番外編 七夕と初めて

 七夕。

 織姫と彦星が年に一度だけ会える日。

 そんな日に俺たちは家でゲームをしていた。


「はぁ~。七夕イベント最高~」

「だよな」

「そうね」

「そうですね」


 俺たちはドリクエの七夕イベントを一緒にやっていて、ちょうど今クリアしたところだった。

 全員が大号泣している。


「これで泣かない人とかいる?」

「絶対全員泣くだろ」

「だよね! はぁ~。記憶無くしてもう一回やりたいな~」

「めっちゃ同意! やっぱりドリクエは最高ね!」


 ドリクエが発売されて一カ月。

 ドリクエはオンラインゲーム界の神ゲーとしての地位を確立していた。 

 そんな神ゲーが送る七夕イベントは最高だった。

 彩海たちと一緒にゲームするようになって数週間。

 放課後に俺の家に集まっては夜まで四人でドリクエをやっていた。

 今日は金曜日なので彼女たちは俺の家に泊まることになっている。

 男女が一つ屋根の下に一緒にいるが俺たちの関係は健全なものだった。

 そういうことは一切やらず、ひたすらに朝までゲームをする。

 俺たちは健全なゲーム友達だった。


「よ~し! 今日も朝までドリクエするぞ~!」

「だな!」


 現在時刻は二十一時。

 今日が終わるまで後三時間。 

 三時間なんてゲームをしていれば一瞬で過ぎ去っていくだろう。

 四人ともお風呂に入ったし、サードテーブルの上にはお菓子やらジュースやらが大量に置かれていて、夜更かしする準備は万端だった。

 学校から帰って来てずっと七夕イベントをしていた今日のデイリークエストの消化がまだだった。 

 なので、まずはそれをすることにした。

 デイリークエストは三十分くらいで終わった。


「今日のデイリークエストも終わったし、私は素材集めでもしようかな~」

「私は少し休憩するわ」

「私も少し休憩します」 

「え~。二人とも休憩しちゃうの~?」

「七夕イベントがあまりにも良すぎて、ちょっと今はあんまりゲームできないかも」

「そうですね。今はもう少しだけあの感動を味わっていたいです」

 アリスと有紀はよほど七夕イベントのストーリーが好きだったのかそう言った。


「櫂はどうする?」

「俺はやろうかな」

「やった! じゃあ、一緒に素材集めしよ!」

「了解」


 俺と彩海はデュオで、彩海が欲しがっている素材を手に入れるためにボスを狩りまくることにした。

 彩海が欲しがっている素材は激レアでドロップ率がかなり低い。

 俺はその素材をすでに入手していて、その素材から作れる武器を装備していた。


「櫂って運いいよね。ズルいんだけど」

「羨ましいか?」

「羨ましい! 今日はその素材を手に入れるまで寝ないから! 櫂にはドロップするまで付き合ってもらうからね!」

「別にいいけど……めっちゃ時間かかると思うぞ?」

「櫂がいるから大丈夫でしょ!」

「どうだろうな?」


 一人でやった時は数回ボスを倒しただけでドロップした。

 沼る人は百回以上ボスを倒してもドロップしないこともあるらしい。


「ドロップするまで付き合うのはいいけど、とりあえず十回な」

「え~! 十回だけ?」

「自信あるんじゃなかったのか?」

「あるよ! あるに決まってるじゃん!」

「じゃあ、とりあえず十回だけな」


 この数週間で彩海の扱い方が少し分かってきていた。

 彩海は煽ると乗って来る。

 だから自信がないのかと煽った。

 そうじゃないと本当にドロップするまで付き合わされるからだ。

 もちろんドロップするまで付き合うつもりではいるが、さすがに彩海みたいに十時間以上ぶっ続けでゲームはできない。

 沼ったらそれくらいボスを狩る可能性がある。

 そういうわけで俺と彩海はボス狩りを行うこととなった。


☆☆☆


「全然出ないんだけど!」

 ボス討伐が十回終わった。時間にして一時間半。

 彩海のお目当ての素材は一個もドロップしなかった。


「一旦休憩にしようぜ」

「櫂は休憩していいよ。私は一人でボス倒しまくっとくから」

「そうか。じゃあ、俺は休憩するな」


 そう言って俺は立ち上がって伸びをした。

 ずっと座っていたので伸びが気持ちよかった。

 アリスと有紀はリビングにいない。

 どこに行ったのだろうか。

 俺の家は二階建ての一軒家。

 一階は生活スペースになっていて、リビングや寝室、洗面所やお風呂がある。

 二階には五室あって、そのすべてがゲーム部屋となっている。

 もともとゲーム好きだった父さんが作った部屋を今は俺が使っている。


 俺は二人を探すためにリビングを出た。

 リビングを後にした俺はまず寝室に向かった。 

 もしかしたら寝ているかもしれないと思ったが寝室には誰もいなかった。


「誰もいない。二人とも二階か」

 俺は二階に上がった。

 ゲーム部屋は完全防音だ。

 部屋の中でどんなに大きな声を出しても廊下に聞こえることなはい。

 だから、誰かが部屋を使っている時はドアノブに札を掛けるようにしている。

 しかし、どの部屋にも札は掛かっていなかった。


「ゲーム部屋にもいないか」

 そうなると残すは一つだけ。

 俺の家には屋上がある。

 椅子やテーブルを置いてくつろげるようにしてある。

 おそらく二人はそこにいるはずだ。

 俺は階段を上って屋上に出た。

 予想通り二人は屋上にいた。


「何してるんだ?」

「櫂」

「櫂君」

「彩海は?」

「まだ一人でゲームしてる」

「さすが彩海ね」

「それで二人は何をしてたんだ?」

「私たちは星を見てました。見てください。綺麗な天の川夜空に浮かんでいます」

 そう言って有紀が指差した方を見ると、それは見事な天の川があった。

「綺麗だな」


 思わずそう呟いてしまうほど天の川は綺麗だった。

 思えば星を見上げたのはいつ以来だろうか。

 両親が事故で亡くなってからは夜で歩くことなんてなかったし、屋上に来ることもなかった。


「綺麗ですよね」

「そうだな」


 母さんは星が好きな人だった。

 暇さえあれば星を見ている人で、俺が中学生になってもよく天体観測に連れて行かれた。

 だから余計に星を見ることを避けていた。 

 星を見てしまったら母さんのことを思い出してしまうから。

(やばい……)

 母さんとの思い出が蘇ってきた。

 一緒に野原に寝転がって星を眺めたこと、一緒に星座を探したこと、星を見るために山に登ったこと。いろんな思い出が鮮明に蘇ってきた。

 徐々に視界がぼやけてきた。 

 俺は気が付いたら涙を流していた。


「櫂。大丈夫か?」

「櫂君。大丈夫ですか?」

「あぁ、悪い……」

「これ、使いますか?」

 有紀がハンカチを貸してくれた。 


「ありがとう」

 涙を拭いて有紀にハンカチを返した。

「母さんとの思い出を思い出してた」


 二人は俺の両親が事故死したことを知っている。

 三人が俺の家にやってきた日に話したからだ。


「そうでしたか」

「母さんが星が好きな人でさ、よく一緒に星を見てたんだよ。だから、星を見たらその時のことを思い出してな」

「きっと素敵な思い出なのでしょうね」

「そうだな。俺にとっては父さんと一緒にゲームをした思い出と同じくらい大事な思い出だな」


 俺にとって一生忘れることのない大切な思い出。

 両親との思い出はこの胸にしっかりと刻み込まれている。


「彩海の身勝手で始まった私たちの関係だけどさ」

 アリスがいきなりそう言った。


「櫂のことを一人にしないから。だから、寂しくなったら私たちに言いなよ」

「そうですよ。私たちはもう翔君のゲーム友達ですから。寂しい時は一緒にゲームをしましょうね」

「ありがとう二人とも」


 きっと俺に気を遣ってくれたのだろう。

 両親が事故死をして数カ月間は寂しかったし、ゲームをする気にもなれなかった。 

 しかし、そんな俺を救ってくれたのはゲームだった。

 ゲームがあったから、俺は今も生きている。

 だからゲームには感謝しかない。


「ところでさ、私、櫂とやりたいことがあるんだけど」

「やりたいこと?」

「そう。やりたいこと」

 アリスは俺に近づいてきた。


「私さ、櫂とHしたいんだけど」

「はっ?」

 あまりにも予想外の発言に俺はアリスの顔を見て聞き返した。


「聞き間違いだよな?」

「聞き間違いじゃないわよ。もう一回言ってあげようか?」

「……」

「お二人で何を話してるのですか?」

 俺が言い淀んでいると有紀が聞いてきた。


「ん? 櫂とHしたいなって話してた」

「あ、アリス!? 何言ってんだよ!?」

 学年一清楚と言われる有紀にアリスはまるで日常会話でもするような感じで言うものだから思わず止めに入ってしまった。


「何焦ってんのよ」

「いや、だって……」

「別に私たち普段からこういう会話よくするわよ。ねぇ、有紀」

「そうですね」


 有紀は笑いながら頷いた。

 どうやら本当に普段からそういう話をしているらしい。

 俺の中での有紀のイメージが変わった。


「まぁ、私はまだヤったことないですけどね」

「私は経験済み」

 二人の経験値を勝手に聞かされた俺は何も言えなかった。


「ちなみに彩海も初めてよ」

「いや、聞いてないんだが?」

「てことで、私たちとHしない?」

「やらないに決まってるだろ!」

「なんで?」

「なんでって……」

「私たちとヤりたくないの?」

「そういう問題じゃないだろ。別に俺は三人とそういうことをするために友達になったわけじゃないし」

「ふ~ん。そうなんだ」 

 アリスは何故か満足気に笑った。


「じゃあ、寝室に行こっか」

「話聞いてたか?」

「有紀もいいよね?」

「そうですね。初めてを捧げるなら私よりゲームが上手な方と決めていたので」

「だってさ。ほら、行くよ。そうだ。せっかくだし、彩海も呼んでみんなでヤるか~。彩海のことだから、ゲームしとくって言いそうだけど」


 話が勝手に進んでいく。

 俺の意思は関係ないらしい。

 アリスに左腕をがっちりと掴まれて俺は身動きが取れない状態だった。

 もっと言えば、アリスのおっぱいの間に挟まっている。


「な、なぁ……本当にするのか?」

「嫌? どうしても嫌なら無理にはヤらないけど……」


 アリスは俺の顔を覗き込んできた。

 どうしても嫌かと言われれば、俺も男だからハッキリとは言い切れない。

 でも、本当に彼女たちとはそういうことをヤるために友達になったわけではない。

 俺の中でヤるかヤらないかの葛藤していた。


「何も言わないってことはいいって言うことだって思うけどいいよね?」

「……」

「もぅ、据え膳食わぬは男の恥って言うでしょ! こんなに可愛い私たちが誘ってるんだから何も考えずに気持ちよくなればいいのよ♡」


 そう言ってアリスは俺の耳を甘噛みしてきた。

 それでもう俺は考えることをやめた。

(もう、なるようになれだ……) 

 まさか俺が童貞を卒業する日が来るとは思ってもいなかった。

 この出会いがなかったら俺はきっと童貞のまま死んでいただろう。


「返事はなし、と。有紀。櫂の反対側の腕を持ってくれない?」

「分かりました」


 俺の右腕も柔らかな感触に包まれた。

 両腕を掴まれた俺は何も抵抗することなく二人に寝室に連れて行かれた。

 アリスが彩海を呼びに行った。


「緊張していますか?」

 有紀が聞いてきた。

 その声は少し震えていた。


「してるに決まってるだろ」

「そうですよね。私も緊張しています」


 有紀が俺の手を握ってきた。

 声と同様に有紀の手も震えていた。


「大丈夫です。何事も初めては緊張するものですから」


 その言葉はまるで自分に言い聞かせているみたいだった。

 アリスが彩海を連れて寝室に来るまで沈黙が続いた。

 俺はこの日、童貞を卒業した。


☆☆☆

 

ここから先は書くとBANされそうなのでご想像にお任せします笑

それか、別のサイトに書くかもです笑


次回更新は7/13(木)6:30です

 

 

 

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