第13話 13

13


宗教団体オクトパスで次は能力を使う時の話題となった。


「それでねリョー様、リョー様が能力を使う時の言葉なんだけど、あのちちんぷいぷいと言う言葉は変えたり出来るの?」


イブキが聞いてきたので、僕は想定していた質問に体験談を話す事にした。


「実は少し前に転んで怪我をした時に試した事があるんだ。最初に試したのは何も言わないで能力を使おうとしたけどダメだった。次に『治れ』と唱えて見たけどそれも駄目だったんだ。だから言葉をどう変えようかと僕も少し考えている途中かな」


僕の話を聞きイブキだけでなく、海海かいかい先生や幹部達も真剣に何かを考えていて、又もイブキが口を開いた。


「リョー様は能力を使った時にどんな感じになるの?」


「能力を使うとなんて言えば良いのか…体から何かが抜けて行く感じがするんだ。連続で使った事ないから何が抜けているかは分からないかな」


力…抜ける…パワー…神…怪我…治療…治す…


皆思い思いにボソボソと口を動かして考えていた。そして3分程経った時におしゃべりイブキが口を開いた。


「能力はなんかリョー様の体力とか魂を削って治してるみたいなイメージがあるから『ソウルタッチ』なんてどう?」


「なかなかカッコ良い名前だけど発動出来るかはやってみないと分からないね」


僕は素直な感想を言った。

その後『パワーハンド・ゴッドハンド・ヒーリングハンド』などの案が出された。

そして場所を移して僕の能力の検証の為に移動する事になった。


移動する際に一人の男性を紹介された。

彼は教団で広報及び撮影を担当する者で、リョー様の周りをうろつくので覚えておいて欲しいとの事だった。

手にはカメラを持ち口髭を生やした50歳位の男性が僕の前で一礼して声を出す。


「オクトパスで広報及び撮影を担当している榊原さかきばらと言います。リョー様には迷惑が掛からないようにしますのでよろしくお願いします」


そして榊原さかきばらは頭を下げて来た。


「あっよろしく」


僕は突然でそんな友達に言うみたいな言葉づかいになってしまったが、榊原さかきばらは「失礼します」と言い僕の前から退いたのだった。

僕はその光景を見ていて僕ってここでは『偉い人の役をやるんだ』と確信したのだった。

演劇は幼稚園以外にやった事ないけど頑張ろうと思った。


僕は覆面を被り建物より出て少し大きな平屋の建物へとやってきた。

中に入ると床は畳になっており屋根を支えるように何本もの柱が数多く建っていて広々とした空間になっていた。その中に赤い浴衣を着た信者なのかわからないが、たくさんの男女達が座禅を組んで座っていた。

僕はドキドキしながら海海かいかい先生の後に付いて行き皆の前に立った。人数はざっと見ただけで100人以上はいるように思えた。僕は覆面をしていてよかったと思った。なんせ顔が見えなければ動揺もわからないからだ。

そして最初に海海かいかい先生が口を開く。


「皆の者、こちらにいらっしゃる方は神託の御子みこでおられるリョー様である」


すると全員が僕へ向かい頭を下げる。言葉を発した海海かいかい先生も片膝をついて頭を下げる。イブキや幹部達も同様だ。僕は『えっ!?何が起こっているの?』とビクビクしてしまったが、僕がビビる前に海海かいかい先生が声を上げた。


「リョー様、よくぞ宗教団体オクトパスへ足を向けてくれた事を感謝いたします。出来ればそのお力を皆に見せて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


僕はこんなのは聞いてなかったのでどうしようか迷ったが声に出すのは辞めた。覆面をしていて声を出せば身分を隠す意味がないからだ。だから僕は首を縦に振り頷くのだった。


僕が海海かいかい先生の言葉に頷くと海海かいかい先生が立ち上がり大きな声を上げた。


「皆の者よおもてを上げよ!リョー様がお力を皆の前で見せてくれる事になった」


会場から「お~」と地響きのような声が聞こえる。


「我こそは傷を癒してもらいたい者はいるか!」


海海かいかい先生の言葉でそこら中から手が挙がった。

僕はその間に誘導されて椅子に座らされた。


海海かいかい先生が選ぶように一人の女性を連れて来た。

女性は僕の前に来ると膝まづき頭を下げる。

僕はどうして良いかわからずにいると左の耳元で声がするのだ。

僕は左の方へチラリと顔を向けると誰も居ない…僕は覆面の中にイヤホンが仕込まれている事に気づいた。

僕は心の中でこういう大事な事は事前に伝えろよと毒づいたが今言っても仕方ないので指示を聞く。


『女性の左肩へ右手を置いてポンと軽く一回叩く』


僕が指示通りに行うと女性は顔を上げて「ありがとうございます。右腕に古傷があります」と言いながら右腕を出してきた。

傷は長さ15~20センチくらいで刃物が切ったような傷跡があった。

傷はすでに塞がり皮膚が作成されているが、傷の部分が少しへこみ色が少し変色していた。

僕は治るか分からないがやって見る事にした。

幅が広いので両手で傷の部分の腕を挟むようにして、先ほど案が出た言葉を唱える事にした。


最初に「ソウルタッチ!」


僕は治れと思いながら言葉に出す。僕の体から何かが抜けるような感覚があった。

そしてゆっくりと手を離すと、僕も驚きだが見る見る下から肉が盛り上がり傷が消えて行くのだ。

1分も経たない内に傷はなくなり綺麗な腕へと戻って行ったのだった。

僕は心の中で凄い力だなと関心していたが、直された方はそれどころではなかった。


歓喜に震え泣きながらお礼を言っているのだ。僕は又もやどうしたら良いか分からないので左手を左耳の所へ当てると声が聞こえた。


『右手を上から下へ降ろすと静かになる。右手を前に出して右へスライドさせれば移動せよの合図』


僕は聞きながら手信号のような感じだなと思い実行すると女性は僕の前から静かになり居なくなった。


続いて検証が行われた。

次は腕の火傷の跡の女性。火傷の大きさは長さ20センチ幅は10センチ弱だ。本人曰く1年程前に火傷をしたとの事だ。


「ヒーリングハンド」これも問題なく綺麗に消えた。


次は大柄な男性が前にやって来た。男性は昔野球をやっていて腕が疲労骨折をしたとの事だ。

表面の次は内面の傷の検証と言う訳だ。

僕は正直に無理じゃね?と思ったがやってみないと分からないので僕は両手で腕を挟み込む。

腕はかなり今でも太い為に添える僕の手が小さく見える。

そして僕は次なる力強い言葉を発する。


「パワーハンド!」


その瞬間に僕の体から何かが度っと抜けて脱力感が襲って来た。感じとしては100メートルとかを全力疾走して息を落ち着かせてから、地面に座った時に来るような疲労感だった。

僕が振らりとした瞬間に横の女性が僕を支えてくれて、それに気づいた海海かいかい先生が声を上げた。


「リョー様のお力は一時ここまでとする。皆の者それまで自由とする」


「ありがとうございました」


信者らしき人達が一斉に声を上がて頭を下げた。

僕はその間に少し支えられながら大広間の奥にある部屋へと移動した。

そこで覆面を取ると大量の汗が噴き出ていた。

待っていたスタイルが良く綺麗な女性二人に僕は汗を拭かれたり、ストローで栄養ドリンクの様な物を飲ませて貰っていた。

そこへイブキ達が僕の様子を見に入って来たのだが、僕の幸せそうな顔を見てイブキの目が鋭くなったが、流石にここでは僕に文句を言う事は出来ないので僕はここはチャンスだと思い思い切った発言をしてみた。


「少し横になりたいな」


すると女性が僕を横に寝かせてくれて予想通り膝枕をしてくれたのだ。

上を見上げればお山が二つあり、女性の顔が良く見えないのだ。

僕は必死に口元が緩むのを押さえていたのだが、イブキが音もなくスッと僕の横に座り服で隠しながら腕をつねって来たのだ。

しかも「リョー様大丈夫ですか?」なんて声を掛けながら。

僕はなんて女なんだと文句を言おう思ったが、流石にやり過ぎると行けないので女性に声を掛けた。


「少し楽になりましたので起きますね」


僕は起こしてもらい首を回したりして体調を確認したが問題なさそうだった。

僕が起き上がると心配して様子を見に来ていた海海かいかい先生が声を掛けて来た。


「リョー様大丈夫ですか?」


「あっ大丈夫ですよ。能力を使ったら全力疾走した後の様な疲労感が来ました」


僕の言葉を聞き海海かいかい先生が顎に手を当てて考えていた。しばしの沈黙の後に口を開いた。


「私の推測ではリョー様の力はリョー様自信の体力を使っての治癒ではないでしょうか」


「体力ですか?」


「ええ、走った後の様な疲労感と言いますと単純に体力になりますので、恐らくはそうじゃないかと思います」


「それでは体力を付ければもう少し数をこなせると言う訳ですね」


「恐らくはその解釈であっていると思います」


僕は海海かいかい先生の言葉を聞いて体力づくりをしようかなと少しだけ考えた。

そして僕は中断していた事を思い出して口を開いた。


「検証を中断していましたが、今日はこのまま終わっていいですか?家に帰る体力がないと困るので」


「ええ、もちろん終了で構いません。今日はお疲れなので車で近くまで送らせて頂きます」


「ありがとうございます」


僕は少しだけラッキーだと思った。

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