夏休み編
第14話 1日目(土) 夏休みの始まり・アリスの初収録
待ちに待った夏休みがやってきた。
今日から時間を気にせずにゲームが出来る。
「夏休みだ~! 今日からゲームし放題だ~!」
「だな!」
彩海も同じことを思っていたみたいで早速ゲームをしようとしていた。
「お二人とも忘れていませんか?」
そんな彩海を止めるようにカスタードプリンをお盆に乗せた有紀がキッチンからやってきた。
「何を~?」
「課題ですよ。夏休みといっても遊んでばかりではいられないのですよ」
「もぅ~。初日から課題の話しないでよ~。テンション下がるじゃん~」
「今年はちゃんと計画的にやるのですよ?」
「分かったよ~。ちゃんと計画的にやるよ~。だから、今年も手伝って~。有紀~」
「ちゃんと計画的にするならお手伝いします」
そのやり取りはまるで親子だった。
有紀がお母さんで彩海が娘。
もはや見慣れた光景だ。
「ちゃんと計画的にします! ということで今からはゲームする!」
「彩海ちゃんならそう言うと思いました。私も一緒にやります!」
苦笑いを浮かべた有紀はお盆をサイドテーブルの上に置いて、代わりにス〇ッチを手に持った。
「当然、櫂もやるよね?」
彩海が俺の方を向いて聞いて来た。
答えなんて決まっている。
「やるに決まってるだろ!」
「だよね!」
そういうわけで三人で出来るゲームをすることになった。
ちなみにアリスは声優の収録があるらしく朝から出かけていた。
アリスはようやく夢への第一歩を踏み出せたとやる気満々で出て行った。
きっとアリスなら勝ち取ったチャンスをしっかりと掴んでくることだろう。
帰ってきたら思いっきり労ってあげるつもりだ。
☆☆☆
有紀特性のカスタードプリンを食べながら三人でゲームをすること二時間。
俺はソファーに座って彩海のプレイを見ていて、有紀は夕飯の支度を始めていた。
「そろそろアリスが戻ってくる頃か?」
「そうかも~」
スマホで時間を確認したところでちょうどアリスから電話がかかってきた。
「アリスから電話だ」
俺は通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし。どうした?」
『櫂。終わったから迎えに来て~』
「分かった。どこに行けばいい?」
『駅で待ってる』
「了解。すぐ行く」
電話が切れた。
電話越しのアリスの声は何かいいことがあった時の感じだった。
きっと初収録が上手くいったのだろう。
「アリスが迎えに来てほしいみたいだから行ってくる」
「分かった~。行ってらっしゃい」
俺はソファーから立ち上がってキッチンに向かった。
「有紀。アリスを迎えに行ってくる」
「分かりました。行ってらっしゃい」
リビングを後にして家を出た。
☆☆☆
駅に到着した。
アリスはすぐに見つけることができた。
なぜなら、アリスは他の人たちに比べて、一際目立っていたからだ。
「アリス。お待たせ」
「櫂!」
アリスは俺の顔を見るなり満面の笑顔を浮かべて抱き着いてきた。
「聞いてよ! 櫂!」
「どうした?」
「収録現場でね! めっちゃ褒められた!」
そう言ったアリスは収録現場でのことを事細かに教えてくれた。
その様子はまるでテストで百点を取った時の子供のようだった。
「そっか。よかったな」
「うん! めっちゃ嬉しかった!」
「お疲れさん」
俺はアリスの頭を撫でた。
「じゃあ、今日はお祝いしないとな」
「お祝いしてくれるの!?」
「そりゃあ、するだろ。何かしてほしいことはあるか?」
「それじゃあ、少しだけ寄り道して帰らない?」
「分かった。有紀に連絡しとくな」
「うん。ありがとう!」
有紀に寄り道をして帰ることを連絡して、俺たちは手を繋いで歩き始めた。
「今日収録したのってゲームのVCなんだよな?」
「そう! ヤバくない!? まさかこんなに早く夢が叶うなんて思ってなかったんだけど!」
「ずっと言ってたもんな。ゲームのキャラクターの声をやるのが夢だって」
「うん!」
「本当によかったな。アリスが頑張ってるの知ってるから俺も嬉しいよ」
「ありがとう! でも、まだまだこれからだから。もっともっと頑張ってリサさんに負けないくらい有名な声優になるから」
「俺には応援するくらいしか出来ないから、アリスが有名な声優になれるように応援するよ」
「ずっと私の側で応援しててよね! 約束だからね!」
「もちろんそのつもりだ」
アリスが俺の腕に抱き着いてきた。
「絶対に離さないから! ずっと私の虜にしちゃうんだから!」
いつものアリスの声ではない声でアリスは言った。
「もしかして、今のはアリスが担当するキャラのセリフか?」
「そう! どう? 私の虜になってくれる?」
「なってくれるって、もうとっくになってるよ」
「ふ~ん。そうなんだ~」
アリスはニヤニヤと笑って俺の顔を覗き込んできた。
「櫂と初めて話したあの日はこんな関係になるなんて思ってもなかったなぁ~」
「それはこっちのセリフだ」
「あの時はごめんな。無理やりトラウマを聞いて」
「別にいいよ。アリスは彩海のためを思っての行動だったんだろ。そりゃあ、アリスの圧が強すぎて怖かったし、あのトラウマは思い出したくなかったけど、今こうしてアリスたちと一緒にゲーム出来てるのは、あの時アリスが無理やりにでも俺のトラウマを聞いてくれたおかげでもあるからな。きっと、あの時、アリスが俺に無理やりトラウマを聞いてこなかったら、俺は今も一人でゲームをしてたと思うし、誰かと一緒にやるゲームの楽しさを忘れたまま死ぬことになったと思うから」
トラウマを克服するきっかけをくれたアリスには感謝しかない。
無理やりではあったけど、それくらいでちょうどよかった。
俺の心をこじ開けるにはそれくらいじゃないと無理だったと思うから。
「だから、ありがとな。俺とゲーム友達になってくれて」
「ちょ!? 急にそれはズルいって……」
アリスは頬を赤くして俺から顔を逸らした。
「恥ずかしがってんのか?」
「うっさい!」
「恥ずかしがってるアリスも可愛いな」
「だから、うっさいてば!」
アリスは顔を隠すように俺の腕におでこを当ててぐりぐりとした。
こんなに照れてるアリスは初めて見るかもしれない。
レアな表情だった。
「家に帰ったら覚えてないよ! 仕返しするから!」
「それは怖いな。お手柔らかにお願いするよ」
「無理! 絶対に今日は寝かせないから!」
今日は絶対に寝かせてくれないらしい。
今日から夏休みだから夜更かしドンと来いだが、体力が持つかが心配だ。
おそらく相手にするのはアリスだけではないだろうから。
それから俺たちはドラックストアに寄って家に帰った。
もちろん買ったのはアレだ。
家に帰るとアリスは二人に無事初収録が成功したことを伝えていた。
アリスからそのことを聞いた二人は自分のことのように喜んでいた。
その日の夜はアリスが言っていた通り本当に寝かせてくれなかった。
☆☆☆
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