第4話 狼な幼馴染と輝きの花
ゆっくり、ゆっくり、足を進めていく。
崖の土肌に手をつきながら、横歩きだ。まだこの辺は道の幅も三十センチくらいあるから、ここまでする必要もないのかもしれないけど。でも少しでも下を見たら、岩がゴツゴツした場所で、波がジャブンジャブンしている。
実際、わたしの後ろをついてきている来牙くんは普通に歩いている。
「もう諦めて戻ったら?」
「絶対に諦めないもんっ!」
来牙くんに向かって叫ぶことで、自分に言い聞かせる。
絶対に来牙くんに悲しい思いなんてさせてたまるか!
わたしが来牙くんのお父さんを助けるんだ!
「てか、来牙くんこそなんでついてきてるの⁉」
「だっておまえ一人じゃ、他の花と間違えそうじゃん(心配で待ってなんていられるかよ)」
心配してくれるのは嬉しいけれど、実際来牙くんは大人のお兄さんくらいに身体が大きいのだ。今は大丈夫かもしれないけれど、道はどんどん細くなっていく。どのみち最後まで一緒に行くことはかなわないだろう。
それでも嬉しいと思ってしまうのは、やっぱりわたしが来牙くんのこと好きだからかな?
「さっきちゃんとリュコスさんが教えてくれたから!」
目的の輝きの花は、その名の通り花弁が青く光っているらしい。チューリップのようにつぼみみたいな形をしているということで、その中に溜まった蜜が薬になるというのだ。
それでも、来牙くんはギリギリまでついてきてくれるみたいだから……わたしはその優しさに甘えて、雑談で恐怖を紛らわせることにした。
「ところで、このアニマルフィア? に来てから、来牙くんたちの声が二重に聞こえる時があるんだけど、それも来牙くんたちが獣人さんだから?」
「それは……」
だけど、あっという間に来牙くんが口を閉ざしてしまう。
その様子が気になって足を止めてみた時だった。
「あぶないっ!」
いきなりビュンッと風が吹いた。思わず勢いのまま足を滑らせてしまうかと思ったけど……とっさに距離を詰めた来牙くんがわたしを守るように背中から守ってくれたおかげで事なきを得る。
わたしはホッと安堵の息を吐いた。
「ふぅ~、危なかったね~」
「危なかったじゃないっ‼」
その強い怒声に顔を上げれば、崖肌に来牙くんのとても鋭い爪が食い込んでいた。
そのまま後ろに顔を向ければ、来牙くんの瞳が金色に輝いている。そして頭の上には狼のような三角でフサフサの耳がぴょこんとついていた。
えっ、もっと後ろを見たら、モフモフの黒い尻尾まで生えてる?
「わわわっ、来牙くん……かわいい……‼」
「いや、だから可愛いじゃ……あぁ、くそ。調子が狂う……(普通、怖いって思うんじゃねーのかよ)」
怖い? そうかな?
でも別にその爪をわたしに向けてくるわけじゃないよね?
「そのお耳、モフモフしていい?」
「ダメ」
わたしの伸ばしかけた手を元に戻して、来牙くんが「やれやれ」とため息を吐いた。
「聞かれる前に答えるけど、俺、興奮するとこうして半獣人化しちゃうんだ。尻尾まで生えることなんて滅多にないけど……でも目の色はすぐ変わりやすいから、少しでも誤魔化すために眼鏡をかけていて……」
「眼鏡の来牙くんも、眼鏡のない来牙くんも両方ステキだと思うよ!」
「そういう問題じゃないだろ、もう……」
えぇ? でもお父さんが狼さんなんだから、そのくらいの特徴は必然なんじゃないかなぁ、と思うのだけど……そうでもないのかな?
「ほら、さすがにこの先俺は行けないから、行ってこい!」
顔を真っ赤にした来牙くんに、すごく優しく背中を押される。
うん、あたらめて半獣人化した来牙くんを見ても……やっぱりかわいいや。
「それじゃあ、頑張ってくるね!」
「前を向け!」
来牙くんに手を振っただけなのに、もう怒られちゃった。
(本当……俺を可愛いなんて言うの、今まで母さんだけだったのに)
でも背中から聞こえる来牙くんの二重の声は、少し嬉しそうだったから。
わたしは恐怖に臆することなく、無事に崖の中腹にある洞穴まで到達できた。
「うわぁ……」
その中には、たしかにぼんやりと光った青いチューリップが一面咲き乱れていた。光のお花畑なんて、すっごくロマンチック。できることなら、来牙くんと一緒に見たかったな~、なんて。
「――と、そんな場合じゃないよね!」
気を取り直したわたしは、リュコスさんから預かっていた小瓶を取り出す。量は少しでいいみたいだから、そっと一本のお花を傾けて、たらーりと甘そうな香りのする蜜を垂らして。
これでノルマ達成だ!
「よし、戻ろう!」
わたしが洞穴を出ると、来牙くんはさっきの場所でじっとわたしを待ってくれていた。もう狼の耳や尻尾は消えちゃったみたい。
そんな来牙くんに「おーい!」と手を振れば、「さっさと戻ってこい!(怪我はないか? 薬は?)」と、表向きは怒られてしまうらしい。
わたしは自慢げに小瓶を掲げて、にんまり笑ってみせた。
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