第16話 16

16


女性の腕の傷が消えて行くと同時に会場からはドヨメキが起こる。


「これがリョー様の奇跡!イムホテプが降臨しリョー様の体内に入った証拠!オクトパスはリョー様を全面的にサポートします!さあ、会場のみなさんの中で直接リョー様の奇跡を受けたい方は挙手をお願いします。私共が厳選し一名の方に無料でリョー様の奇跡を受けて頂きます」


司会のお姉さんが叫ぶと共に会場からはチラホラと手が挙がる。

会場へ赤い浴衣の女性が傷の確認へ走る。女性は傷を確認すると付けていたヘッドセットより無線で本部へ連絡する。

その結果一人の男性が選ばれて案内されて舞台上へあがって来た。


「こんにちは。今日はどなたかとイベントに来たのですか?」


司会のお姉さんが男性に質問する。


「こんにちは。今日は妻と子供の3人で来ました」


「そうですか、それで怪我と言うのはどういったものでしょうか」


男性は着ていた上着を捲くって見せながら答える。


「左腕なんですけど昔交通事故にあって大けがをしたんですよ。この縦長の傷の部分です。骨も複雑骨折で重傷でした」


僕は見栄え的に選ばれたのだろうと思った。


「そうなんですね。それでは早速リョー様に奇跡を起こしてもらいましょう」


司会と男性は僕の前まで来たので、僕はイブキのイヤホンの指示で立ち上がる。


「それではリョー様お願いします」


僕は司会に頷いて男性の左腕にそっと右手を乗せて、力強い言葉を発する。


「ゴッドタッチ」


僕の体から力が抜けて行く感覚があり、僕はそっと手をどける。

すると先ほどと同様に人体の逆再生が起こったように、肉が盛り上がり元の腕へと戻って行く。

30秒もしない内に綺麗な腕へと戻っていった。

当然近くでカメラマンがその様子を映しており、会場のモニターとネット配信へと流れている。

まず声をあげたのは奇跡を受けた男性だ。


「えっ!?うっ嘘だろ!?おっ俺の腕が治っている!!」


男性は腕を捻ったり回したりして感覚を感じていてそして僕に向かい頭を下げた。


「あっありがとうございます!リョー様!こっこれで又元の仕事に戻れて頑張れます。ありがとうございました」


会場からは拍手が凄い勢いで聞こえて来た。


「皆さま見ましたか!これがイムホテプが降臨したリョー様の力です。今一度大きな拍手をお願いします!」


僕は右手を会場の方を向けて軽く手を振る。当然イブキのイヤホンでの指示だ。

僕はゆっくりと椅子に座り、男性は舞台から袖へと移動して行った。


「それではリョー様の退場です。ミュージックスタート!」


会場と舞台に音楽とライトが輝き、オープニングで踊った女性達が躍りだす。

そして僕は指示に従って舞台より退場した。


「リョー様ありがとうございました。会場のみなさん及びネット配信を見ている方でリョー様の奇跡を受けてみたいと思われる方がいると思います。ネット配信の方は概要欄にインターネットアドレスがありますのでそちらからアクセスをお願いします。そして会場の方は入り口脇にあるブースでの相談か、もしくはネット配信同様にホームページからの相談を受け付けます。ただこれだけは言わせて下さい。リョー様は自らの体を削っての奇跡となりますので、申し訳ありませんが有料となります。それでも治したいと思われる方のみ相談して下さい。これでイムホテプが降臨イベントは終了となります。ありがとうございました」


司会が頭を下げると拍手で午前のイベントは終了した。


僕がバックヤードに戻ると直ぐに僕をサポートするために赤い浴衣を着た女性達が、僕専用のリクライニングチェアへと誘導してくれた。直ぐに覆面と手袋が外されて僕が横になると飲み物が入ったグラスを持った女性が近くに来て、ストローを僕の口へと入れてくれる。僕は栄養ドリンクだろうと思われる物を飲み込むとストローから口を話す。その間に靴が脱がされて女性達のマッサージが始まる。そこへ海海かいかい先生が入って来て僕に体調を聞いてきた。


「リョー様お疲れ様でした。体調の方はどうですか?」


「あっ今回は問題ありません。恐らく二人しか力を使っていないのと、男性にはそれ程力を消費しなかったみたいですから」


「そうですか、それは良かったです。それなら午後のイベントも問題なさそうですね」


「ええ、休憩すれば問題ないと思います」


僕の言葉を聞いて海海かいかい先生は信者達に次の準備の指示を始めた。

それから昼食の弁当が運ばれてきて僕、イブキ、ヨウコ、ミチコの4人で食べる事になった。

弁当は豪勢に焼肉弁当で、かなり美味しかった。


「それにしても踊り上手かったね。僕結構見とれちゃったよ」


僕は食事中に何気ない会話を振ったが思いもよらない返答がイブキからされた。


「それで誰が一番上手だったの?」と。


僕は間髪入れずに直ぐに答えた。


「全員上手かったよ。みんな良く練習してあるなって思った」


危うく女の闘いが始まる所だった。僕は一人で冷や汗を流していた。


「リョー様嬉しいです。これからも頑張って練習しますね」


ヨウコとミチコはハモル様に答えた。僕はそれに笑顔で答えるのだった。イブキを見ないように。

そして午後のイベントも問題なく終了し今日のイベントは問題なく閉幕した。

僕は帰りのバスの中で気になっていた事をイブキに聞いた。


「イブキ、今日司会の人が言っていたけど僕の奇跡を受けるは有料と言っていたけどいくらぐらいになるの?」


イブキは少し考えてから口を開いた。


「もしもリョー様が腕を怪我したとして、日常的には問題ないけど少し激しいスポーツをすると痛むとするじゃない?それが治るとしたらいくら払う?」


僕は真剣に考えた。これは一般人ではなくスポーツ選手だったらと言いたいんじゃないかと思う。

スポーツ選手ならば選手生命が掛かっているのだから…もしかしてとんでもない金額じゃないかと思った。


「正直いくら?とは想像つかないけど、相当な額になりそうな予感はするね」


「私も金額は知らないけど、たぶん相当な金額にするんじゃないかな。安くすると人が殺到してリョー様が倒れるからね」


「ははは、確かにイブキの言う通りだね。まあ、僕としては程々の値段にして欲しいかな。あまり高いと僕にプレッシャーがかかるかもしれないからね」


「大丈夫よ。リョー様に迷惑が掛からないように海海かいかい先生にはしっかり言っておくから」


「うん、それだけは頼むね」


僕達はそんな会話をしながら教団へと到着するのであった。

僕は教団では特にやる事がないので着替えて終了となった。この日も疲れているだろうとの配慮でイブキと一緒に車で送って貰う事になった。僕は車の中でタコショッピングモールのアプリを起動して今日のバイト代はいくらかなとアプリを更新して驚いた。

なんと今日だけで10万ポイントが支給されていたのだ。僕は少し怖くなり隣のイブキにアプリを見せながら聞いた。


「これ大丈夫?」


イブキはチラリとポイントを見て答えた。


「大丈夫よ。リョー様の働きはそれに値すると言う事じゃないの?それにポイントなんだから貰える物は貰っておいてもゴミにはならないわよ。それにもうすぐ良太りょうたの誕生日でしょ?そのポイントを使って二人でお祝いしましょうよ」


流石がイブキだ。人のお金やポイントにも躊躇なく踏み込んで来る。だけどイブキの案も一理あるなと思い返答した。


「よし、それじゃあ僕の部屋でヨウコとミチコそれに高木君も呼んで誕生日会をやろう」


「え~二人がいいなぁ~」


イブキが甘い甘えた声を出して来るがここは断固として拒否をする。


「二人より大勢の方が楽しいからね。又、みんなには連絡を入れるよ。おっコンビニに着くみたいだから又ね」


「お疲れ様」


僕は車を降りて足早に家に帰るのだった。


*


少し時は遡り、イベントが生中継で動画配信をされていたのだが、とんでもない騒ぎになっていた。

そのコメントはこんな感じだった。


『シグナルスキャンのようなチート持ちの再来か』

『本当の奇跡かよ』

『宗教ってのが引っ掛かるけど治るなら安いかも』

『金持ちはいくら払ってでも治したいかもな』

『治すのいくらなんだろう?想像もつかないな』


などなど、直ぐに有名掲示板にスレッドが立った。


インターネット掲示板スレッド


『怪我を治す神の奇跡を信じる?スレ★1』


001 名もなき神の奇跡


宗教団体オクトパスのイベントでイムホテプが降臨し『リョー様』と言う男性が出て来た。

リョー様は女性のナイフの傷を治し、男性の腕の古傷を治した。


ttp://www.リョー様.ryousama_kega_naosu_cheat_dayo


生配信を見ていたが信じられない事が起こった。本当の神の奇跡かも!?

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