第9話 3日目 ファミレスで勉強会
テスト週間三日目。
今日はファミレスで勉強会をすることになった。
提案したのは彩海だ。
なんでも前回までのテスト勉強会は毎回ファミレスで行われたらしい。
「ファミレスに来るの久しぶり〜」
「そうね」
「今回はずっと櫂君のお家でやっていますからね」
「櫂の家、居心地は最高にいいんだけど、勉強するのにはあんまり向いてないんだよね~。ゲームの誘惑に勝てない!」
「分かるわ~」
「そうですね」
俺の隣にはアリスが座っていて、彩海と有紀は対面に座っている。
「それじゃあ、早速勉強のお供を頼んでもいい!?」
「勉強のお供って?」
「ファミレスで頼む勉強のお供といえば、フライドポテトでしょ!」
「そうなのか?」
「そうだよ! だから頼むね!」
彩海はテーブルの上に置いてある店員さんを呼ぶボタンを押した。
ボタンを押してすぐにやって来た店員さんに彩海がフライドポテトを注文すると俺たちは勉強を始めることにした。
「今日は数学をやりましょうか。お二人にはこちらを差し上げます」
そう言って有紀はスクールバックから取り出した紙を俺と有紀に渡した。
「これは何~?」
「今回のテストで出そうな公式をまとめておきました」
「え、マジ~! 超助かる! ありがとう! 有紀大好き!」
彩海はそう言いながら有紀に抱き着いた。
本当に抜け目が無いというか、何から何まで至れり尽くせりというか、ここまでされて赤点を取ったなんてことがあったら、ここまでやってくれている有紀やアリスに申し訳ない。何が何でも赤点を回避しなければならない。
「ありがとうな有紀。助かるよ」
「どういたしまして。その公式を覚えていれば赤点は取ることはないと思うのでしっかりと覚えてくださいね?」
「分かった」
「うん! 頑張って覚えるね!」
「それじゃあ、勉強やろっか」
アリスのその一言で、俺たちは勉強を始めた。
今日の先生はアリスだった。
「アリスは数学が得意なんだな」
「まぁね~。前回の数学のテストで学年一位を取るくらいには得意ね」
「凄いな」
「ていっても、有紀と同率だけどね~」
「それでも凄いだろ。俺なんて四十点取れるかどうかだぞ?」
「大丈夫。今回は八十点以上を取らせてあげるから」
そう言ってアリスは俺の肩をポンと叩いた。
「凄い自信だな。それなら、もし俺が数学で八十点以上取れたら何でも言うこと聞くよ」
「へぇ~。何でも言うこと聞いてくれるんだ~」
アリスはニヤッと笑った。
「言ったからね? もし、櫂が今回のテストで八十点以上取れたら私と有紀の言うことなんでも聞いてもらうよ?」
「いいぞ」
「もちろん手は抜かないよね?」
「当り前だろ」
「決まりね。そうと決まればビシバシ教えていくから覚悟しといてね♪」
「お手柔らかに頼む」
有紀からもらった公式の書かれた紙を参考にしつつ、それでもどうしても解けない問題をアリスに分かりやすく教えてもらっていると勉強のお供が運ばれてきた。
「来た! 勉強のお供!」
キラキラと目を輝かせている彩海はフライドポテトを一本手に取った。
「ポテト食べるのも久しぶりだぁ~! いただきま~す!」
フライトポテトを口に運んだ彩海は熱そうにパクパクと口を動かした。
「熱っ!」
「ふぅふぅしないと、急いで食べたら火傷してしまいますよ」
有紀にそう言われた彩海は今度はちゃんと冷ましてからフライドポテトを口に運んだ。
「これこれ! これで勉強が捗るわ~」
「本当に勉強が捗るのか?」
「食べながらすれば分かるって!」
有紀がそう言うのでフライドポテトを食べながら勉強をしてみることにした。
よくスポーツの試合とかで集中するためにガムを食べながらプレイをしている選手を見るが、どうやらそれと同じ効果があるらしい。
フライドポテトを食べながらする勉強は思っていたより集中してすることができた。
☆☆☆
ファミレスでの勉強会を終えて家に帰っている途中だった。
久しぶりにナンパをされたのは。
「うわ! めっちゃ可愛い子が三人もいんじゃん!」
「ヤバ! レベル高!」
「君たち学校帰り? よかったらお兄さんたちとファミレス行かない?」
ナンパしてきたのはチャラそうな三人の男。
おそらく大学生。
最近ナンパをされることがなくなったから油断していたけど、彼女たちは街を歩けば毎日数回はナンパをされるほど可愛い。
だから、極力俺が一緒に歩いているのだが……。
(こいつら俺がいることに気が付いてないのか? それとも気が付いているが関係ないと思っているのか)
どちらなのかは分からないが、どちらでもいいことだった。
なぜなら、ナンパされても無視をすると決めているからだ。
俺たちはお互いに視線を交わして頷き合うと一言も話すことなく、まるで自分たちは無関係だという風に男たちの横を通り過ぎた。
「ちょっと待てよ! 俺たちのことを無視してんじゃねぇよ!」
誰がそう言ったのか分からないが、かなり大きな声だった。
誰が言ったのかなんてどうでもよかった。
俺たちは聞かなかったことにして歩き続けた。
「だから、待てって言ってんだろ!」
再び同じ男の声が聞こえてきた。
それと同時に足音も近づいてくる。
こういうタイプはちゃんとケリをつけないといつまでも追いかけてくる。
俺は立ち止まって振り返った。
「櫂。あんまりやり過ぎたらダメだよ」
「分かってるよ」
「じゃあ、櫂。ボコボコにしちゃって!」
「了解」
「櫂君。怪我には気を付けてくださいね」
「あぁ」
彼女はこれから俺が何をしようとしているのか分かっている。
彼女たちがナンパをされた時はいつも俺が対応してるから。
「何だよお前! そこどけよ!」
「男には興味ねえんだよ!」
「お前みたいな地味なやつじゃ釣り合わないから俺たちが貰ってやるよ!」
最後にそう言った男が俺の肩をドンと強く押した。
「渡しませんよ。彼女たちは俺にとって大事な……」
俺はそこで一度言葉を切って彼女たちのことを見た。
「ゲーム友達ですから」
「ゲーム友達だかなんだか知らねぇけどよ! 俺たちが用があるのはお前じゃねぇんだわ!」
「だから、さっさとそこどけよ! 痛い目に遭いたくなかったらな!」
ナンパをする奴は大抵自己中な人間が多い。
ナンパをされる身のことなんて何も考えてないし、自分に酔っているから出来るのだ。
自分たちの目的が達成できればそれでいいと思っている。
彼女たちと一緒に街を歩くようになって、何度もナンパをされてそう感じていた。
「どくきはねぇんだな」
「そうですね」
「じゃあ、どうなっても知らねぇぞ!」
三人のうち一番背の高い男が俺に向かって殴り掛かって来た。
(まったく隙だらけだな)
こんなに隙だらけならあくびをしてでも受け流せる。
受け流したついでに俺は男の背中を押した。
俺に背中を押された男は地面にかなりの勢いで顔から倒れこんだ。
男の顔には一生残る傷が出来たことだろう。
「次はどっちがあの男みたいにそのカッコいい顔に傷をつけたいですか?」
俺はにっこりと笑って残り二人にそう聞いた。
「す、すみませんでした~!!!!!!」
残りの二人はそう言いながら逃げるように立ち去って行った。
地面に顔から倒れこんだ男も立ち上がると二人の後を追うように立ち去って行った。
「お待たせ。それじゃ、帰ろう……うわぁ!」
少し後ろの方で待っていると思っていた彼女たちがいつの間にか側までやって来ていて、俺に勢いよく抱き着いてきた。
「櫂。カッコよすぎ!」
「それな!」
「いつもありがとうございます」
「い、いきなりどうした?」
「なんか久しぶりに櫂にナンパから守ってもらったからテンション上がちゃってさ~!」
「ゲームをしてる時の櫂もめっちゃカッコいいけど、ナンパから守ってくれる櫂もめっちゃカッコいいよね! これならいくらでもナンパされるよね~」
「いや、さすがにそれはやめてくれ? いつも俺がいるわけじゃないからな?」
「それは分かってるって。されるなら櫂と一緒にいる時にされるって!」
「それもそれでどうかと思うけど……」
もちろん一緒にいる時は必ず守る自信があるけど、そんなに頻繁にナンパされるのは困る。
「てかさ~。櫂。私たちのことをゲーム友達って認めてくれてたんだね」
「そりゃあな。これだけ一緒にゲームしてるのに認めないわけないだろ」
「そっか。ありがとね。私たちのことをゲーム友達として認めてくれて」
彩海がそう言った。
俺が今こうして彼女たちと一緒にゲームが出来ているのは彩海のおかげだ。
彩海が俺と一緒にゲームをしたいと言ってくれなかったら、今も俺は一人でゲームをしていただろう。友達と一緒にやるゲームの楽しさを忘れたままでいただろう。トラウマを克服できてはいなかっただろう。
すべては彩海のおかげだ。
むしろお礼を言うのは俺の方だ。
「お礼を言うのは俺の方だよ。いつも俺と一緒にゲームをしてくれてありがとう。彩海、アリス、有紀。これからも俺と一緒にゲームをしてください」
俺がそう言うと三人はうっすらとその目に涙を浮かべて、さらに抱き着いてきた。
「もちろんこれからも一緒にゲームをするから! てか、死ぬまで一緒にゲームするつもりだから覚悟しといてよね!」
「そうね。おじいちゃん、おばあちゃんになってもこの四人で楽しくゲームできたらいいわね」
「そうですね。これからも楽しくゲームをするためにまずはテストを乗り切らないとですね」
「そうだった~!」
「だな。赤点を回避しないとな」
これからもこの四人でゲームができればいいなと強く思った。
この三人とならいつまでも楽しくゲームができる。そんな気がした。
☆☆☆
読者の皆さんが勉強会をしていた場所教えてください!笑
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