第36話 13日目(木) 十色市旅行編⑤
コッペパンを買った俺たちは旅館に戻った。
「いらっしゃいませ〜。あ、お昼の! おかえりなさい」
俺たちを出迎えくれたのは荷物を預けた時に出迎えてくれた人と同じ人だった。
「ただいまです」
「海はどうでしたか?」
「めっちゃ楽しかったです!」
「それはよかったですね。では、早速お部屋の方へご案内させていただきますね」
「よろしくお願いします」
「と、その前に温泉のご説明をしないとですね」
ごめんなさい、と可愛く笑った女性(多分この人はこの旅館の若女将)は俺たちを温泉へと案内した。
温泉は本館とは別の別館にあった。
「こちらの青いのれんが男性用、赤いのれんが女性用になります。そして、こちらの緑糸ののれんは貸し切り温泉となっております。他のお客様が使っていない時は時間内であればいつでもお使いしていただいて構いません」
「予約とかはしなくてもいいんですか?」
「はい。予約は必要ありません。なので、ご利用の際には扉にかかっている札を使用中に変えていただき、中から鍵をかけていただくようにお願いします」
「分かりました」
「温泉の説明は以上となります。では、今度こそお部屋の方にご案内いたしますね」
「よろしくお願いします」
俺たちは若女将さんの後をついて行った。
「お客様。本日のご夕飯の時間ですが十八時、十八時半、十九時と選べますが何時になさいますか?」
「何時にしましょうか?」
「いろいろ食べてお腹いっぱいだから十九時でいいんじゃない?」
アリスの提案に俺と彩海は賛同した。
「では、十九時でよろしいですか?」
「はい。十九時でお願いします」
「かしこまりました」
長い廊下を歩いていると二階に続く階段の前に到着した。
「ご宿泊のお部屋をご案内する前にご夕食のお部屋をご案内させていただきますね」
「お願いします」
夕飯の部屋は「梅」というところだった。
夕飯の部屋を案内された俺たちは階段を上り二階に上がった。
俺たちが泊る部屋は二階だった。
「本日こちらの扶桑というお部屋になります」
案内されたのは和室だった。
「素敵な部屋ですね」
「ありがとうございます。浴衣、アメニティー、バスタオルはクローゼットの中にございますのでご自由にお使いください」
「分かりました」
「それではごゆっくりどうぞ」
若女将さんは俺たちにルームキーを渡すとペコっとお辞儀をして一階に戻って行った。
俺たちは靴を脱いで部屋の中に入った。
「広~い! 布団も敷いてあるじゃん!」
部屋に入るなり彩海はそう言って布団にダイブした。
「ふかふかだ~」
「どうする? 温泉入りに行く?」
「行きたい~! 貸し切り温泉空いてるかな~!」
「さっきは誰も入ってなかったから、まだ誰もいないんじゃない?」
「じゃあ、他の人が入る前に行かないとだね!」
「そうですね。とりあえず、浴衣に着替えてから行きますか?」
「そうね。浴衣に着替えましょうか」
アリスがクローゼットから四人分の浴衣を取り出した。
男性用はシンプルな青色の縞模様の浴衣で、女性用は花柄が描いてあ赤色の可愛らしい浴衣だった。
「可愛いじゃん!」
彩海はバッと服を脱いで下着姿になった。
彩海は相変わらず赤色の下着を着ていた。
(エロ過ぎる……)
「浴衣って、ブラジャー着けたままでいいの?」
「人によるんじゃない? つけたまま着る人もいるでしょうし、裸のまま着る人もいるでしょ」
「二人はどうするの?」
「私は裸で着るわ」
「私はつけたまま着るつもりです」
「え~。私はどうしよう~。櫂はどっちがいい?」
「彩海の着やすい方でいいんじゃないか」
「じゃあ、裸で着よう~っと!」
そう言って彩海は下着も脱いで裸になった。
彩海の裸を見て、海からずっと我慢していた俺の理性の糸はプツンと切れた。
俺は彩海の側に行き、彩海の綺麗な形で柔らかなおっぱいに顔を埋めた。
「か、櫂!? いきなりどうしたの!?」
「あら、限界が来ちゃったみたいね♡」
「そうみたいですね♡」
「私たちも脱ぎましょうか♡」
「そうですね♡」
アリスと有紀も服を脱ぎ、下着を脱いで裸になった。
☆☆☆
一時間ほどイチャイチャして汗をかいた俺たちは温泉に向かっていた。
「貸し切り温泉空いてるかな~」
「どうでしょうね」
「誰かさんが我慢できなかったせいで遅くなっちゃタものね」
「ごめん」
「別にいいんだけどね。私も海からずっと我慢してたし」
「夕ご飯を食べたらまたしましょうね?」
「そしたら、また温泉に入らないといけなくなると思うんだが?」
「いいじゃないですね。朝の八時まではいつでも温泉に入ってもいいとあの女性の方も言っていましたし、汗をかいたら温泉に入るだけです」
「それはそうね」
どうやら今日は部屋と温泉を行き来することになりそうだ。
温泉に到着した。
「あ~。残念。貸し切り温泉は使用中だ~」
「みたいですね。どうしますか?」
「待ってもいいけど、今使っている人がどれくらいで上がるか分からないものね」
「そうですね。夕飯の時間まであまり時間がありませんし、今は諦めて別々に入りますか?」
「そうだな。三人と一緒に入りたかったけど仕方ないな」
「私も一緒に入りたかったですけど仕方ありませんね」
「まぁ、いいじゃん! 後一日あるわけだし、そのうち入れるでしょ!」
「そうね。じゃあ、櫂。また後でね」
「あぁ、また後でな」
三人と分かれて、俺は青いのれんをくぐった。
下駄箱に何足かのスリッパがあった。
スリッパを脱いで下駄箱に入れて更衣室に向かった。
俺は服を脱いで棚に備え付けられていたカゴの中に入れた。
部屋から持ってきたアメニティーの中からタオルを取り出して温泉の扉を開けた。
扉を開けた瞬間、もわっとした熱気が中から抜け出してきた。
中に入り、左側のシャワーがあるところに向かい椅子に座った。
一応、向こうでもシャワーを浴びたが髪の毛がまだベトベトしていたので、髪の毛をしっかりと洗った。
頭と体を洗い終え、温泉に浸かることにした。
まずは足先で温度を確かめた。
(結構熱いな)
温泉だから当たり前だがかなりの高温だった。
足からゆっくりと浸かり、体に湯をかけ、体を温度に慣れさせてから首元まで完全に浸かった。
「ふぅ~。気持ちいい~」
今日一日の疲れが取れていくようだった。
「楽しかったな」
まさかこんなことになるなんて二ヶ月前の俺は想像もしていなかっただろうな。
あの日、彩海に傘を貸さなければ誰かと一緒にゲームをする楽しさを思い出してはいなかっただろうし、今日が終わるのが寂しいと思うこともなかっただろうし、明日が来るのが待ち遠しいと思うこともなかっただろう。
俺の人生は三人によって変えられてしまった。
心の底から三人と出会えてよかったと思っている。
「ずっと一緒にいたいな」
俺は三人との思い出を思い出しながら数分温泉に浸かっていた。
☆☆☆
温泉から出た俺はベンチに座って三人が出てくるのを待っていた。
「お待たせしました」
一番目に温泉から出てきたのは有紀だった。
艶やかな黒髪がいつも以上に艶やかになっている。
そして何より温泉上がりの色気がヤバい。
浴衣というのもその色気を醸し出しているのに一役買っている。
普段もお風呂上りも色っぽいのだが、浴衣姿だとより一層、色気が増している気がする。
「どうかしましたか?」
「いつも以上に色っぽいなと思って……」
「ふふ、温泉のおかげですかね」
「まぁ、いつも色っぽいけどな」
「ありがとうございます。櫂君にそう言われるのは嬉しいです」
有紀は嬉しそうに笑うと俺の隣に座った。
俺と同じシャンプーの香りが漂ってきた。
「ここの温泉のシャンプーいい匂いだよな」
「ですね」
「他の二人は?」
「まだ温泉に浸かってます」
「そうなんだ」
「はい。私は耐えられなくて先に上がりました」
「温泉熱かったよな」
「熱かったですね。おかげで肌が真っ赤です」
見てください、と有紀は浴衣の袖を上げて肌を見せてきた。
有紀の言う通り普段は真っ白な肌が真っ赤になっていた。
「でも、気持ちよかったですよね」
「そうだな」
「櫂君はお風呂上りにお水を飲みましたか?」
「飲んでないな」
「飲んでおいた方がいいですよ」
そう言って立ち上がった有紀はすぐ隣に備え付けられていたウォーターサーバ―で二人分の水を入れて、そのうちの一つを俺に渡してきた。
「ありがとう」
「そろそろ上がってきますかね。あの二人」
「かもな」
この旅館には庭があって、俺たちが座っているベンチから庭を一望することができた。
庭はライトアップされていて美しかった。
「綺麗ですね」
「綺麗だな」
「こういうまったりとした時間もいいですよね」
「そうだな」
「櫂君。キスしてもいいですか?」
有紀が少し照れくさそうな顔でそう言った。
今、ここには俺たち以外に誰もいない。
いつ人が来るか分からないし、温泉から出てくるか分からないが、有紀からのおねだりを拒むことはできなかった。
「いいけど」
「ふふ、ドキドキしますね」
「そうだな」
「誰かに見られたどうしましょう」
「今は誰もいないから大丈夫だろう」
俺はもう一度周りを確認してから有紀の唇にキスをした。
その瞬間、後ろから「うわぁ!」と抱き着かれた。
「彩海ちゃん」
「おい、ビックリさせるなよ。心臓が止まるかと思ったろ」
俺に抱き着いたのは温泉から出てきた彩海だった。
「あはは、櫂と有紀の会話が聞こえたから隠れてたんだよ~!」
「そんなことするなよな」
「邪魔しちゃ悪いと思って」
「絶対に思ってないだろ」
「バレた?」
彩海は舌を出してウインクをした。
「で、アリスは? まだ入ってるのか?」
「もう出てくるよ~。今、髪乾かしてるから」
彩海の言う通りアリスはすぐに出てきた。
温泉に入ってさっぱりした俺たちは夕食会場の部屋に向かった。
☆☆☆
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