第3話(全7話)

 弓良ゆらが進む道に、制服を着た少年、少女は存在しない。

 きっと、皆、もう登校してしまったのだろう。

 ここにいる学生は、ゆらひとりだけ。まるで、自分以外の子どもが世界から消えてしまったみたいだ……なんて言ってる場合じゃない。

 そんな憂愁にひたって足を止めていたら、大事な成績にケチがついてしまう!


 もっと、走れ! もっと、急げ! 弓良ゆら!!


 スーツを着た大人や犬を連れ歩く主婦を避けながら、ゆらは必死に学校を目指す。

 息が切れようが、汗が制服に染みようが、教室についてしまえばどうとでもなる。


 余計な考えを振り切って、ゆらはぐんぐん前に進んだ。


 すると、見慣れた五階建ての校舎が視界に入ってきた。

 ゆらは、ちらりと腕時計に目を通す。


 始業まで、あと十分!!


「やった! 勝った! はい、私の勝ち!! だいだいだーい勝利!!」


 ――なんて、油断をしていると、すぐに不運がすり寄ってくるものだ。

 ゆらは、道のくぼみに足を引っかけて、大きく体勢を崩した。


 あっ、と驚いた少女は、顔面から地面に飛び込むように崩れ落ちる。


「あっ――ぶない!!」


 不運なんかに負けてたまるものか!


 少女は強い。だから、少女は転ばない。


 ゆらは、咄嗟に両手を前に突き出して軸にすると、背筋を思いきり反らせた。

 前方転回!!

 華麗に決めた技で、ゆらは大怪我をまぬがれた。


「――っと!」


 でも、手がじんじんと痛む。


 無慈悲なコンクリートの肌が、少女の柔らかい素肌を傷つけたのだ。それでも、鼻の骨を折るよりはずっとマシか、と考えたゆらは両手を軽く払うと、そのまま校門を突破した。

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