第33話 13日目(木) 十色市旅行編②
バスに揺られること三十分。
十色海岸付近のバス停に到着した。
「到着~! わぁ~! 海綺麗~!」
「ほんとですね」
「ねぇ! 早く行こうよ! 海に入りたい!」
「そうですね。行きましょうか」
「そうね。じゃあ、櫂。私たちは着替えてくるわね」
「あぁ、俺も着替えてくる。また後でな」
「うん! また後でね~」
それぞれ着替えをするために一旦分かれて、海岸に設置されていた更衣室の中に入った。
(海岸に更衣室が設置されているのはいいな)
俺は空いているロッカーを探して着替えを始めた。
水着はもちろん三人と一緒に買いに行った時に勝ったやつだ。
その水着に着替えて、必要な物だけ持ってロッカーのカギを閉めると俺は更衣室を出た。
まだ誰も更衣室から出てきてなくてホッとした。
十色海岸にはたくさんの人がいた。
中には男だけで海に来ている人たちもいる。
すべてがすべてそうだとは思わないが、警戒しておくには越したことはない。
「櫂~。お待たせ~」
「お待たせしました」
「お待たせ」
更衣室からラッシュガードを着た三人が出てきた。
「ちゃんとラッシュガードを着てるな」
「当たり前でしょ。着なかったら誰かさんが嫉妬しちゃうじゃない」
「ふふ、そうですね」
「安心して、ちゃんと櫂が選んでくれた水着をこの下に着てるから♡」
そう言ってアリスはラッシュガードのチャックを下ろして、中に着ていた俺が選んだ黒色の水着を見せてきた。
「お、おいっ! 早くチャックを上げろ!」
「大丈夫よ。誰も見てないから。ほら、好きなだけ見ていいのよ? 見ないの?」
アリスは誘うような視線と口調、そしてポーズをした。
前屈みになり谷間を俺に見せてきている。
俺だって男だ。
ここまでされたら我慢できなくなる。
でも、今は我慢だ。
俺はアリスのラッシュガードのチャックを上げた。
「見たいけど、今はやめとく。海どころではなくなりそうだなからな」
「それはそうね。それにシようにもこれだけ人がいては無理ね」
探せば岩陰とか、人気のないところがあるかもしれないが、別に海でシなくても旅館ですればいい。
「でも日焼け止めクリームは塗ってもらうけどね♡」
「まぁ、それくらいなら……」
「ありがと♡」
「それでは櫂君に日焼け止めをもらうために座れる場所を探しましょうか」
「そうね」
「レッツゴ~!」
俺たちはあまり人がいなくて座れそうな場所を探した。
そして、見つけた場所に大きめのレジャーシートを敷いて場所取りをした。
「さぁ、櫂。私たちに日焼け止めを塗ってくれるかしら」
アリスは俺に日焼け止めクリームを渡してきた。
三人はラッシュガードを脱いで水着姿になるとレジャーシートの上にうつ伏せで寝転がった。
「櫂~。よろしくね~」
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
目の前に広がる目のやり場に困る光景に目を逸らしたくなったが、早く塗って三人の水着姿を公衆の面前に晒す時間を終わらせなければ、いつナンパされるか分かったもんじゃない。
俺は手に日焼け止めクリームを出した。
「櫂は誰から塗るのかなぁ~」
「そうよね。そこ大事よね」
「そうですね。誰が櫂君に一番愛されているのかが分かりますね」
「そんなこと言われたら塗りにくいんだが? 普通に右から塗っていこうと思ってたんだけど……てか、誰が一番なんて決められないって。全員が一番なんだから」
三人とも同じくらい愛している。
だから一番なんか決められない。
「そう言うと思ったわ」
「ですね。櫂君は優しいですからね」
「だね~」
三人は笑い合った。
どうやら俺は三人にからかわれたらしい。
今、俺の前には無防備な三人がいる。
つまり、からかわれた仕返しをすることが可能ということだ。
俺はニヤッと笑って手に出した日焼け止めクリームをアリスの背中に塗った。
「あん♡ ちょっと……いきなり♡ あん♡」
アリスの背中に日焼け止めクリームを塗りまくる。
俺が手を動かすたびにアリスは小さな声で喘ぎ声をあげていた。
「からかった仕返しだ」
「もう~♡ いいわよ♡ 櫂の好きなだけ触って♡」
仕返しのつもりがアリスを喜ばせている気がしている。
しかし始めてしまったからには途中でやめることはできない。
さっさと終わらせて三人にはラッシュガードを着てもらおう。
「てか、ラッシュガードを着てるのに日焼け止めクリーム塗る必要あるのか?」
「分かってないわね。カップルで海に着たら彼氏が彼女に日焼け止めクリームを塗るのは定番シチュエーションでしょ♡」
「そういうもんなのか?」
あいにく、海に来たのは今日が初だし、彼女なんてこれまでにできたことがないので、カップルがどんなことをするかなんて知らない。
そもそも俺たちはまだ恋人ではなくゲーム友達なのだが……。
「そういうもんなのよ。ほら、早く全身塗って♡」
それから俺はアリスの全身に日焼け止めクリームを塗って、同じように彩海と有紀にも日焼け止めクリームを塗った。
☆☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます