第18話 4日目(火) それぞれの進路

 夏休み四日目の午前中。

「それでは二人ともやりましょうか」

「は~い」


 彩海は不満そうな声で返事をした。

 なぜ不満そうな声で返事をしたかというと、これから夏休みの課題をすることになっているからだ。

 もちろん俺とアリスも一緒にやる。


「初日に計画的にやるってお約束したじゃないですか。それに計画的に終わらせたら残りは毎日ゲームが出来るのですよ?」

「やる! 毎日ゲームしたい!」

「では、頑張りましょう。ちゃんとお手伝いしますから。分からないところがあればいつでも聞いてください」

「みんなでやったらすぐ終わるわよ。それにテスト勉強じゃないんだから気楽にやればいいのよ」

「は~い」


 そういうわけで俺たちは国語の課題に取り掛かった。

 夏休みの課題は全部で五つ。

 各教科(国語、数学、理科、社会、英語)に一つずつある。

 一日一つ終わらせることが出来たら最短で五日あれば終わる。

 もっと早い人はもう終わっているだろう。

 俺は彩海と同じで今日から始めるが有紀とアリスはコツコツと毎日やっていたようですでにほとんどの課題を終わらせてしまっているらしい。

 

☆☆☆


 それから二時間ほど俺たちは雑談をしながら国語の課題に取り組んだ。

 半分くらいが終わったところだ。

 お昼ご飯の時間になったので現在は休憩中だった。


「意外と進んだ~」

「午後も頑張れば配信までに国語は終わるんじゃない?」

「頑張ろうかな~」

「アリスは午後からボイトレだよな?」

「今日は火曜日だからそうね」

「ご飯食べたら行くよな?」

「そうね」

「送るよ」

「よろしく」

「皆さん。ご飯できましたよ~」


 有紀に呼ばれて俺たちはテーブルに移動した。

 今日はアリスが俺の隣に座る日だ。

 お昼ご飯は数種類のパスタだった。

 ミートパスタ、カルボナーラ、ペペロンチーノ、どれも美味しそうだ。


「お好きなのをどうぞ」

「いただきま~す」

 彩海はミートパスタ、アリスはカルボナーラ、俺はペペロンチーノをそれぞれ皿に取り分けて食べ始めた。


「有紀のパスタ最高~。マジでお店で出せるレベルで美味しい!」

「何度でも食べたくなる味よね。しかも有紀のアレンジが加わってるから、有紀にしか出せない味になってるし」

「だよな。この味は有紀にしか出せないと思う。マジで美味しい」

「ふふ、ありがとうございます」


 取り分けたパスタは秒でなくなった。

 そのくらい有紀のパスタは美味しかった。


「有紀は高校卒業したら調理の専門学校に行くんだよな?」

「そうですね。専門学校に行って調理師の免許を取りたいと思っています」

「そっか。アリスは声優の専門学校に行くんだっけ?」

「そうね。一応行くつもり。この前は運よくオーディションに受かったけど、私なんてリサさんに比べたらまだまだだから」

「彩海は高校卒業したらどうするんだ?」

「私は限界が来るまでプロゲーマーをするつもり。限界が来て、もう無理ってなったらストリーマーでもやろうかなって思ってる」

「ゲームの専門学校には行かないんだな」

「行かないかなぁ~。ゲームは好きだけど作りたいとかは思わないし。私はただゲームを楽しくプレイしたいだけだから! それにストリーマーで結構稼いでるしね!」


 彩海はニヤッと笑った。

 実際、彩海は配信でかなり稼いでいるだろう。

 今は週に二日しか配信していないが、彩海が配信をすれば同接十万人は当たり前だった。大会とかの配信になると十五万人くらいが彩海の配信を見ている。

 彩海は配信では顔出しをしていない。

 それでもそれだけの視聴者が配信を見に来ているのだから凄い。

 彩海は配信でよく魅せプレイをする。

 彩海が魅せプレイをすればコメント欄が湧き、スーパーチャットが飛び交う。

 今ですら十分に凄いのに、顔出し配信なんてした日には同接がどれだけいくか分かったもんじゃないし、配信中スーパーチャットが途切れることはないのではないだろうかと思う。

 しかし、今のところ本人に顔出し配信をする気はないらしい。

 ちなみに彩海のチャンネルの登録者数は八十万人を超えている。


「櫂はどうするの? 櫂の将来のことって聞いたことないよね?」

「そういえば、そうね」

「ですね」


 三人が俺のことを見た。

 俺はまだ三人のように高校卒業後の明確な進路は決まっていない。

 特にこれといってやりたいことがあるわけでもないし、正直両親が残してくれた莫大な遺産があれば死ぬまで生きていけると思う。

 だから卒業後どうするかはまだ考え中だ。


「俺はまだ何も決まってないな」

「何かやりたいことはないの?」

「今のところ特にないかな」

「そうなんだ~」

「ま、いいんじゃない? まだ卒業までに時間はあるし、ゆっくり見つけていけば。見つからなかったら、見つからなかったで私たちが養ってあげるから、櫂は私たちと一緒にいつまでもゲームしてくれればそれでいいよ」

「たしかに~。櫂と一緒にゲームできるなら、一生養ってあげる!」

「そうですね。私たちで櫂君を養いましょう」

「いや、それはさすがにダメだろ」

「櫂ならそう言うと思った」

 アリスは俺の背中をポンと叩いた。


「ま、そういうことだから、無理にやりたいことを見つけようとしなくていいのよ。やりたいことなんて見つかる時にすぐに見つかるし、見つからない時はいつまでも見つからない。そういうもんよ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんよ」


 俺にもいつかやりたいことが見つかるのだろうか。

 それがいつかは分からないが、俺にも何かやりたいことが見つかればいいなとパスタを食べながら思った。


☆☆☆


 お昼を食べ終えた俺はアリスと一緒にアリスの通っているボイトレ教室に向かっていた。


「アリスは橘さんに憧れて声優になろうと思ったんだよな?」

「そうね。あの日のこと覚えてくれてたのね」

「まぁな」

「櫂は一年生の時の文化祭って参加した?」

「参加してないな」

「だと思った。参加してたら、リサさんのこと知らないはずないもんね」

 去年の文化祭は休んで家でゲームをしていた。


「どうせ家でゲームでもしてたんでしょ?」

「なんで分かった」

「分かるに決まってるわよ。櫂のことなんて何でもお見通しよ」

「アリスに隠し事はできないな。で、去年の文化祭で何かあったのか?」

「去年の文化祭でリサさんが体育館で声モノマネ百連発をしたんだけど、それが衝撃的でね。その日から声優になりたいって思うようになったのよ。リサさんが声優をやってるっていうのはその時に知ったけどね」

「そんなに凄かったのか?」

「凄かったわよ。その時の動画あるから、ボイトレが終わったら見せてあげる」

「動画あるのか。それはぜひ見てみたいな」


 人一人の人生を変えてしまったのだから、相当凄かったに違いない。

「ちなみにリサさんはドリクエのキャラの声もやってるのよ」

「え、マジで!?」

「気づいてなかったのね。それも帰ったら教えてあげるわ」

「頼む」

 アリスの通っているボイトレ教室に到着した。


「それじゃあ、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい。帰りはいつもの時間か?」

「うん」

「じゃあ、迎えに来るな」

「ありがと。よろしくね」


 アリスは俺にキスをすると教室の中に入って行った。

 俺は寄り道することなく家に帰り、アリスのボイトレが終わるまでに残っていた国語の課題を終わらせることにした。

 有紀に教えてもらいながらなんとかアリスのボイトレが終わるまでに国語の課題を終わらせることができた。

 彩海もなんとか終わらせることができたみたいだった。

 

☆☆☆

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