赤編

1 呪われた写真

第1話

 私はあの冬の日怪物として街中で暴走し、重紙灯に封印されてから4ヶ月ほど経ち、5月になった。

 私は本来はあのネットで少し話題になった巨大な怪物なのだが、灯に封印され、その封印のうちの4%を解放されたことで、魔導書の外で想像体そうぞうたいとして人間のような生活をしながら活動できるようになった。あの怪物のたった4%が人にあたるというわけだ。

 想像体というのはいわば召喚のようなもので、魔導書内にいる私がオーブを用いた魔力を使って外部に人型のものを召喚しているということになる。想像体は本体ではないから、いくら想像体の私を殺しても、魔導書から復活できる。また魔導書の一定の範囲内でしか形状を維持できない。


 私はこの想像体として外部で生活する権利と、想像体の若さが人間の15歳の女に対応しているため、灯の特殊なルートで戸籍を得て、定員割れの高校に二次募集で受験し入学した。

 怪物としては生後三ヶ月だが、私の知能と神経は人間の平均よりも上の精度となっているようだ。


「らの。今日は早く帰ってこいよ」

 火曜日の朝、スーツを着た灯は私にそう言った。

 私は鏡を見ながら制服のリボンをつけていた。


 名の無き私に灯は同じ苗字の「重紙」に「らの」という名前をつけてくれた。

 灯は27歳のメガネをかけた細身の男だ。一般的な27歳男性にしては顔立ちが整っているが、あまり女性との関わりがないのか色恋の匂いは感じられない。


 どうやら人間社会では人同士を区別することが必須なようで、名前というのは大事なものらしい。


 ということで、学校へ行くため玄関を出た。家へ出るとクラスメイトの崎野さきのカコが自転車にまたがり家の前で待っていた。

「お待たせ」

「いいよ! 全然待ってない!」

 私は入学してから周りの人間と馴染まなかったが、それでも話しかけてくれたカコとはよく話すようになり、会話していくうちに学校が近いこともわかり、一緒に登下校するようになった。カコは入学してすぐにクラスの人たち打ち解けて、クラスの中でも人気な子である。実際私も授業で二人ペアを作るときはカコに助けられているため、学校生活で必要な存在である。

 今向かっている学校名は「金桃高校」 ここは私立校であり偏差値も一番下ではないがそこそこ低い。そんな学校に到着すると、1-4組のクラスに入り自分の席に着く。


 荷物を置き落ち着いていると後ろから肩を二回突かれた。後ろを向くと、同じクラスメイトの男子から話しかけられた。

 彼の名前は歯机はづくえ風馬ふうま。低身長のバスケ部のバカだ。身長が低いのに試合運びとジャンプ力が高く、バスケ部のレギュラーメンバーらしい。どうやら身長が170cmいっていない男性は人権がないらしいが、彼はその中でもバスケにおいては重宝されているため低身長で人権があるという稀な人物だろう。


 と言う訳で、私は返事をすることにした。

「何」

「重紙さん! お願いがあるんだけど……!」


 火曜日は1時間目に英語の授業があり、毎週小テストを行うため、前日までに小テスト対策の課題をやらなければならない。もちろん私は終わらせた。放課後遊ぶ友達はいないし、家にゲームがないから暇なのだ。

 このタイミングで風馬が何か焦りながらお願いをしてくるのは、どうせその課題を写させてほしいのだろう。


「はいよ」

 私は小テスト対策の課題の紙を出して渡した。

「うわっ。重紙さん神」

 風馬はそれを受け取ると手書きでコピーし出した。

 これが毎週の繰り返しである。

「お前さ、自力でやってきなよ」


 私は馬鹿が嫌いだ。故に説教したくなってしまう。しかし、想像体で人間として学校に通いながら多くの人と関わって気づいたことがたくさんある。その中の一つに、「バカは何を言ってもバカ。助けてやってもバカ」である。だから今みたいに説教しても意味がないのだ。


 私は教科書を出し、授業の準備をした。

 こんな繰り返すだけの日常が、意外と自分にとっていろんな出会いがあり、退屈はしなかった。

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