第40話 14日目(金) 十色市旅行編⑨

 しゃんしゃん祭りは終盤に差し掛かった。

「そろそろ花火が上がる頃ですね」

「そうなの!?」

「はい。二十時四十五分からと書いてあったので」

「今は、二十時四十分だから後五分後ね」

「花火楽しみ~!」

「楽しみだな」


 花火を見るのはいつ以来だろうか。

 母は花火もよく撮っていたので、子供の頃は毎年いろんな花火大会に連れて行かれていた。

 当然、母が亡くなってから花火大会には一度も行っていない。


「早く花火上がらないかな~」

「待ち遠しいですね」

「三人は去年も見たのか?」

「見に行きましたよ」

「三人で?」

「三人で行ったわね」

「大丈夫だったのか?」


 三人で行ったってことは誰も守る人がいなかったってことだ。

 きっとたくさんナンパをされたことだろう。


「櫂が考えてるようなことはもちろんあったわよ。まぁ、全部無視したけどね」

「そうなのか?」

「だって、何度も何度も鬱陶しいんだもん」

 アリスは苦笑いを浮かべた。


「まぁ、今はその必要はないけどね。櫂がいるから♡」

「そうだな。ちゃんと守るよ」

「うん♡ 守ってもらう♡」

 アリスが満面の笑みを浮かべたその時、ひゅ~っという音が聞こえ、夜空に大きな花火が上がった。


「花火始まった~!」

「綺麗ですね」


 一発目の花火を皮切りに赤、青、黄色、緑、色とりどりの花火が次々と夜空に上がっていく。

「花火ってこんなに綺麗だったんだな」

「もしかして花火見るの久しぶりなの?」

「だな。二、三年ぶりかな」

「そうなんだ」


 久しぶりに見た花火は本当に綺麗だった。

 この三人と一緒に見ているから余計にそう思うのかもしれない。


「あ~! 猫だよ! 猫! 猫の花火!」

「ですね」


 夜空に猫の形をした花火が上がった。

 猫以外にもいろんな形の花火が上がっていた。

 母がいたらきっとカメラを構えて写真を撮っていただろう。

 俺は試しに自分のスマホで花火を撮ってみたが母の撮った写真のように上手に撮ることはできなかった。


「上手に撮れるようになりたいな」

 俺はボソッと呟いた。

「何をですか?」

 有紀に聞こえていたようで聞いてきた。


「ん、写真」

 俺は今撮った花火の写真を有紀に見せた。


「写真の練習しようかな」

「いいじゃないですか。素敵だと思います」

「有紀がそう言うならやろうかな」

「いいんじゃない? ここに被写体が三人もいるんだから。それに櫂、やりたいことないんでしょ? これを機にやりたいことになるんじゃない?」

 話を聞いていたアリスが賛同してきた。


「たしかにそうですね。櫂君に写真を撮ってもらいたいですし、撮ってもらったら思い出になるからいいですね」


 それを聞いてアリだと思った。

 どうせ今のところやりたいことはないし、三人との思い出を残すことが出来るのならやってみてもいいかもしれない。 


「じゃあ、この旅行が終わったら始めてみようかな」

「いいと思います。一緒にカメラを買いに行きましょう」

「そうだな」


 思いもよらないところで、思いもよらないことが決まった。

 たぶんやりたいことってこうやって決まるんだろうなって思った。

 


☆☆☆


 花火は終盤に差し掛かった。


「そろそろフィナーレかな!?」

「じゃないか?」

「時間的にそうですね」


 残り時間はあと五分。

 花火大火のフィナーレは一番の見どころだ。

 ラストに向けて次々と花火が夜空に上がっていく。 


「フィナーレ来た!」 

 彩海が歓喜の声を上げて夜空を指差した。

 夜空を埋め尽くすほどの花火はとても綺麗だった。

 フィナーレはあっという間に終わった。 


「花火終わっちゃた~」

「終わってしまいましたね」

「終わったわね」

「終わったな」

「あっという間だったなぁ~。もっと見たかった~」

「また見に行きましょう」

「絶対に行こう~!」

「行きましょうね」

「そうね」

「そうだな」


 俺たちは四人で指切りをして約束を結んだ。

 こうして三人との約束が増えていくのは嬉しいことだ。

 この約束が守れるようにしたいと思った。


「それじゃあ、私たちも旅館に帰りましょうか」

「そうだな。最後まではぐれないようにしろよ?」

「は~い!」

「大丈夫です。彩海ちゃんとしっかりと手を繋いでおくので」

「帰るまでが遠足ってやつね」


 そう言ってアリスは俺の手を握ってきた。

 彩海と有紀を先に歩かせて俺たちは旅館に向かった。


「旅行も明日で終わりね」

「そうだな」

「楽しかった?」

「楽しかったよ。楽しかったからあっという間だったな」

「ね。あっという間だったよね」

「なんだか寂しいな。明日はもう帰るだけだし」

「そうね」

「本当に楽しかったな~」 


 この二日間の思い出が俺の頭の中に蘇った。 

 本当にあっという間の二日間だった。

 海に行って、温泉に入って、花火を見て、最高の二日間だった。

 三人と一緒に来ることが出来て本当によかった。


「三人ともありがとうな」

「こちらこそですよ。ありがとうございます。櫂君と一緒に旅行が出来て嬉しかったです」

 有紀が後ろを振り向いて言った。


「ほんとそれ! めっちゃ楽しい二日間だった! この四人で旅行に来れて本当によかった~!」

「そうね。櫂、次はどこに行きたい?」

 アリスが聞いて来た。


「次か。三人とだったらどこに行っても楽しいんだろうな」

 次にどこに行きたいかは決まっていないが、それだけは確定している事実だ。


「またみんなで話し合って決めましょうね」

「そうだな」


 帰り道でも何事もなく無事に旅館に到着した。

 旅館に帰って来た俺たちはこの旅行最後の温泉に入った。

 俺たち四人での初旅行は最高の思い出として一生心に刻まれることとなった。


☆☆☆


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