第21話 7日目(金) 看病してくれる人がいること~その2~

 翌日になっても体調は相変わらず悪かった。

「櫂君。何かしてほしいことがあったら遠慮せずに何でも言ってくださいね」

「ありがとう。有紀」

 昨日から三人が変わりばんこで俺の看病をしてくれていた。


「元気になったらちゃんとお礼するからな」

「お礼なんてしなくていいですよ。大切な人が体調を崩していたら看病をするのは当たり前のことですから。櫂君もそうでしょう?」

「そう、だな」


 もしも三人のうちの誰かが体調を崩したら俺も看病をするだろうし、そのことにたいしてお礼を求めたりはしない。

 それでも、お礼はちゃんとしようと思った。


「なのでお礼は大丈夫ですよ。といっても、櫂君はお礼をするのでしょうけどね」

 そう言って有紀は微笑むと俺のおでこをツンっと突いた。


「バレバレか」

「バレバレです」

「そっか」

「熱を測ってみましょうか」

「分かった」


 有紀から体温計を受け取って俺は脇に挟んだ。

 ピ、ピッという音が鳴り、俺は脇から体温計を取り出した。


「37.5℃ですか。まだ高いですね」

「いつものことだ。一週間くらい続く時もあるからな」

「そうなのですか?」

「まぁな。子供の頃から疲れが限界まで溜まると熱を出す体質だから仕方がない。最近は調子良いと思ってたんだけど、いつの間にか疲れが溜まってたみたいだな」

「溜まってたみたいだな、じゃないですよ。次からは疲れが限界まで溜まる前にちゃんと休んでくださいね」

「分かった」

「とにかく熱が下がるまでは絶対安静ですからね」

「あぁ」

「私はこれから用事があるので少し家を空けますが、彩海ちゃんとアリスちゃんがいますので何かあったらお二人に言ってくださいね」

「分かった」

「それでは行ってきますね」

「行ってらっしゃい」


 有紀は寝室から出て行った。

 絶対安静にして早く熱を下げて三人のことを安心させることしか俺には出来ない。

 だから俺は寝ることにした。


☆☆☆


 目を覚ますと隣に彩海が寝ていた。

「起きたのね」

「アリス……これはどういう状況だ?」


 部屋着姿(キャミソール)のアリスは椅子に座っていてスマホをいじっていた。

「櫂の様子を見に来たらいつの間にか寝てたわ」


「そうなのか」

「体調はどう?」

「少し良くなったかも。てか、今何時だ?」

「もうすぐ三時よ」

「てことは二時間くらい寝てたのか」

 有紀が用事で家を出たのが一時だった。


「で、アリスは何をしてるんだ?」

「ゲームよ」

「何のゲーム?」

「モ〇スト」

「そういえば昨日からイベントが来てるんだっけ」

「そうね」

「ログインすらしてねぇな。何かキャラ当たった?」

「三十連して一体だけ当たったわ」

「なんとも言えない結果だな」

「まぁ、一番欲しいキャラが当たったから私としては満足だけどね」

「そっか。俺も回すだけ回そうかな。それくらいはできそうだし」

「スマホ取る?」

「頼む」


 アリスは椅子から立ち上がって、テーブルの上に置いていたスマホを取ってくれた。

 しかし、昨日から一切スマホを使っていなかったので充電が切れていた。


「充電切れてる。充電しないと回せないわ」

「充電する?」

「そうだな」

 俺はアリスにスマホを渡した。


「充電器取って来るわね」

「ありがとう」


 アリスは寝室から出て行った。

 充電器を持ったアリスはすぐに戻ってきた。


「充電しながらする? それとも充電で来てからする?」

「充電してからでいいかな」

「了解。じゃあ、充電しとくわね」

「ありがとう」

 ガチャを引けるのはしばらく後になりそうだ。


「それにしても、彩海ぐっすりと寝てるな」

「昨日も深夜までゲームしてたからね」

「そういえば大会が近いんだっけ?」

「来週あるみたいね」


 今回はストリーマーの大会ではなくプロとしての世界大会に参加するらしい。

 それの予選が来週行われているようだった。


「俺が言えたことじゃないけど、疲労で倒れないといいけどな」

「そうね。彩海はゲームのこととなるとそれに集中してそれ以外を疎かにするからね」

「食事も睡眠もせずにずっとゲームする時もあるくらいだもんな」


 彩海は誰かが止めないと一生ゲームをやり続ける。

 彩海はそのくらいゲームを愛している。


「まぁ、大会の時はいつものことだから。慣れたわ」

「そうなのか?」

「えぇ、大会一週間前くらいは学校も休んでずっとゲーム漬けっていうのは彩海がプロゲーマーになった時からだからね」

「そうなんだな」


 俺が知っているのはこの数カ月の間だけの彩海だけだ。

 それ以前の彩海のことはほとんど知らない。 


「だからまぁ、慣れたものよ。彩海がどれだけゲームを続けてたら倒れるかは大体把握してるわ」

「その言い方だとゲームのし過ぎで倒れたことがあるのか?」

「何度かね」

「マジか。大丈夫、だったんだよな?」

「そうね。大丈夫じゃなかったら今生きてはないでしょうね」

 アリスは苦笑いを浮かべた。


「俺は三人のこと何も知らないんだな」

「それはお互い様でしょ。私も櫂のことまだ全然知らないし。出会って二ヶ月くらいしか経ってないんだから当然といえば当然なんだけどね。だから、これから知っていいのよ。まだまだ時間はたくさんあるんだから」

「そうだな」

「そのためにも早く良くなってくれないと困るわよ。一緒にゲームできないじゃない」

「ごめん。早く元気になるから」

「言ったわね?」

 アリスはニヤッと笑った。


「あっ……」

 気が付いた時にはもう遅かった。

 俺はアリスに口を塞がれた。


☆☆☆

 

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