第8話 2日目 有紀と図書館で勉強
テスト勉強二日目。
今日は図書館で勉強をすることになった。
火曜日は、アリスはボイトレの日で、彩海は十八時からゲーム配信があるということで、今日は有紀とマンツーマンだった。
「図書館に行くのなんて子供の頃以来だ」
「そうなのですか?」
「あぁ。普段、本読まないし、特に行く用事もないからな。有紀はよく行くのか?」
「櫂君のお家にお邪魔するようになる前はよく来ていましたね。今は全く行かなくなりましたけど」
「そうなのか。でも、家で本を読んでるよな?」
「図書館には行かなくなりましたけど、学校の図書室には行きますからね。図書室で借りています」
「なるほどな」
学校から図書館までは徒歩で十分ほどだった。ちなみに俺の家と逆方向だった。
図書館内は冷房が効いていて涼しかった。
「席が空いているといいのですけど……」
俺たちは勉強ができるスペースに向かった。
運よく席が空いていたので俺たちは横並びで座った。
「それでは今日は歴史をやりましょうか。今日も昨日と同じでまずは課題の問題集から終わらせちゃいましょうか。歴史はある程度一人で出来ると思うので、まずは一人で頑張ってみましょう」
「分かった」
「もちろん分からないところはいつでも聞いてもらって構いませんからね」
「ありがとう」
俺は問題集と歴史の教科書をスクールバックから取り出した。
「では、私は本を取ってきますね?」
「有紀は歴史の勉強をしないのか?」
「私はもうすべて頭に入っていますから」
「さすがだな」
「それでは行ってきますね」
「あぁ、行ってらっしゃい。気を付けてな」
有紀を見送ると俺は問題集を開いた。
案の定、昨日の国語と同じく問一から分からなかった。
隣に有紀はいないので、俺は教科書を開いて答えを探すことにした。
すると案外あっさりと答えが見つかった。
見つけた答えを回答欄に書き入れた。
そんな感じで一ページ埋め終えたところで有紀が戻って来た。
「順調ですか?」
「今、一ページ終わったところ」
「凄いですね。その調子で頑張りましょう」
たったの一ページ終えただけでも、有紀はこうやって褒めてくれるから自然とモチベーションが上がる。
昨日もそうだった。
だから、普段は一時間も持たないのに二時間も集中して勉強をすることができた。
「有紀は読みたい本が見つかったみたいだな」
「はい」
隣の席に有紀が座った。
「何にしたんだ?」
「ミステリ小説です。このシリーズの最新刊が来月発売するので一から読み直そうかと思いまして」
「面白いのか?」
「面白いですよ。毎回スイーツに絡んだ事件が起きるのですけど、その事件を主人公が事件に関わったスイーツを食べながら解決するのです」
「へぇ~。読んでみようかな?」
「えぇ、ぜひ」
「無事にテストを終えることが出来たら夏休みにでも読んでみるかな」
「そうですね。まずはテストを乗り切らないといけませんね。分からないところはありましたか?」
「さっきのページは大丈夫かな。教科書を見ながらやったら解けたから」
「そうですか。歴史は暗記ですから、ひたすら何度も教科書を読んで覚えるしかありません。後は時系列で出来事を覚えていくと覚えやすいかもしれませんね」
「分かった」
「頑張ってください」
俺は再び問題集と向き合った。
有紀も本を開いて読書を始めた。
有紀が隣にいるというだけで心強かった。
俺はひたすらに教科書を読みながら問題を一問ずつ解いていった。
☆☆☆
「櫂君。そろそろ帰りましょうか」
有紀にトントンと肩を叩かれて俺の集中力は途切れた。
「もう閉館時間ですよ」
「え、もうそんな時間か?」
「はい」
館内には閉館を知らせる音楽が流れていた。
「かなり集中されてましたね」
「どうやらそうみたいだな」
俺たちが図書館に来たのは十六時半頃。
どれくらいの時間が経ったのかとスマホを見てみると十九時半になろうとしていた。
「マジか。俺、三時間も勉強してたのか」
「ですね」
「俺、こんなに集中して勉強できたんだな」
そのことに驚いた。
自分がまさかこんなに勉強できるとは思ってもいなかった。
昨日の二時間でも凄いと思っていたのにまさかの記録更新だ。
「図書館だからかもしれませんね」
「たしかにそれはあるかもな」
この静かな環境と、他に目移りするものが無い環境というのが俺を勉強だけに集中させたのだろう。
「どうですか? 問題集は終わりましたか?」
「後、数ページ残ってるかな」
「よく頑張りましたね。歴史は問題数が多いので残り数ページまで終わったのは凄いと思います」
有紀クラスに頭の良い生徒なら三十ページを三時間もかからずに終わらせるだろう。
それでもこうして褒めてくれるのだから有紀は優しい。
「ありがとな。有紀がそうやって褒めてくれるから頑張れるわ」
「それで櫂君のやる気が出るのならいくらでも褒めてあげますよ」
そう言って有紀はにっこりと笑った。
「彩海ちゃんの配信が終わるまでもう少し時間がありますし、頑張ったご褒美に甘い物でも買いに行きませんか?」
「そうだな。結構頭使ったし、ちょうど糖分を取りたいと思ってたところだから買いに行くか。その本はどうするんだ?」
「読み終えたので本棚に返してきます」
「俺も一緒に行くよ」
俺はテーブルの上に広げていた問題集と教科書をスクールバックにしまうと立ち上がった。
そして、有紀と一緒に本を本棚に戻しに行って、図書館を後にした。
☆☆☆
図書館を後にした俺たちはスイーツ店に向かっていた。
といっても、どのお店に行くかはまだ決まっていない。
事前に有紀が調べたお店に行く時もあれば、今みたいに街中をぶらぶらと歩いて気になったお店に入る時もある。
「この時間だからスイーツ店はあんまり空いてないかもな」
「そうですね。まぁ、その時はコンビニで買いましょう。コンビニスイーツも美味しい物がたくさんありますから」
「そうだな」
そんな話をしながら街中を歩くこと十分。
有紀が「あそことかどうですか?」と立ち止まってお店を指差した。
有紀が指差した先にあったお店はオシャレな外装のスイーツ店だった。
「まだ行ったことのない初めてのお店だな。行ってみるか」
「はい!」
嬉しそうに返事をした有紀に手を引かれながらそのお店の中に入った。
内装は若者が好きそうな感じだった。
若い女性の店員さんに出迎えられ、俺たちはショーケースの前に立った。
ショーケースの中にはまだ少し商品が残っていた。
どうやらこのお店はチーズケーキ専門店らしい。
「まだいくつか残ってるな」
「そうですね。どれも美味しそうです」
「どれ買う?」
「もちろん残っているやつ全種類一つずつです!」
「そう言うと思った」
俺は店員さんに全種類一つずつくださいと言った。
有紀がスイーツ店でスイーツを買う時はだいたいこの買い方だ。
将来自分のお店を出す時の勉強のためらしいが、いつもその細い体のどこに入るのだろうかと不思議に思う。
もちろん有紀一人で食べているわけではないし、一日で全部食べているわけではないが、それでも俺たちの倍以上は食べている。
それなのに抜群のスタイルを維持しているのは有紀が弛まぬ努力をしているからだと俺は知っている。
有紀はスイーツのためならなんだってする女だ。
「お待たせしました~」
箱詰めを終えた店員さんが俺たちに間違いがないかを確認してきた。
箱の中にはチーズケーキが七つ入っていた。
支払いは有紀が行った。
スイーツに関連する支払いはすべて有紀がする。
一度、俺が支払いをしようとしたことがあったが断固として払わせてくれなかった。
それ以来、俺はスイーツに関する支払いはしないことにした。
「お家に帰って食べるのが楽しみです」
「そうだな」
スマホで時間を確認するとすでに二十時を過ぎていた。
「時間的にもいい感じだし、帰るか」
「そうですね。有紀ちゃんの配信も終わってお腹を空かせている頃ですね」
「だな」
スイーツ店を後にした俺たちは俺の家に向かって歩き始めた。
夜空には綺麗な満月が浮かんでいた。
☆☆☆
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