第3話
「し、しませんけど!」
「じゃあ、別にいいじゃん。私、男の子のゲーム友達欲しかったんだよね~。だから、私となってよ。ゲーム友達!」
そう言って広瀬は俺に手を差し出してきた。
握手をしようということなのだろう。
「なりませんよ。俺はもう二度と友達を作らないって決めてるんで」
差し出された手を握る代わりに俺は焼きそばパンを手に持って袋を開けた。
「だから、京堂君っていつも一人なんだね。それにこうして話しててもどこか距離を感じてたのはそのせいなんだね。同級生なのにずっと敬語だし」
実際その通りだった。
俺は相手との間に壁を作っている。
敬語なのはそういうことだ。
「そういうことです。確かに今朝は広瀬さんとドリクエ話ができて楽しかったですけど、やっぱり遠慮しておきます」
「何かあったの? 友達関係で」
広瀬は何の躊躇いもなく聞いてきた。
普段の広瀬もそうだ。
男子女子、先輩後輩、関係なく誰にでも同じように接している。
その距離感は0に等しい。
だから、広瀬はいろんな人から好かれている。
中には女性でも広瀬に惚れている生徒もいる。もちろん男子の中にはたくさんいる。噂では毎日のように先輩後輩問わず告白されているとか。
そんな広瀬にとってはこれが普通なのだろう。
相手との距離感がないから、聞きにくいことでも関係なく聞いてくる。
聞かれた身としては思い出したくもないことを思い出させられるのだから、たまったもんじゃない。
昔のことを思い出したくなかったので、俺はその質問には答えなかった。
俺は無言で焼きそばパンを食べて続けた。
無言を肯定と受け取ったのか広瀬は「そっか」と呟いた。
「十数年も生きてれば人間関係に嫌になることもあるよね。分かるよ。私も友達なんていらないって思ってた時期があるから」
「……」
「意外って顔してるね」
「……はい」
そんな過去を持っているなんて、とても今の広瀬からは想像できなくて意外だった。
それが顔に出てしまっていたのだろう。
「まぁ、意外だよね。自分で言うのもあれだけど、今の私は友達多いし」
「そうですね」
「中学生の時はこんな性格でもなかったんだよ? それこそ京堂君みたいなタイプだったんだ~。信じられないだろうけど」
「信じられませんね」
「あはは、だよね~。でも、これが本当なんだなぁ~」
広瀬は少し恥ずかしそうに笑って話を続けた。
「私さ、ゲームが好きなんだぁ~。中学生の時にね。京堂君も知ってると思うけど有紀とアリスにゲームを勧められたの」
有紀とアリスというのはクラスメイトの
天笠と姫川は特に広瀬と仲が良いクラスメイトだった。
どうやら三人は中学生からの付き合いらしい。
「中学生の時の私はいじめられてて友達なんてもう二度と思ってたんだけどね。一瞬だったよね。その気持ちが覆るのは。友達とやるゲームが楽しくてさ、すぐに二人と友達になったもん! だから、京堂君も私たちと一緒にゲームしたらきっと変わるよ! 私たちと友達になりたいって思うよ!」
広瀬はそう言ったがそれはないだろうなと思った。
なぜなら、俺が友達を作らない理由はゲームが関係しているからだ。
「それはないですね」
「なんで?」
「言いませんよ。思い出したくもないので」
「そんなに嫌なことがあったんだ」
「まぁ、そうですね」
「そっか。いいよ。言いたくないなら言わなくても。だけど、私とは友達になろうよ!」
「話聞いてました? 完全に友達にならない流れでしたよね?」
「京堂君が友達になりたくないと思ってても、私は京堂君と友達になりたいって思ってるんだもん!」
「強引ですね」
「友達になるなら多少強引なくらいじゃないと無理でしょ」
「そんなことないと思いますけどね」
「と・に・か・く! 今日から京堂君は私の友達ね!」
そう言って広瀬は再び握手を求めてきた。
この手を握れば俺は広瀬のゲーム友達になるということなのだろう。
もちろん手を握るつもりはない。
俺は、握るつもりはなかったが、広瀬がそうとは限らない。
俺が握手をするつもりがないことが分かったのか広瀬は自分から俺の手を無理やり握った。
「はい! これで私たちはゲーム友達ね! ということで放課後、京堂君の家に行くから!」
強引すぎるほど強引に約束を結ばされた。
「本当に来るつもりですか?」
「もちろん!」
眩しすぎる満面の笑みを浮かべている広瀬を見て、これはもう何を言っても聞かないなと思った。
仕方がないのでここは諦めて、放課後になんとかしようと思った。
☆☆☆
そして、放課後。
結局雨は放課後になっても降り続けていた。
「さて……」
俺は教室の中を見渡した。
幸いにも広瀬は今、天笠と姫川と教室の真ん中あたりで楽しそうに話をしている。
逃げるなら今のうちなのだが、広瀬の立ち位置が厄介だった。
話に夢中になっていても、俺の姿がバッチリと見えるところで話をしている。
わざとその位置にいるのか、たまたまなのか。
(まぁ、わざとだろうな)
そうなると残された方法は一つだけ。
それは……走って逃げるということだ。
俺は教室から下駄箱まで走った。
下駄箱に到着して靴を履き替えた。
広瀬は来ていない。
でも、まだ油断は禁物だ。
雨が降っているから走って帰ることは難しい。
俺は傘をさして出来るだけ速足で歩き始めた。
何度も後ろを見ながら、広瀬が追ってきていないことを確認して、家に到着した。
さすがにここまでくればもう安心だ
どうやら上手く広瀬から逃げることができたようだ。
傘についた雨粒を振り払って、暗証番号を入力すると俺はマンションのエントランスに入った。
エレベータに乗り七階のボタンを押した。
今日は上手く逃げ切ることができたが、明日はどうなるか分からない。
広瀬もバカじゃない。そう何度も上手くはいかないだろう。
明日からの対策を考えながら、俺はドリクエをしようと思った。
☆☆☆
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