第10話 4日目 アリスとカラオケで勉強会

 テスト週間四日目。

 気が付けばテスト勉強を始めてから四日が経っていた。

 今日はアリスとマンツーマンだった。

 彩海は今日も配信日で有紀は実家の方で用事があるらしかった。


「じゃあ、まず歌っちゃう?」


 そう言ったアリスは手にマイクを握っていた。

 俺たちはカラオケボックスにやって来ていた。

 アリスの提案でカラオケボックスで勉強をすることになった。

 正直、カラオケボックスで勉強なんて出来るのだろうかと思っている。

 というか、カラオケボックスというところに初めて来た。 


(こんな感じなんだな)


 完全な密室空間。もっと隣の部屋から歌声が聞こえてくるかと思っていたが全くそんなことはなかった。部屋の中もオシャレで、過ごしやすそうな空間だった。


「もしかして櫂ってカラオケ来るの初めて?」

「あぁ、一緒に行く友達なんていなかったし、一人で行こうとも思わなかったからな」

「じゃあ、これからは誘うわね。私はよくヒトカラ行くから」

「あんまり歌うのは得意じゃないんだけどな」

「得意じゃなくてもいいって。楽しく歌えれば。はい。ということで一緒に歌お」


 アリスが差し出してきたマイクを手に取った。


「櫂は普段どんな曲聞くの?」

「曲ね~。俺、普段どんな曲を聞いてるっけな?」

 パッと思いつかないくらいに俺は普段音楽というものに触れていない。


「普段あんまり曲聞かないからな。てか、勉強をしに来たんじゃないのかよ」

「気分転換よ。気分転換。毎日勉強ばっかりやっても疲れるでしょ?」

「まぁ、そうだけど……」


 赤点を取らないためならそれくらいは仕方ないかなって思ってる。

 毎日勉強をしないと赤点を取ってしまうくらいに俺は頭が悪いのだから。


「有名な曲とかだったら分かる?」

「どうだろうな。かなり有名だったら分かるのはあると思うけど……」

「じゃあ、これとかは?」


 そう言ってアリスは曲を入力する?機械を操作した。

 すると壁にかかった大きなモニターにアリスが選曲した曲名が出てきた。

 その曲は俺も知っているほど有名な曲だった。

 何年か前に流行ったアニソンだ。


「知ってる?」

「あぁ」

「歌える?」

「たぶん」

「じゃあ、一緒に歌お!」


 アリスに手を掴まれて無理やり立たされた。

 歌い出しはアリスが担当した。

 さすがというべきか、何種類もの声色を使い分けるアリスが歌う歌は上手だった。

 アリスから視線で「次歌って」と合図が来た。

 アリスみたいに上手く歌えるわけではないから、あんまり乗り気ではないが歌わなかったら歌わなかったで曲が終わった後にアリスから何を言われるか分からないから、俺は歌った。

 この曲を歌うのも数年ぶりだ。

 アリスと同じくらいの量を歌って、今度は俺からアリスに視線で合図を送った。

 俺から合図を受け取ったアリスはさっきとは違う声で歌った。

 よく聞いているとそれはそのアニソンのアニメのキャラの声だった。

 そんな感じで交代しながら一曲歌い終わった。


「櫂。普通に歌上手じゃん」

「アリスの方が上手だろ。何種類もの声を使い分けて歌うの凄すぎだって」

「ありがと♪ それじゃあ、次の曲歌っちゃう?」

「勉強は?」

「もう一曲一緒に歌ってからしよ?」


 アリスは、お願い、と顔の前で手を合わせた。

 勉強を教えてもらうのは俺だし、アリスが教えてくれないと英語なんて全く分からない。


「もう一曲だけだからな? もう一曲歌ったらちゃんと教えてくれよ?」

「分かってるよ! ちゃんと教えるから!」

 次にアリスが選んだ曲もアニソンだった。


「さ、歌うよ!」

「分かった」


 次は俺から歌わされた。

 この曲でもアリスはそのアニソンのアニメに登場するキャラの声真似をして歌っていた。

 まるでそのキャラが隣にいて歌を歌っているみたいに聞こえる。

 改めてアリスの凄さを実感した。


☆☆☆


 歌を二曲歌った後はちゃんと勉強を開始した。

 とはいえ、ここはカラオケボックスなのでずっと歌わないのも申し訳なかったので、俺は歌わなかったがアリスが三十分ごとに一、二回歌を歌った。 

 そんな感じで二時間くらいが経過した。

 なんだかんだ勉強をしている時は集中が出来ている。


「飲み物なくなったから取りに行っていい?」

「俺も行くよ」

「じゃあ、一緒に行こ」


 ここのカラオケボックスは飲み物を自分で入れるスタイルだった。

 俺とアリスは一緒に部屋を出てドリンクコーナーに向かった。


「あれ、アリスちゃん?」

 前の方から歩いてきていた金髪の女性がこちらに向かって手を振っていた。


「え、リサさん!?」

 その金髪女性の元にアリスは駆け寄って行くと抱き着いた。

 どうやらアリスの知り合いらしい。


「久しぶりね~。元気だった?」

「はい!」

「そっか~。よかった。ところで、そちらの彼は?」


 アリスがリサさんと呼んでいた金髪の女性と目が合った。

 金髪の女性は俺に優しい笑みで微笑みかけてくれた。


「私の彼氏です!」

「え、そうなの!?」


 リサさんが驚いた顔で俺のことを見た。

 むしろ驚きたいのは俺だった。

(いきなり何を言い出すんだ!?) 

 もちろん俺はアリスの彼氏ではない。

 彼氏ではないが強く否定することもできない。


「カッコいいでしょ~」

「そうね。ねぇ、挨拶させてくれない?」

「はい!」 

 アリスとリサさんが俺の前まで来た。


「櫂~。こちらはたちばなリサさん! 私の二つ先輩で、プロの声優で私の憧れの人! リサさんに憧れて私も声優になろうって思ったんだ~」

「初めまして。橘リサです。一応プロの声優をやらせてもらってます」

 リサさんは少し照れくさそうに笑った。


「は、初めまして。京堂櫂です」

「私の彼氏です!」

 そう言ってアリスは俺の腕に抱き着いた。

 アリスのFカップのおっぱいの間に俺の腕が挟まっている。


「あら、仲良いのね~」 

 俺たちのことを見てリサさんは目を細めて微笑んだ。


「はい! めっちゃ仲良いです!」

「いいわね~。青春をちゃんと謳歌してるみたいね」

「ですね! 今はめっちゃ高校生活楽しんでます!」

「そっか。それはよかったわ。忙しくてあんまり連絡出来てなかったから心配してたのよ。でも、楽しい学校生活が送れてるならよかったわ」


 リサはそう言うとアリスの頭を優しく撫でた。

 頭を撫でられたアリスは照れくさそうに笑った。

 なんだか二人が姉妹のように見えてきた。


「いつでも連絡してきていいからね? お仕事中は返信できないかもしれないけど、なるべく早く返信するようにするから」

「連絡します!」

「うん。彼氏君との惚気話でも大歓迎だからね」

「え、いいんですか~!?」

「もちろんよ。それじゃあ、私はこれから仕事だから行くね」

「はい。お仕事頑張ってください。また、連絡しますね!」

「うん。連絡待ってるね。彼氏君もまたね」

「は、はい」

 俺たちに微笑むとリサさんはお店から出て行った。


「いや~。ビックリだよ~。まさかこんなところでリサさんと再会できるなんて!」

「てか、あの人俺がアリスの彼氏だって勘違いしたまま行ったけどいいのか?」

「何かダメなことある?」

「いや、だって、俺はアリスの彼氏じゃないだろ」

「え、違うの? あんなに激しく愛し合ったのに……ひどい」

 アリスは悲しそうな顔で俺のことを見た。

 今にも泣きだしそうだった。


「ウソ泣きやめろ」

「ちぇ~。もうちょっと、あたふたしてくれてもよくない? つまんないの~」

 アリスは不満そうに唇を尖らせた。


「もう何度も騙されたからな。アリスのウソ泣きには。その演技力なら女優にもなれるんじゃないか?」

 そのくらいアリスの泣き真似は上手だった。

 一瞬で涙流すし、泣いている雰囲気を出すのが上手い。

 それで何度騙されたことか。

 今はもう騙されないけど。


「まぁ、女優には興味ないけどね~」

「で、よかったのか?」

「私は別にいいよ。だって櫂のこと好きだし。櫂は私が彼女じゃ不満?」

「別にそんなことはないけど。そもそも彼女じゃないけどな」

「もぅ~。細かいな~」 

 アリスは俺の頬をツンツンとした。


「まぁ、そんな名称、私たちにはいらないんだけどね~。彼女だろうがセ〇レだろうが、ゲーム友達だろうがなんだっていいよ。みんなと一緒にいれるならそれで。お互いが信頼し合ってるのも好きなのも分かってるし」


 そうじゃない?とアリスが同意を求めてきた。

 たしかにアリスの言う通りだった。

 俺たちの関係に名称なんていらない。

 ただ三人と一緒にゲームができて、いつまでも笑い合えればそれでいい。


「そうだな」

「だよね! じゃあ、飲み物を淹れて部屋に戻ろ!」

「あぁ」


 俺たちは飲み物を淹れて部屋に戻った。

 それから一時間くらい俺たちは勉強を頑張った。

 その後、一時間アリス独断ライブが開催されたことは二人には内緒だ。


☆☆☆


 次回更新は7/6(木)6:30

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