短編集

第6話 三人と過ごす日々

 初めて彩海と一緒にゲームをしてから一ヵ月が経とうとしていた。

 この一カ月で俺たちの関係はかなり変化した。

 呼び方が名前呼びになり、俺は敬語を使わなくなった。

 そして、大きな変化が……。


「みなさん。チーズケーキが焼き上がりましたよ」

「待ってました!」

「うわぁ~。いい匂い~」


 これだ。

 彩海あやみ、アリス、有紀ゆきの三人が俺の家に頻繁にやって来るようになった。

 平日、休日に関係なく暇さえあれば三人は俺の家にやって来ては何時間も一緒にゲームをしたり、一緒にご飯を食べたり、だらだらと過ごしたりしている。

 家に来る人数はその日によって変わって、誰か一人の時もあれば二人の時もある。

 今日は土曜日で全員予定がなく暇だったらしく三人が家にやって来ていた。

 毎週土曜日はこうやって有紀がスイーツを手作りして俺たちに振舞ってくれる日だ。

 有紀はスイーツを作るのが趣味のようで先週はクッキーを焼いてくれた。

 焼き上がったばかりのチーズケーキを有紀が四人分に切り分けてくれた。


「飲み物は何飲みますか?」

「私はコーヒー!」

「私も」

「じゃあ、俺もコーヒーで」

「分かりました。淹れてくるので少し待っていてくださいね」

「あ、俺も手伝うよ」

 俺は有紀と一緒にキッチンに向かった。

「櫂君はコップを出してもらえますか? 私はお湯を沸かすので

「了解」


 俺は食器棚から四人分のマグカップを取り出した。

 お揃いのマグカップだ。

 俺が水色、彩海が赤、アリスが黒、有紀が白。

 他にもお揃いの物はいくつかある。

 お湯が沸き上がった。

 有紀がスティック状になったコーヒーの粉をそれぞれのマグカップに入れてお湯を注いだ。

 粉が混ざるようにスプーンで混ぜると二人でコーヒーを二個ずつ持って運んだ。


「お待たせしました」

 全員の前にチーズケーキとコーヒーが並んだ。

 いただきますをしておやつタイムを始めた。


「ん~! 有紀のチーズケーキは世界一美味しい!」

 早速チーズケーキを口に運んだ彩海が言った。


「ふふっ、大袈裟ですよ」

 そう言いつつも有紀は嬉しそうに微笑んでチーズケーキを口に運んだ。

 俺もチーズケーキを口に運んだ。

 口の中に入れた瞬間に溶けてなくなるほどふわっふわで濃厚なチーズケーキだった。

 何個でも食べれそうなくらい美味しい。


「有紀の作るスイーツはどれも美味しいな」

「ほんとそれ! 天才だよね!」

「褒め過ぎですよ」


 有紀は感情が顔に出やすいタイプだ。

 俺たちに褒められた有紀は恥ずかしそうに頬を赤く染めている。

 そこがまた可愛かったりする。


「だって事実だしね~?」

「そうだな」

「これなら今すぐにでもお店を出せるんじゃない?」

「私なんてまだまだですよ。上には上がいますから」


 有紀の将来の夢は自分のお店を持つことらしい。 

 そのためにこうやって毎週土曜日にスイーツを作ったり、いろんなスイーツ店を回ってそのお店でスイーツを買って食べたりして日々研鑽を行っているようだ。

 俺もたまにそのスイーツ店巡りに付き合っている。


「もっともっと頑張らないといけません」

「試食だったらいくらでも付き合うからいつでも言ってね!」

「ありがとうございます」

「てか、もう少ししたら夏休みだからいつでも作れるね!」

「そうですね。たくさん作るので覚悟しておいてくださいね?」

「任せて! ちゃんと残さず全部食べるから!」

 彩海が胸を張って言った。


「てか、もうすぐ夏休みか~。なんかこの一カ月あっという間だったなぁ~」

「ね~。早かったね」

「ですね」

「そうだな」

「私たちずっとゲームしてたよね~」

「してたよね」

「毎日のようにやってましたね」

「してたな」


 本当に毎日のようにこの四人でゲームをしていた。

 オフラインでもオンラインでも。

 三人は心の底からゲームを愛していて、怒りに任せて俺のデータを消したり、ゲーム機を壊したりしない。

 俺の中のトラウマはすっかりと消え去っていて、この三人と一緒にゲームをする時間は最高に楽しく、心地が良かった。


「そういえば、まだゴムってあったっけ〜」

「あ〜。昨日全部使い切ったんじゃない?」

「後から買いに行かないといけませんね」

「あれってさ、意外と高いよな〜」

「何? それはもしかして、生でシたいってこと?」

 隣に座っているアリスはニヤーっと口角を上げると俺の太ももをさすってきた。


「別に私はいいよ? 櫂が生でシたいって言うなら生でさせてあげる♡ 櫂の子供欲しいし♡」


 アリスがそんな言葉を俺の耳元で囁いた。その囁き声は俺のことを誘うHなお姉さんだった。

 その声で誘われたら抗うことは不可能。

 俺の初めてはこの声によって奪われたと言っても過言ではない。

 あの日、この声で誘われた俺はアリスに初めてを捧げた。

 アリスは声優になるのが夢で日頃からいろんなキャラの声を真似している。 

 今のHなお姉さんボイスは〇〇三世に出てくる女怪盗のキャラの真似だ。


「いや、さすがにまだダメだろ」

「ふ~ん。我慢できるんだ」

「それは……」

 我慢できる自信は確かにないけれど、あの時もアリスに誘われ我慢できなかった。


「私は櫂には無理だと思うな~」

「なになに~? 何が無理だと思うの?」

「ん、櫂が生でするのを我慢できるかどうか」

「あ~。それは無理だね」

「無理でしょうね」

 

 彩海と有紀は笑って頷いた。  

  

「俺ってそんなに意思弱い?」

「弱いね~」

「弱いね」

「弱いですね」

 三人は口をそろえて言った。


「だって、私と一緒にゲームして二日目には櫂の方から一緒にゲームしよって誘ってきたじゃん」

「……」

「私の誘惑には簡単に乗って来たし」

「……」

「いつもスイーツを選ぶとき時間かかりますしね」


 自分では意思が強い方だと思っていたがどうやらそんなことはなかったらしい。

 すべて事実なので俺は何も言い返せなかった。


「まぁ、それが櫂の良いところだからいいんじゃない? てことで、誰がゴムを買いに行くかゲームで決めちゃう?」

「いいね。そうしよっか」

「分かりました」

「分かった」

「じゃあ、決まりだね! 負けた二人が買いに行くってことでOK?」

「OK」

「はい」

「いいよ」


 チーズケーキを食べ終えた俺たちはテレビの前に移動した。

 パーティーゲームをする時はわちゃわちゃだが、対決をする時は全員が真剣な顔つきになる。

 誰も笑顔など微塵も見せない。

 そのくらい全員ゲームと真剣に向き合っているし、ここにいるみんなに負けたくないと思っている。

 対戦をする相手をじゃんけんで決めた。

 結果、ゲームで負けた俺と有紀が買いに行くことになった。


☆☆☆ 

 

 三人との馴れ初めは徐々に明らかになっていきます。

 なので引き続きお話をお楽しみください。


 このお話は木、金、土、日更新になります。

 

 どのくらいまでセーフなのか分かってないので探り探りで書いていきます笑

 いつもと少しテイストが変わると思いますがよろしくおねがいします!


 いつものテイストのお話は12月頃に長編を投稿しようと思ってます。

 タイトルは「オンリーデイズ」

 ラブコメなのでそちらもお楽しみに~

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