第28話 28

28


私の名前は城島じょうじま真司しんじ

シグナルスキャンの息子のお蔭で妻の足が治り私はシグナルスキャンの家族に宣言した。

君の家族は僕が全力を投じて守ると約束すると。


私は手始めに警察庁のトップから攻略する事にした。

私の情報によれば自分の娘の子供つまり孫が交通事故により下半身麻痺との情報を得たからだ。

この怪我を治せば道は開けると思うがリョー様に治せるかは不明なので、シグナルスキャンに電話して聞いた。

結果は恐らくは治せるだろうがリョー様は治すのに体力を消耗するらしく、治癒後のリョー様のケアは必須との回答を得た。

私は初めに警察庁長官の白石しらいし謙三けんぞうに連絡を取り合う事になった。


この白石しらいしと言う男は前に五反田ごはんだ晋三しんぞう先生、つまり少し前の総理大臣の時に紹介してもらった人だ。

人柄は簡単に言えば堅物かたぶつだが、情に厚く恩を売れば確実に返す男だ。

私は平日ではなく休日の昼下がりに都内の喫茶店にて白石しらいしを待った。

彼は約束通りの時間に来てくれた。


「お久しぶりです。白石しらいしさん。今日はご足労を掛けました」


私は丁寧に頭を下げた。


「確かに久しぶりだな。以前会ったのは五反田ごはんだ先生との同伴の時だからな。そんな君から連絡が来た時には何事かと思ったが、孫の事を出されては来ない訳にはいかないからな」


白石しらいしは喫茶店の席に着くなりそんな言葉を掛けて来た。

私は白石しらいしを呼ぶ口実としてお孫さんについて大事な話があるとだけ伝えたが上手く行って良かったと思う。


「ありがとうございます。早速ですが話をさせて頂きます」


白石しらいしはコクリと頷いた。

白髪交じりの髪をオールバックにした強面こわおもての顔が私を射抜くように見つめる。

私はこの男と交渉するのだと思うと身震いがするが、心を押し殺して声を上げる。


「初めにリョー様と言う動画をご存じですか?」


「リョー様?すまんな初めて聞いた。私は動画等は仕事以外は見ないのでな」


「そうですか。それならば話すより見て頂いた方が早いですね」


私は鞄から大きなタブレットを出し白石しらいしに見せ再生ボタンを押した。

動画は動画配信で流れている物を録画しておいた物だ。

内容はリョー様が女性のニキビ等を治す動画だ。長さは2分程。

白石しらいしは最初胡散臭い物を見せられているような雰囲気だったが、リョー様が女性の頬を治すと驚愕の色を見せ声を上げた。


「なっなんだ!この動画は?トリックなのか?」


聞かれるが私は答えない。動画が終わるまでジッと堪える。

そして動画が終わると同時に私は一気に畳みかける。


「この動画に出ているリョー様がお孫さんを治せると言ったらどうしますか?」


白石しらいしは目を大きく開き私を睨み声を上げる。


「嘘ではないのだな!」


それはとても低く重低音のある声だ。


「はい、私の知り合いの息子がこの動画に出ているリョー様です。彼なら白石しらいしさんのお望みの結果が得られると思います」


白石しらいしはふぅ~と息を吐き口を開く。


「対価は何が必要だ」


「話が早くて助かります。第一にこのリョー様の家族を対外から守ってもらう事。第二に只とは行きませんので通常の1/100以下の対価である100万円を払っていただきます。さらにこれは対価ではありませんが、この話及び治療する際の秘密保持をして頂きます。以上です」


「なる程な、対価が安い理由は差額は自分で補填してでも彼らを守れと言う事だな?」


「それは白石しらいしさんにお任せします」


「ははは、食えん男よな。だが、もし本当に治るのであれば全ての要望を飲もう」


「契約成立ですね。それでは段取りに入りたいので病院などの詳細を教えてください」


私は緊張をほぐしながら白石しらいしより詳細を聞いたのだった。


-


それから数日の後、私、白石しらいしそしてシグナルスキャンと息子の良太りょうた君は都内の総合病院に集合した。

病院と言う事と少しでも人目を欺く為に全員がマスク姿だ。

私達は素早くロビーを通り越して上の階にある、白石しらいしの孫の病室へと集まった。

病室の中に白衣を着た初老の男性と女性の看護師が2名、そして白石しらいしの娘とベッドの上には若い男性が寝ていた。

私は素早く任務を果たす為に最初に紹介と準備を確認した。

まず、良太りょうた君が倒れてもいいように壁の際にはストレッチャーと点滴等が準備されていたのを確認する。

次にシグナルスキャンと良太りょうた君を皆に紹介する。


「はじめに皆に紹介させてもらう。こちらが今回ご子息を治療して頂ける方だ」


シグナルスキャンと良太りょうた君は軽く頭を下げた所で私は白石しらいしに目線を移す。

白石しらいしは私の視線に気づくと頷いて声を上げる。


「今から起こる事、話す事は全て機密事項とする。破った者はこの白石しらいし謙三けんぞうがどんな事をしても罰する事を誓う。異議がある者はこの部屋から退出せよ」


白石しらいしが皆を見渡すが誰も動かない事を確認して声を上げる。


「それでは異議なしとして事を進める。城島じょうじま君頼む」


私は頷いてシグナルスキャンへと目線を向けて声を上げる。


「鈴木さんお願いします」


シグナルスキャンは頷いて声を上げる。


「今からご子息を治療しますので、患部がさわれるように準備をお願いします」


シグナルスキャンの声を聞いて看護師の女性二人がベッドへ行き男性を横に向け、着ているパジャマを首元まで捲くり上げる。そして初老の男性医師がベッドの男性へと近づき持っていたペンで腰より少し上の辺りに×印を書いて声を出した。


「この場所が幹部に近い場所です」


「ありがとう、リョー様頼む」


シグナルスキャンが礼を言い息子へと声を上げる。

良太りょうた君は頷くとベッドへ近づいて×印へ右手を当てて声を上げる。


「それでは行きます。ゴッドタッチ!」


良太りょうた君が声を上げた瞬間にベッドの男性の幹部が一瞬光った様に見えた。

そして良太りょうた君がフラリと倒れそうになり、シグナルスキャンが直ぐに駆け寄り息子を抱きかかえる。

すると初老の白衣を着た医師が声を上げる。


「早くこちらのストレッチャーへと寝かせて下さい」


シグナルスキャンは無言で良太りょうた君を抱きかかえるとストレッチャーへと寝かせた。

寝かされた良太りょうた君へと看護師達は、腕に点滴をセットし指には心拍系をセットした。

医師が脈拍系や首元を触り声を上げた。


「問題はないでしょう。少しそうですね2時間程は寝かせる必要がありますね」


「分かりましました。後ほど部屋を移動しますのでお待ちください」


シグナルスキャンが医師へ頭を下げながらお願いした。

私は一段落したと思い声を上げる。


白石しらいしさんご子息の確認をお願いします」


白石しらいしは頷くと初老の医師へと声を上げる。


「先生、孫の容体の確認をお願いします」


医師は白石しらいしの言葉を聞きベッドの脇に行き男性へと声を掛ける。


「それではまず初めに右足に意識を集中して動かしてみようか」


男性は頷くとゆっくりと右足を曲げると共に声を上げた。


「うっ動く!俺の足が動くぞ!」


「落ち着いて次に左足を動かしてみよう」


そしてベッドの男性が左足を動かすと同時に白石しらいしの娘であり、男性の母親が男性に泣きながら抱き着いた。


「たっちゃん!良かった、良かった!お母さんもうダメかと思った~!」


「母さん!恥ずかしいから止めてくれよ!そっそれよりあの人にお礼をしないと!」


ベッドの男性が良太りょうた君を指さすと母親は直ぐに良太りょうた君に駆け寄ると頭を下げて何度も礼を述べた。

ベッドの男性や母親…いや、白石家にとって少し遅い七夕の奇跡が舞い降りた日になった。


それを見届けたシグナルスキャン達はストレッチャーと共に静かに病室を後にしたのだった。

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