第5話
一日考えた末、俺は昼休憩に空き教室に来てくださいと書いた手紙を広瀬の下駄箱に入れた。
その手紙はちゃんと広瀬の手に渡ったようで、午前中何度もチラチラと俺の見ていた。
広瀬からの視線を受けながら午前中の授業を受け、昼休憩になった。
俺は広瀬より先に教室を出て空き教室に向かった。
広瀬は俺が空き教室に来て五分もしない内にやってきた。
「話って何?」
少し不安そうな顔の広瀬は俺の隣の席に座った。
「まずはごめんなさい」
広瀬が席に座ると同時に俺は広瀬に向かって頭を下げた。
「えっ、なんで京堂君が謝るの?」
「俺の事情で広瀬さんのことを振り回したから」
「いやいや。むしろ謝るのは私の方だから。私こそごめんね。アリスに怒られちゃった。ゲームのことになるとずけずけと相手のパーソナルスペースに入ってく癖をやめなさいって」
広瀬は苦笑いを浮かべると話を続けた。
「それからアリスに京堂君のトラウマのこと聞いちゃった。ごめんね」
「別にいいですよ。今日、言おうと思ってたので」
「そっか。あんなことがあったら、そりゃあ誰かと一緒にゲームなんてしたくなくなるよね。もし今の私が同じことされたら、その人とは絶交するだろうし、京堂君と同じように誰かと一緒にゲームをするのがトラウマになると思う。だから、もう強引に一緒にゲームをしようなんて言わない。だけど、もしほんの少しでも私と一緒にゲームしてもいいって思ってくれてるなら、京堂君のトラウマを忘れさせるくらい楽しい時間にする自信はあるよ」
「その言葉信じてもいいですか?」
「もちろんだよ! 信じて!」
「分かりました。じゃあ、広瀬さんのことを信じます」
俺はズボンのポケットからドリクエのIDを書いた紙を取り出して広瀬に渡した。
「これは?」
「俺のドリクエのID」
「えっ!? いいの!?」
「うん」
「本当にいいの!?」
「いいですよ」
「ということは一緒にゲームしてくれるってことだよね?」
「そうなりますね」
「やった~!!!!!!!」
教室に響き渡るほど大きな声でそう言った広瀬は子供のような無邪気な笑顔を浮かべて俺に抱き着いてきた。
「本当に京堂君と一緒にゲームが出来るんだよね!?」
「そ、そうですね」
「嬉しい!!!!!」
広瀬にさらにぎゅぅっと抱きしめてきた。
「あ、あの……さすがにこれ以上は……」
「あっ! ごめんね! 私また……昨日アリスに怒られたばかりなのに」
自ら反省をした広瀬は俺から離れた。
そして椅子に座り直して改めて俺のことを見た。
「もう一度聞くけど、本当に私と一緒にゲームしてくれるんだよね?」
「はい」
「そっか。じゃあ、連絡先交換しとかない? 交換しといた方が絶対に便利だし」
「いいんですか?」
「もちろん!」
広瀬の連絡先を欲しがっている生徒は山のようにいるだろう。
男子生徒が広瀬に連絡先を聞いては優しく断られているのを頻繁に目にしていた。
お互いにスマホをポケットから取り出してRINEを交換した。
俺の友達リストに初めて家族以外の人間が登録された。
「これでいつでも一緒にゲームできるね!」
「そうですね」
「ちなみに京堂君が初めて連絡先を交換した男の子だよ!」
「え、そうなんですか?」
「うん!」
驚きのあまり俺はスマホの画面と広瀬の顔を何度も交互に見た。
何度見ても俺のRINEに広瀬の名前がある。
まさか、俺があの広瀬と初めて連絡先を交換した男子生徒になるとは思ってもいなかった。
これは絶対に他の男子生徒に知られないようにしないといけない。
「一緒にやるゲームってドリクエでいいよね? それとも他のゲームにする?」
「ドリクエでいいんじゃないでしょうか」
「じゃあ、ドリクエを一緒にやろう! ドリクエだったら自分の家からでもできるしね!」
「そうですね。さすがに家で一緒にやるのはちょっと……」
「分かってるよ~。それはもっと京堂君と仲良くなってからにする!」
「俺の家に来て一緒にゲームをやるつもりなんですか?」
「もちろん! いつかはね! そのために今日は私と一緒にゲーム出来て楽しかった。もっと一緒にゲームしたいって思ってもらえるように頑張るから!」
「お手柔らかにお願いします」
それから俺たちは何時からゲームを一緒にするのかを決めた。
何時から一緒にゲームをするのか決めた後、広瀬は教室に戻って行った。
空き教室から出て行く広瀬の顔はいつも以上に眩しい笑顔を浮かべていた。
「これでよかったんだよな」
一人になった空き教室で俺はボソッと呟いた。
自分の選択が正しかったどうかを分かるのは選択した時ではなく、選択したことをやった後だ。
だから今は自分の選択が正しいのかどうかは分からない。
でも空き教室から出て行く時の広瀬の顔を見て、この選択をしてよかったと思った。
☆☆☆
次回からが本編です!笑
甘々でちょっぴりHなゲーマーな彼女たちとのお話が始まります!
お楽しみに~
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