞬時間が止まったように感じた。間に合わなかったからだ。


 しかし灯は一瞬で切り上げて

「らの! とりあえず外に出よう! まずは俺ら2人が帰ることだ!」

 いや私は想像体だから、正直ここで殺してくれればそのまま魔導書の中まで瞬間移動するのだが。いやでも確かに体だけ消えても服や荷物はその場に置き去りにしてしまうから、荷物を増やさないためにも走って逃げるしか無いのか。


 月見は酒が口に入ったため、安らぎの儀は終了してしまい、そのままベッドに座り安らいでいた。

 私と灯は急いで部屋を出て階段を下り玄関から外に出ようとした。

「らの、先に車に戻っててくれ。車に入って周りに人が居なかったら、すぐに車の中にあるハサミで首を切れ。俺は最後にお母様と話してから車に乗る」

 灯はそう言うと私に鍵を渡した。

「分かった」

 私は玄関を開けようとしたが開かなかった。どうやら鍵が二重でされていた。私は鍵を開けて外に出た。家の中から月見の母のものと思われる奇声が聞こえてきた。

 車の鍵を開け中に入った。自殺して魔導書に戻ってて良いとは言われても、灯の安否が不安で出来なかった。

 一分程待っていると、玄関から灯が出てきて車の運転席に乗ってきた。


「らの、戻ってていいって言ったのに」

 開口一番灯は言った。

「いやいやいや、不安だって。あの母親の奇声、人を殺す時の声みたいだったし」

「奇声……? お母様はそんな大きな声は出してないぞ。でも月見ちゃんは2階で泣き叫んでた」

「え、なんで」

 一応安らぎの儀は本物なのに、何故取り乱しているのか。私には分からない。


 灯はエンジンをかけるとすぐに発進した。


「あの家庭、ぶっ壊れてる」

 灯はそう呟いていた。

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