第36話 36(最終話)

36(最終話)


私の名前は宮川みやがわ敏郎としろう

私のその後は仕事を干された事とSNSで罵詈雑言を浴びせられた以外は特に何もなかった。

結局リョー様にも謝罪が出来ないままだ。

そんな時にリョー様が所属する『笑顔の蛸屋』と言う名の会社が立ち上がったと情報を得た。

私は家族に相談し会社の入社試験を受けてみる事にした。

ダメ元だけど受けた結果なんと合格してしまった。

職の内容は営業職だ。

私はリョー様の謝罪も込めて誠心誠意働く事にした。

この事は会社の面接時も面接管に話した内容だ。

今日も人材派遣の打ち合わせを行い汗を流すのだった。


*


あのリョー様事件から半年後『笑顔の蛸屋』の会社は無事に立ち上がった。

僕のポジションは現時点ではあくまでもアルバイトの一人と言う事になっている。

いずれは社員となり役員となる予定だ。

これで僕の未来が決まったような物だ。

就職等を考えなくて良くなったので後は海海かいかい先生が言う通り、学業に恋愛を頑張るだけと思った。


-


時は流れて僕は高校三年生になった。

相変わらず僕はイブキと付き合っている。

体の関係はまだない。キス止まりと言うやつだが、何回かはしている状況だ。

イブキの外見だがあまり言いたくはないがあまり変化がないと言うのが現状だ。

まあ多少はお胸様が大きくなったような気がする程度だ。

それと、ヨウコ、ミチコとも悪い関係ではなく程よい距離の関係だ。

そして今週末はデートではなくお仕事だ。


-


僕が自宅にいると黒塗りのワンボックスカーが迎えに来る。

僕はいつも通りに車に乗り込むと直ぐにお付きの女性達がリョー様の服に着替えさせてくれる。

これはもう毎度の事で慣れっ子になっている。

最初は緊張したり恥ずかしかったりといろいろだったが、何年も同じ事を繰り返すとなれるものだ。

最近は着替えさせてくれるお姉さんに悪戯して、手をペチッと叩かれる始末だ。

こんな所を彼女のイブキに見られたら僕は殺されるかもしれないと思うとゾッとする。


車が現地に着くと僕は付き人に案内されて部屋に通される。

付き人と言うのは宗教団体オクトパスが定期的に人を交代させながら僕に付けてくれている。

当然だが女性だ。

年齢は20代の女性で見た目がまあまあ良い以外は不明だ。


僕は部屋に通されてた後に担当者から説明を受ける。

今日の患者じゃなくておはらいを受ける人の数は35人との事だ。

深部の骨までの人は一人のみで、他は美容に関する事との事だ。

ちなみに今回呼ばれたのは美容系の会社だ。

派遣自体の金額は高くはないが、内容によりプラスアルファーの金額を増額で請求する仕組みとなっている。

金額を判断するのは付き人の役目だ。


僕はいつも通りに患者の幹部に手を当てて能力を発動する。

力を使うと体力が減って行くのだが最近は慣れたせいかあまり苦にならなくなった。

今日のご飯は何かななんて考えて居ると、あっと言う間に仕事は完了した。

適当と思われるかもしれないが、流れ作業なんて真剣にやってはいられないのだ。

僕は仕事が終わると直ぐに車に乗り込み又お姉さん達に着替えをさせてもらうのだ。


僕は車に乗り自宅へ向かいながらもうすぐ来るクリスマスについて考えていた。

イブキから今年は二人で遊びたいと言われていたからだ。

僕は去年のクリスマスの事を思い出す。

去年も二人で過ごすと言っていたのだが、途中からヨウコらが合流して賑やかなイブを楽しんだ。

今年も同じようになるのではないかと思ったが、今年はイブキの提案で何故か二人で温泉へと一泊で出かける事になった。

どうしてそう言う話になったのかは定かではないが、僕がいつも通りに適当に返事をしていたらそうなったらしい。

僕はやらかしてしまったと思ったが、どうあれ温泉は好きなので問題ないと思った。

当然だが両親にはイブキと二人で行く事を話した。

両親の反応は「責任ある行動を」とだけ言われた。

まあ、なんとなく言っている意味は分かる、僕もこどもじゃないからね。


雪が降り積もる中僕とイブキは電車の駅より温泉旅館へと歩いていた。

イブキはフワフワの白いコートを着ていてとても可愛く見えた。

誰かが言っていた。雪の中で見る女性はとても可愛く見えるのだと。

僕は正しくそれだと確信してしまった。

決していつもが可愛くないと言う訳ではない。


無事に温泉旅館へと到着し部屋へと案内された。

普段見る事のない畳の和室でとても風情を感じた。

僕達は早速温泉へと行く事にした。

当然混浴ではなく男女別だ。

僕は室内ではなく露天風呂に直ぐに入ったが、雪が降る中入る温泉は最高だ。

お客さんが多くなかったのも理由かもしれないが、このままずっと湯舟に浸かっていたい気持ちを押さえて僕は温泉から出た。


部屋に戻ると部屋の中央には豪華な食事が用意されていたが、まだイブキは戻っていなかった。

僕は慣れない浴衣を気にしながら椅子に腰かけると、温泉を上がったイブキが浴衣姿で現れた。

まだ髪が完全に乾いていないのか、髪がほんの少ししっとりとしていてなんとも綺麗に見えた。

僕はドキドキしたが食事にする事にした。


「乾杯!」


僕達はオレンジジュースのコップをぶつけ合い叫んだ。

なんとなく一度やって見たかったからだ。

本来お酒が良いのだがまだ未成年なのでお酒はNGにした。


山間の温泉旅館なので山の幸かと思ったが、そんな事はなく刺身や肉といろんな食事でとても楽しめた。

食事の間の会話は全部食事の内容にした。

こんな所まで来て仕事の話や学校の話などしたくなかったからだ。


食事が終わりしばらくすると旅館の人が来て食事を片付けて、畳の上に布団を二つ敷いて行った。

今日は二人きりで寝るのかと少しドキドキしていた。

今までも二人きりではないが教団内で寝た事はある。

あの時はリョー様の事についての会議が長引いたのでみんなで泊ったのだ。

僕達は会話もそこそこに布団に入った。

電気を消してから何気なくイブキが喋り出した。


「今日は温泉に付き合ってくれてありがとう」


「なんだよ急に改まって」


「その…最近と言うか前からなんだけど良太りょうたの気持ちに薄々気づいていたの…私の事があんまり好きじゃないって…それで最後かもしれないから温泉に誘ったの」


僕はイブキの言葉を受けて正直にビックリした。

確かに僕はイブキの事があまり好きではないが、かと言って嫌いと言う訳ではない。

スタイルはあまり良くないが顔はまあまあ好きな部類に入るのだ。

僕はこのままイブキを失うのは無理と言うかもったいない気がした。

なので僕は無言でイブキの布団に入り頭をギュッと胸の辺りで抱きしめてあげた。


「イブキはバカだな。僕が恋愛下手なのを知っていて言っているんだろ?」


「ちっ違うよ…だって良太りょうたの態度が…」


僕は気持ちが高ぶりそのままイブキの唇を塞いだ。


「確かに態度が悪い事は自分でも分かっているよ。でも嫌いって訳じゃないんだ。正直に男だからいろんな女性と話がしたくてそう言う態度になっちゃってるだけなんだ」


「ふふふ、浮気者の彼氏だったんだ」


「いや、まだ浮気はしていないよ」


「あっまだって言った。これからするつもりでしょ」


「つもりはないけど…先は分からないな」


「あっでも…もし…良太りょうたが浮気をしても、私の元に帰って来るなら許すかな…1回くらいは…」


「おっ彼女公認がでたぞ」


「もぉ、良太りょうたのバカ」


その後の事はあまり覚えていない。

まるで夢のような出来事だった。

だが、これだけは言える…僕は大人の仲間入りを果たしたと。


-


それから月日が流れて2月のバレンタインデーになった。

ちなみに僕は進学ではなく『笑顔の蛸屋』に就職する事がきまっている。

僕はイブキから紙袋を渡された。


「バレンタインデーのチョコにしては大がかりだね」


「いっぱいプレゼントあるから」


僕はイブキに言われて紙袋から一つづつ取り出す事にした。

一つ目は箱に入ったバレンタインチョコだった。

その下には手紙のような封筒があった。

僕は封筒を取り出して中を見ると頭が真っ白になる衝撃を受けた。


それは産婦人科で出された妊娠の証だった。

その瞬間にイブキがあらかじめ持っていたクラッカーを引き音を鳴らす。


パン!


「おめでとう!お父さんになりました!」と。


残念ながら僕の記憶と意識はそこで絶たれた。

気が付くと僕はイブキの膝の上で寝ていた。


「お目覚めかな良太りょうたパパ」


僕はイブキの言葉で現実だと改めて知った。


「ああ、目覚めたよ」


「それで…これからどうする?」


イブキはとても不安そうな顔で僕に質問してきた。

僕は覚悟を決めて言葉を放った。


「イブキ学校を卒業したら結婚しよう」


それから目まぐるしい日々が流れた。

結婚式にイブキの出産と怒涛の日々だった。

ちなみに子供は女の子だった。

僕の家系はずっと男だったので少しホッとした。

まだ赤ちゃんなので能力があるかは不明だが、出来ればそんな力を授からないで欲しいと思った。

力がなければ普通の人生が歩めると思ったからだ。


-


それから月日が流れて僕は23歳になった。

娘のリンカも5歳になり話したり歩いたりしてわんぱくぶりを発揮していた。

僕はいつも通りに朝起きて仕事に行くまでの用意をして玄関に歩いていると、横の物置部屋が開いていて何やら高級そうなバックが置いてあった。

僕はなんだろうとイブキに聞いた。


「ねえイブキ、このLとかVのロゴが入った高そうなバックは何?」


僕がイブキに聞くとイブキはしどろもどろになりながら答えた。


「これは…そう…ローカル・バージョンと言う超絶安い鞄なの!私が高級ブランドなんか買う訳ないでしょ」


イブキはそう言っているが、イブキの目は左右にキョロキョロと動いている。

こいつは嘘を付く時は必ず目が動くのだ。


僕はヤレヤレだと思い重いため息をついて仕事に出かけるのだった。


<おわり>

*****************************

ここまで読んでくれてありがとうございました。

※次話に外伝があります。良かったら読んで下さい。


作者 まさひろ


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