第27話 11日目(火)② ゲームセンター編(太鼓の王様)
次の勝負は「太鼓の王様」という太鼓のゲームだ。
「さっきのゲームも練習してたってことはこれも練習してるってことだよな?」
「二人がどうかは知らないけど私は練習したよ~」
「私もしたわよ」
「もちろんです」
「ぬかりはないんだな」
「当り前じゃん! だって負けたくないもん!」
「でも、今回も同じゲームをやるとは決まってなかったわけだろ? それなのに練習したんだんな」
「決まってたよ~。だって、そうなるように誘導したし」
「そうですね。リベンジをするのに違うゲームでは意味がないですからね」
「そうね。有紀が言わなかったら私が言うつもりだったわ」
そう言われて俺は三本勝負が始まる前の会話を思い出した。
たしかに有紀が「ゲームは前回と同じでいいですか?」と言って、すぐに彩海が「でいいんじゃないかな~」と同意して「二人はどう思う?」と俺とアリスに聞いてきた。
ゲームを変えなくてもいいと思った俺は何の疑いもなく頷いたし、アリスもすぐに同意した。
こうなることを予想して三人が練習をしていたのだとしたら、俺は完全に三人の手のひらの上で踊らされていたということか。
(絶対に負けたくない)
手を抜くつもりなど元からなかったが、俺の心に改めて火が付いた。
「てことで、やるよ! 太鼓の王様!」
「今回のペアはどうする?」
「う~ん。さっきのUFOキャッチャーのペアとかでいいんじゃない?」
「ということは私は櫂君とですか。ここで負けるわけにはいきませんね」
「私はアリスとだね!」
「そういうことになるわね」
「どっちのペアからやりますか?」
「そりゃあ、前回勝った櫂は後でしょ!」
「ということは私と櫂君が後ということですね」
「そうだね! だから最初は私対アリスが勝負して、次に櫂対有紀が勝負して、それぞれのペアで勝った方が最後に戦うっていう前回と同じ方式ね!」
「了解」
「分かったわ」
「分かりました」
最初に勝負をする彩海とアリスが太鼓の前に立ってバチを持った。
「曲は前回と同じやつね!」
二人は曲を選曲した。
前回と同じ最高難易度の曲だ。
前回、三人はこの曲を前にかなり苦戦をしていた。
それは三人が「太鼓の王様」をしたことがなかったからで、練習をした三人なら最高難易度くらいは簡単にクリアするだろう。
「よ~し! 練習の成果見せちゃおうかなぁ~!」
「彩海を倒さないと櫂と対戦できないからね。私も本気で行くよ」
「望むところだよ! てか、本気じゃないと戦う意味ないからね!」
二人が同時に太鼓を叩いてゲームがスタートした。
王冠の形をしたマークが画面の右側から流れてくる。
赤色の王冠が流れてきたら太鼓の面を、青色の王冠が流れてきたら太鼓のふちを叩くことでスコアを獲得することが出来る。
もちろん叩くタイミングも重要だ。
画面の左端にある王冠のマークと重なった時に叩かなければ、ミスになるし、少しでもズレたら得点が減る。
ハイレベル同士の戦いになると、この少しのズレと一ミスが勝敗を分けることになる。
二人みたいに。
本当に前回と同じ人物なのかと疑いたくなるくらい、二人はハイレベルな戦いをしていた。
「アリスやるね~」
「彩海もね」
今のところ二人はノーミスで太鼓を叩き続けている。
しかし、スコアは彩海の方が少し高い。彩海の方が少しだけ正確に叩いているということだ。それでも最後までどっちが勝つか分からないのが「太鼓の王様」だ。
どちらかが一回でもミスをしてコンボが途切れたらその時点で勝敗が決まる。
果たしてどちらが勝つのか。
俺と有紀は二人の勝負を静かに見守っていた。
☆☆☆
彩海とアリスの勝負の結果は僅差で彩海の勝利となった。
「私の勝ちだね~!」
「悔しいけど私の負けね。練習不足ね。次は私が勝つわ」
勝負を終えた二人は握手を交し合った。
「二人ともお疲れさん」
「お疲れ様です。二人とも凄いですね。お二人の勝負から目が離せませんでした」
「二人とも最高難易度でフルコンボを出すとか練習しすぎだろ」
「だって、それくらいしないと櫂には勝てないじゃん~。この曲ばっかりめっちゃ練習したんだからね!」
その練習の成果は結果として表れていた。
二人ともフルコンボを叩き出していて、勝敗を分けたのはパーフェクトの数だった。
本当に僅差な勝負となった。
まさかこの一カ月弱で二人がここまで腕を上げているとは思ってもいなかった。
この様子だと有紀も相当腕を上げているだろう。
油断は出来ないな。
「さて、次は二人の番だよ!」
「そうだな」
「そうですね。櫂君。対戦よろしくお願いしますね」
「よろしくな」
俺と有紀は太鼓の前に立ってバチを持った。
曲はさっき二人が対戦をしたやつと同じ曲だ。
俺と有紀は曲を選択した。
「それじゃあ、準備はいいか?」
「はい。いつでも大丈夫です」
「自信がありそうだな」
「ありますよ。今日のために私もたくさん練習をしましたからね」
「そうなのか。でも、俺も負けるつもりはないからな?」
「望むところです。本気の櫂君に勝ってこそ意味がありますからね。手を抜かないでくださいね?」
「あたりまえだ」
お互いに太鼓を叩いてゲームがスタートした。
自信があると言い切っただけはある。
有紀は正確にミスすることなく太鼓を叩きスコアを稼いでいた。
その正確さは彩海以上だ。
ますます気が抜けなくなった。
ミスをすることなく有紀以上に正確に叩かないと普通に負ける。
だから俺はいつも以上に集中して慎重に太鼓を叩き続けた。
☆☆☆
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