第22話 8日目(土)① シュークリーム
二日間安静にしていたのと有紀の栄養のつきそうな美味しい料理のおかげで俺の体調はかなり良くなってきていた。
「37.2℃ですか。だいぶ下がってきましたね」
「お~。熱下がってね~」
「まだ少しあるけどね」
「こんなに早く熱が下がるのは初めてだな」
「でも、まだ油断してはダメですよ? 完全に下がり切るまでは絶対安静です」
「分かった」
この様子なら明日には完全に治っているかもしれない。
でも、有紀の言う通りまだ油断は出来ないので今日も一日安静にしてようと思った。
「みんな心配かけてごめんな」
「櫂。もしかしてわざと言ってる? そんなに私たちとのキスが恋しかったの?」
彩海がニヤニヤと笑いながら言った。
「違うからな? キスをしたくないわけではないが、三人に心配をかけたと思ったから謝っただけだからな?」
「安心して、元気になったらたくさんしてあげるから♡」
「そうですね。なので早く元気になってくださいね?」
昨日、俺にキスをしたアリスは何も言わなかった。
「さて、私は練習してこようかなぁ~」
「今、どんな感じなんだ?」
「ん~。まだまだって感じかなぁ~。もっと練習しないと」
「そっか。体調が良かったら練習にいくらでも付き合うんだけどな」
「櫂が完全復活したら練習に付き合ってもらうつもりだから、早く治すこと!」
「頑張るわ」
「うん! それじゃあ、私はゲーム部屋にこもるから! よろしく!」
そう言って彩海は寝室から出て行った。
「私もシュークリームを作り始めますね。楽しみにしていてください」
「楽しみにしとく」
有紀も寝室から出て行ってアリスだけが残った。
「アリスは今日は何するんだ?」
「今日は特にやることないわね」
「そうなんだな」
「櫂が元気だったら一緒にゲームをしようと思ってたんだけどね」
アリスが俺の上に馬乗りになってきた。
「まだ無理そうだし、今日は櫂にずっとくっついておくことにするわ」
そう言ってアリスは俺に抱き着いた。
「別にいいけど。せめて腕にしてくれないか?」
「少しだけでいいからこのままじゃダメ?」
このままアリスに抱き着かれていたら、せっかく下がった体温が上がってしまいそうだった。
しかし、珍しくアリスがわがままを言っているので少しだけこのままでいさせてあげようと思った。
「分かったよ。少しだけだからな?」
「うん♡」
アリスは満面の笑みで頷くと頬ずりをしてきた。
こんなに甘えん坊なアリスも珍しい。
それだけ心配をさせたということなんだろうな。
改めて、三人には元気になったらお礼をしようと思った。
☆☆☆
気が付けば俺とアリスは眠っていた。
隣で俺の右腕に抱き着いたアリスが眠っている。
キャミソールが脱げて美乳が露になっていた。
「まったく無防備すぎるだろ」
いくらアリスからいつでも触っていいという公認をもらっているとしても寝ている時に触るのは気が引ける。
右手は使えないので俺は左手でキャミソールを直した。
俺がアリスのキャミソールを直したところで、コンコンと寝室の扉がノックされた。
有紀が寝室に入ってきた。
「櫂君。起きていますか?」
「ちょうど今起きた」
「シュークリームが焼き上がりましたけど食べますか?」
「もちろん食べるよ」
「では、持って来ますね。アリスちゃんも起こしておいてください」
「了解」
俺はアリスの肩をトントンと叩いて名前を呼びかけた。
「アリス。有紀がシュークリームできたって」
「ん……」
「アリス。起きろ」
「んぅ……」
アリスは全く起きる気配を見せなかった。
何度か体を揺すってみたがダメだった。
「お待たせしました」
アリスが起きる前に有紀がシュークリームを持って寝室に戻ってきた。
「アリスちゃんは起きませんでしたか」
「まぁ、無理に起こしても可哀想だし、起きるまでこのまま寝かせといてやろう」
「そうですね」
俺はアリスにホールドされていた右腕をゆっくりと引き抜いて体を起こした。
「いい匂いだな」
「上手に焼くことができました」
「たしかにめっちゃ形が綺麗だな」
有紀作のシュークリームはお店のやつと遜色ないくらいに綺麗な形と焼き色をしていた。
「早速一個食べてもいいか?」
「もちろんです」
どうぞ、と渡してきた有紀からシュークリームを受け取った。
そして一口齧り付いた。
サクサクの衣ととろとろのカスタードクリーム。
いわゆるクッキーシュークリームというやつで、味もお店と遜色ないレベルで美味しい。
「どうですか?」
「うん。めっちゃ美味しい。何個でも食べれそう」
「そうですか。よかったです」
有紀は安堵の表情を浮かべた。
「たくさん焼いたのでたくさん食べてくださいね」
「彩海には持って行ってあげたのか?」
「これからです。まずは櫂君に食べてもらいたかったので」
「彩海はまだゲームしてるのか?」
「ですね。あれから一度も部屋から出てきていませんね。なので、シュークリームを持って行くついでに様子を見てこようかと思っています」
「そっか。よろしくな」
「では、行ってきますね。これ、アリスちゃんが起きたらあげてください」
「分かった」
俺にシュークリームを一つ渡した有紀は寝室から出て行った。
☆☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます