第19話 5日目(水) かき氷屋

 今日は四人でかき氷屋にやって来ていた。

「どれにする~?」

 彩海がメニュー表をテーブルの上に広げた。


「いろんなかき氷がありますね」

「そうね。結構種類があるわね」

「どれも美味しそうだな」

 メニュー表に載っているかき氷はどれもフルーツてんこ盛りだった。


「一時間迷っていい?」

「長いわ!」

「さすがに一時間は長過ぎよ。悩んでもいいけどせめて五分ね」

「五分か~。三人はどれにするのか決まったのか?」

「私はオススメのいちご~」

「私はメロンにするわ」

「私はマンゴーにします」


 すでに三人は何にするか決まっているようで、俺だけがまだ何にするか決まってない状態だった。

「せっかくだったらみんなと違うやつがいいよな」


 三人が選んでいないやつで残っているのはオレンジ、マスカット、蜂蜜レモン、スイカ、宇治金時だった。

 選ぶならこの中から選びたい。

 正直、どれも美味しそうで全部食べたいくらいだが、ボリューミーなのでさすがに一つにしておく。

 全部食べたらお腹を壊すのは目に見えて分かっているから。

 そんなこんなで悩むこと五分。


「そろそろ五分経つけど決まった?」

「宇治抹茶にする。いや、やっぱり蜂蜜レモンか……それともスイカ……」

「まだ決まってないみたいですね」

 まだどれにするか決めかねていると隣に座っていた有紀に笑われた。


「よし、今度こそ決めたぞ」

「どれにするの〜?」

「オレンジにする」

「では、注文しますけどいいですか?」

 有紀はいつもこうやって俺に最終確認をしてくる。

 俺がいつも最後の最後まで悩むからだ。


「うん。大丈夫。オレンジでいい」

「分かりました」

 有紀は机の上の呼び出しボタンを押した。

 そしてすぐにやってきた店員さんに四人分のかき氷を注文した。


「それにしてもさ~。最近暑すぎだよね~」

「そうね」

「外を数分歩いただけで汗だくなんだけど」

 朝のニュースではまだ七月だというのに過去最高気温を更新したと言っていた。


「そろそろいつ海に行くか計画立てたいね~」

「今立てちゃえばいいんじゃない?」

「たしかに! じゃあ今決めちゃお!」

「具体的には何を決めるんだ?」

「う~ん。どこの海に行くかと、いつ行くかかな」

「せっかくだし、県外の海にでも行くのありじゃない?」

「ありあり! 大賛成! みんなで旅行したい!」

「いいですね」

「じゃあ、どこに行くか決めよう~」

「俺はよく分かんないから三人に任せるよ」

「ダメ! 櫂も一緒に決めるよ! みんなで作る思い出なんだから!」

「そうですよ。一緒に決めましょう」

「どこか行きたいところとかないの?」

「行きたいところか~」


 両親が生きていた時は母さんによくいろんなところに連れていかれたけど、一人になってからは県外に旅行に行くなんてことは一度もしていない。


「パッとは思いつかないな」

「それじゃあ、各々スマホで行きたい海を調べる?」

「そうね。かき氷が来るまで各々スマホで海を調べましょうか」

「分かりました」

「了解」


 俺たちはかき氷が来るまでスマホで海を調べ始めた。

 近場から遠いところまでいろんな海を調べて俺は候補をいくつかに絞った。

 その中でも一番行ってみたいところは十色海岸という十色市にある海だった。

 かき氷が俺たちの席に運ばれてきたのは二十分後くらいだった。


「わぁ~! 美味しそう~!」

 彩海は目の前に置かれたいちごのかき氷を見て瞳をキラキラと輝かせていた。


「それじゃあ、食べながら各々調べた海でも言い合う?」

「そうね」

「そうしましょう」

 四人でいただきますをして、まずはかき氷を一口食べた。

 俺が頼んだのはオレンジ味のかき氷。

 氷が見えなくなるくらいにオレンジのシロップと練乳がかけられていて、中には大きな果肉がたくさん入っていた。


「うまっ!」

「美味しいですか?」

「あぁ、めっちゃ美味い!」

 氷はふわふわで、オレンジの風味がしっかりとあって、練乳が甘くて、果肉は瑞々しくて、いくらでも食べられそうなくらい美味しかった。


「有紀も自分の分、早く食べてみ」

「はい」

 有紀はマンゴー味のかき氷を口に運ぶと衝撃を受けたかのように目を見開いた。


「美味しいです!」

「だよな」

「一口食べますか?」

「もらってもいいか?」

「はい」


 俺は有紀からマンゴー味のかき氷を一口もらった。

 肉厚なマンゴーと甘々なマンゴーのシロップ。

 マンゴー味のかき氷も美味しかった。

 これはリピートしたくなる美味しさだ。


「マンゴーの方も美味しいな。俺のも一口食べるか?」

「はい。いただきます」

 俺はオレンジ味のかき氷を有紀の口に運んだ。

 オレンジ味のかき氷を食べた有紀は幸せそうに頬を綻ばせた。


「オレンジ味のかき氷も美味しいですね」

「だよな」

「ズルい~! 私も二人のかき氷食べたい! 食べさせて!」

「分かったよ」

 俺は彩海の口にもオレンジ味のかき氷を運んだ。


「美味しい! 私のも一口あげる!」 

 彩海からイチゴ味のかき氷を一口もらった。

 たっぷりとかかったいちごのシロップと練乳の甘さと少し酸っぱさの残るいちごが絶妙にマッチしていてめっちゃ美味しかった。

 これもリピートしたくなる美味しさだった。


「アリスも食べるか?」

「もちろんよ」

 俺はアリスにもオレンジ味のかき氷を食べさせて、アリスからメロン味のかき氷を食べさせてもらった。

 これも言わずもがなリピートしたくなる美味しさだった。


「さて、かき氷も運ばれてきたことだし、みんなが選んだ海を発表する?」

「そうだね!」

「そうですね。誰からしますか?」

「じゃあ、私から~! 私はここがいいと思うんだけど!」

 そう言って彩海はスマホをテーブルの上に置いた。

 彩海のスマホに映っていたのは俺が選んだ十色海岸だった。


「ここの海岸、前から気になってたんだ~!」

「十色海岸ね。私もそこ気になってたわ」

「アリスちゃんもですか。私も一度十色市には行ってみたいと思っていました。十色海岸いいと思います」

「櫂はどこにした~?」

「やっぱり俺たち仲いいんだな。俺も十色海岸がいいと思ってた」

「えっ!? マジ!? じゃあ、十色海岸で決まりじゃん!」

「そうね。十色市に行くならお盆くらいがいいわね。傘踊りと花火大会があるみたいだから、それも合わせて見れたら楽しそうじゃない?」

「めっちゃいいじゃん! それでいこうよ! 二人はどう?」

「私は賛成です」

「俺も賛成だな」

「よし! じゃあ、細かい話は追々決めるとして、今はかき氷を堪能しちゃお!」

「そうだな」


 雑談をしながら食べていると、ふわふわのかき氷はあっという間になくなった。 

 

  


☆☆☆

 

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