第31話 12日目(水) 有紀の両親との顔合わせ②

「凄い……」

 天笠家のゲーム部屋に入った俺は思わずそう声を上げた。

 天笠家のゲーム部屋は俺の家のゲーム部屋の何倍もの広さがあった。

 まず目につくのは真正面にある壁にかかった大型の薄型テレビだ。

 おそらくいま販売している薄型テレビの中で一番大きなサイズなのだろう。

 その薄型テレビの隣にはガラス張りの棚が置いてあり、中には超激レアなゲーム機から最新のゲーム機まですべて並んでいた。 

 それだけでも圧巻なのに右の壁際には俺の家の何倍ものゲームソフトが遊べる機種ごとにずらりと並んでいて、左の壁際には何台ものゲーミングパソコンが並んでいた。

 その光景はゲーマー好きからしたら絶景だった。


「ふふ、凄いでしょ?」

「あぁ、凄いな」

「いつでも遊びに来てくれていいのよ? 京堂君ならいつでも大歓迎なんだから~」

「ありがとうございます」


 しばらく有紀と一緒にゲーム部屋を見て回っていると雅紀さんが「準備できたぞ~」と言って俺たちを呼んだ。

 俺たちは大型液晶テレビの前に設置されていた大きなソファーに座った。

 並び順は右から俺、有紀、結奈さん、雅紀さんだ。 


「チーム分けはどうしますか?」

「それは当然、私と雅紀さんチーム対有紀ちゃんと京堂君チームじゃない?」

「そうだね。KAI様と戦えないと意味がないからチーム分けをするならそのチームだね」

「分かりました。櫂君。頑張りましょうね」

「あぁ」


 俺たちがプレイするゲームはマ〇オパーティーだ。

 パーティーゲームの中ではこのゲームが一番有名だろう。

 俺が子供の頃からあるゲームで、よく両親と一緒にやっていた。

 最新のス〇ッチ版のマ〇オパーティーは初見だが、ある程度は昔にやっていたやつと同じだろう。

 ステージはランダムで選択して、俺たちは各自使うキャラを選択した。

 まずはサイコロを振って順番を決める。

 一番大きな数字を出した人から一番だ。

 サイコロを振った結果、一番は有紀となった。

 有紀、結奈さん、雅紀さん、俺という順番でゲームがスタートした。


「まずはコイン集めでいいですよね?」

「そうだな。スターを取るにもコインを集めないといけないからな」


 このゲームは最終的にスターを多く持っていた人が勝者となる。 

 もしもスターが同じ数ならコインの枚数で決まる。

 スターを獲得するにはコインが必要だ。

 だから、このゲームに勝つにはいかに効率よくコインを集めて、最短ルートでスターを獲得できるかがカギとなる。

 コインを集める方法はいくつかある。

 青いマスに止まる、ミニゲームに勝つ、相手プレイヤーから奪うなどなど。

 ミニゲームは各ターンの終わりに行われる。

 有紀は青いマスに止まることを狙ってサイコロを振った。

 サイコロで出る目は運だが、有紀は見事に狙い通りの目を出し、青いマスに止まってコインを十枚獲得した。


「有紀ちゃん。やるわね~。私も負けてられないわね」

 そう言って結奈さんがサイコロを振った。

 有紀に対抗するように結奈さんも青のマスに止まれる目を出していた。


「ふふ~ん。私もコインゲットね♪」

「やりますね。お母様」

「二人に負けられないからね~」

「僕も負けてられないね」


 雅紀さんも二人とは違うマスだが青のマスに止まってコインを獲得していた。

 サイコロの出目は運で決まるはずなのに三人ともしっかりと青のマスに止まってコインを獲得しているのが凄い。


「次は櫂君の番ですよ」

「俺も青のマスに止まらないとだよな」


 俺はサイコロを振った。

 俺は青のマスには止まることはできなかったが、代わりにコインを獲得するチャンスがあるミニゲームマスに止まった。


☆☆☆


 ゲームは進み残り二ターンとなっていた。

「このスターを取った方が勝ちだね」

「そうですね。絶対に私たちが獲得します」

「それはどうかなぁ~。私がスターに一番近いからね~。取っちゃうよ~」


 結奈さんの言う通り、今スターに一番近いのは結奈さんだった。

 次のサイコロで五を出すことが出来ればスター獲得だ。

 仮に結奈さんが五を出せなかった場合、次にスターに近いのは有紀だ。

 有紀は結奈さんの一マス後ろにいるので、六を出すことが出来ればスターを獲得することが出来る。

 その次は俺、雅紀さんとなっていて、俺と雅紀さんは最低でも後二回はサイコロを振らないとスターを獲得することは出来ない。

 このゲームにはアイテムというものがあるのだが、すでに全員アイテムを使い切っていた。

 つまり、後は完全に運任せだ。

 結奈さんが五を出すか、有紀が六を出してスターを獲得するか、それとも俺と雅紀さんが次のターンでスターを獲得するか、それとも誰も取れずにゲームセットとなるかの三択だ。

 なぜなら、残り二ターンでゲーム終了となるからだ。


「それじゃあ、いくわよ~」

 結奈さんがサイコロを振った。


「あ~ん。残念。通り過ぎちゃったわ」

 結奈さんの出目は六でスターを通り越してしまった。


「残念でしたね。お母様。スターは私がゲットしますね」

「きっと有紀ちゃんも無理よ。一が出るわ」

「いいえ、私は六を出します。もし今回ダメでも私は通り過ぎたお母様と違ってもう一度チャンスがありますから」


 こんな感じで有紀と結奈さんと雅紀さんはゲーム中ずっと煽りあっていた。

ゲームをしている三人は楽しそうだった。

 家族であり、ゲーム友達。三人の煽り合いの様子を見ているとそんな感じがした。

 きっといつもこうやって三人で楽しくゲームをしているんだろうな。

 そんな姿が容易に想像できた。


「それではサイコロを振ります。絶対に六を出して私がスターを取ります」

 えいっと有紀はサイコロを振った。


「やりました! 櫂君! 六です!」

「やったな」

「はい!」


 見事、六を出すことが出来て嬉しそうな有紀は満面の笑みを浮かべて抱き着いてきた。

 有紀のキャラクターが六マス進み、スターを獲得して横並びだった順位から一つ抜け出し一位になった。

 次のスターの位置が発表された。

 どうあがいても誰も二ターンで獲得するのは無理な位置だった。

 つまり、この時点で有紀の勝利が確定したことになる。


「私たちの勝ちですね! 櫂君!」

「そうだな」

「負けちゃったわね~」

「そうだね。悔しいけどKAI様と一緒にゲームができて僕は楽しかったよ」

「そうね。楽しかったわね。有紀ちゃんの可愛いところも見れたし、私は大満足よ~」

 雅紀さんが立ちあがって俺の前にやって来た。


「櫂君」

「はい」

「まさかこんな夢のような時間が過ごせる日が来るとは思ってなかったよ。本当にありがとうね」 

「いえ、俺はそんなたいそうな存在じゃないので、言ってくれればいつでもゲームをしに来ますから」

「本当かい!?」

「はい」

「嬉しいよ! 勝負に負けてしまったからね。これからも有紀のことをよろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いします」


 俺は立ち上がると雅紀さんに向かって頭を下げた。

「もし有紀のことを泣かせるようなことがあったら、その時は容赦しないからね?」 

 雅紀さんは笑顔でそう言ったが目だけは笑っていなかった。


「は、はい……」

「もぅ、お父様! 櫂君のことを怖がらせないでください!」

 有紀はぷくぅっと頬を膨らませた。


「櫂君に何かあったらお父様とは絶交ですからね」

「それは嫌だね。有紀に絶交されたくないから気を付けるよ」

「気を付けるじゃなくて、何もしないでくださいね」


 完全に親と子の立場が逆転していた。

 有紀に怒られた雅紀さんはしょんぼりとした顔をしていた。

 俺としては安全が確保されたので有難いことなのだが、しょんぼりしている雅紀さんのことを見ているとなんだか申し訳ない気持ちになった。


「雅紀さん。約束します。有紀のことを傷つけることは絶対にしません。だから、そんな顔をしないでください」

「そうだね。きっと櫂君なら有紀のことを幸せにしてくれるだろうね。なんたって櫂君はKAI様だもんね」

「別にそれは関係ないと思いますけど、必ず幸せにすると約束します」

「約束だからね」

「はい」 


 俺は雅紀さんと指切りをした。

 この約束は絶対に破らないし死ぬまで守り向くと誓う。


「有紀ちゃん。よかったわね~。愛されてるわね♪」

「そう……ですね」


 有紀はこれでもかと顔を赤くしていた。

 雅紀さんとのやり取りを思い出して俺も恥ずかしくなった。

 さっきのはまるでプロポーズだ。

 有紀の両親の前で有紀に公開プロポーズをしたも当然だった。


「ちゃんと約束、守ってくださいね?」

 有紀が俺の服の袖を掴んで上目遣いに見つめてきた。

 これ以上、有紀の両親の前で恥ずかしい台詞はあまり言いたくなかったが、すでに言ってしまっているので今更かと思った。


「もちろん守るよ。有紀のことを幸せにする」

「櫂君!」


 立ち上がった有紀は両親がいるにも関わらず俺の首に手を回してキスをしてきた。

 しかも舌まで入れてきて、濃厚なキスを。

 それを見た雅紀さんは立ったまま固まり、結奈さんは微笑ましそうに笑っていた。


☆☆☆

 

 それから俺たちは四人で夕食を食べ、夜になる前には有紀の実家を後にしていた。

 いろんなことがあった有紀の両親との顔合わせだったが、なんとか無事に終えることが出来て俺はホッとしていた。

 俺と有紀がキスをしたところを見て固まっていた雅紀さんは夕飯を食べる時には元に戻っていて(多分見なかったことにしたのだと思う)質問攻めにされた。


「今日はおつかれさまでした。そして、ありがとうございました。父も母も終始楽しそうでした」

「有紀こそお疲れ様。なんだかいろいろと気を遣わせて悪かったな」 

「そんなことありませんよ。私も楽しかったので、それに櫂君からプロポーズしてもらいましたし」

「あれは……まぁ、そうだな。雅紀さんとの約束はちゃんと守るよ」

「ふふ、幸せにしてくださいね?」

「もちろんそのつもりだ」


 俺の人生をかけて有紀を幸せにする。 

 もちろん有紀だけじゃなく、彩海とアリスも幸せにするつもりだ。

 それが今の俺の生きる意味だった。

 

☆☆☆


 これにて「有紀の両親との顔合わせ編」   了


 次回は温泉旅行編に入ります

 Hなシーン増やす予定なのでお楽しみに~笑

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