第10話 10

10


僕がスマホのタコショッピングモールのアプリ内のポイントを再度確認すると、やはり5千ポイントが入っていたのでイブキに聞く事にした。


「イブキ、ポイントが5千入っているんだけど間違いなの?」


その答えはイブキではなく目の前のたこ海海かいかいより返事があった。


良太りょうた君、その5千ポイントは今日指を治してくれた礼と、アルバイトの契約料と思って貰えればいい。後、裸で悪いんだが今日の交通費だ」


たこ海海かいかいは机の上に千円札を一枚置いて来た。


「この交通費は先ほど話したように来るたびに毎回現金で渡そうと思う。後、このアルバイトだが税金を納める必要はない事は先に伝えよう」


僕は直ぐに聞き返した。


「税金を納めなくて良いのですか?」


良太りょうた君も知っているかもしれないが、怪我を治すと言う行為は本来医療行為となる。当然医療行為と言う事になれば資格なりいろんな物が発生する事になる。そこまでは分かるかな?」


僕は頷く。


「それで今回私達が考えた案は良太りょうた君が起こす事は医療行為ではなく、あくまでも神の奇跡と言う形にしようと思う」


「奇跡?ですか?」


「さよう。奇跡つまり神のなすわざや不思議な出来事や現象と言う事になる。奇跡は医療行為ではない事は何となくわかるかな?」


「まぁ、何となくは分かります」


「奇跡に役立つのが私達宗教団体と言う訳だ」


僕は何となくたこ海海かいかいが言いたい事が分かり口を開く。


「つまり、宗教が起こした現象にすると言う事ですか?」


「おっ良太りょうた君は頭の回転が速いようで何よりだ。そう言う事になれば傷を治す対価は私達が患者からお布施として受け取ればいいので、良太りょうた君には関係がない事になると言う訳だよ」


僕はこれで良いのかと少し疑問に思ったが問題はないかと思った。


「わかりました。それではこのアプリポイントと交通費はたこ海海かいかいさんからのお小遣いと言う事で良いですね」


「ああ、そう思って貰って構わない。後、出来れば私の事は海海かいかい先生と呼んでくれると少し嬉しいのだがどうかな?」


「あっわかりました。これから海海かいかい先生と呼ばせてもらいますね」


「ありがとう。それで今日はこの辺とまでにしておこう。あまり詰めすぎると良くないからな」


話はそこまでとなり僕とイブキは宗教団体オクトパスを後にしたのだった。

時刻は昼を少し過ぎていたので、僕とイブキは昼食を食べてから帰る事にし、駅前にファミリーレストランがあったのでそこで食事をする事にした。


「最初宗教団体と聞いた時はビックリしたよ」


僕は注文を終えた後にイブキに語った。


「確かにビックリするわよね。最初から良太りょうたに言うと行かないと言い出すと思って黙っていたの、ごめんなさい」


イブキがいきなり頭を下げて来た。


「ちょっとイブキこんな所でやめてよ。別に変な事された訳じゃないしさ」


「そっそう?なら良かった」


イブキは頭を上げながらホッとした表情になっていた。


「でもイブキと宗教団体とどう言う関係なの?」


「実はあのたこ海海かいかいさん、まあ偽名なんだけど私のいとこに当たる人なんだ。大きな声で言えないけどね」


イブキはそう言いながらウインクしてきた。

確かに自分の親戚が宗教団体とかは言いにくいよな。


「なるほどね。まあ、その事はもう言わなくていいよ。それよりこのタコショッピングモールのアプリの使い方と設定の仕方を教えてよ」


僕はイブキに教わりながら自分の個人情報の登録と荷物を届ける場所(僕の場合は自宅近くのコンビニ)を設定した。


「後は欲しい物があれば指定して購入すれば良いだけよ。簡単でしょ」


「簡単かは分からないけど、家に帰るまでに試しに何か購入して見るよ」


「それが良いわね。でも余り無駄遣いしていると直ぐにポイントなくなっちゃうよ」


「確かに気を付けるよ。その時はバイトを入れる様にイブキにお願いするよ」


良太りょうたが稼ぐ手段を得たから無駄遣いしようとしてる~」


イブキは僕をおちょくるように指で僕の腕をツンツンして来たのでやり返そうとしたが、そのタイミングでご飯が到着したので僕達は美味しいファミレスのご飯を堪能したのだった。


*


良太りょうたが帰った宗教団体オクトパスの内部では今日の話合いといつもの報告がされていて、最初にたこ海海かいかいが口を開く。


「皆の者、今日は神託の御子みこ 良太りょうた様の出迎えご苦労であった。特にトラブルもなく円満に事が進んだ事を渡しは嬉しく思う。次は大勢の信者の前での発表になるので準備の程を進める様に」


「はい、かしこまりました」


数人の幹部が一斉に頭を下げた。

たこ海海かいかいはその様子を見ながら、今日の半主役であった指を切った女性の事を思い出す。


良太りょうたが来る数日前に良太りょうたにどのように治療してもらうかの話合いが持たれていた。その時に一人の幹部が口が堅そうな信者に、話をしたらどうかとの案が出たので試しに数人に話をする事になったのが、全員が是非自分にやらせてほしいとの事になった。当然その者達は怪我なんてしていないので保留にしていたが、その内の一人の女性が自ら包丁で指を切って幹部の前に来てしまったので急遽その女性に決まったのだ。


たこ海海かいかいはその話を聞いて自分以上に神託の御子みこに入れ込んでいる者がいるのだと思った。

しかしこれは悪い事ではない。信じる者が多ければ多いほど熱は高まり寄付金も集まると言うものなのだ。

そんな事を考えていると次の話題へと議題は進んでいた。


幹部「次はタコショッピングモールのアプリの現状報告です」


タコショッピングモールのアプリとは宗教団体オクトパスが作成した専用アプリだ。商品の内容は現状ネットに存在する商品をまるまるコピーして、値段だけ1割近く上乗せして作成した物だ。アプリ使用者が購入を押すとそのデータは宗教団体オクトパスの集中コンピューターへと送られて、そこで内容を確認して実際のネットへの発注を行うシステムとなっている。

これにより誰が何を購入しているかなどの情報を一括で管理出来る為に考案されたシステムだ。

発注された商品は宗教団体オクトパスが運営する物流センターへと配送され、そこで荷車にぐるみの入れ替えが行われて発注者本人へと郵送される。

一件荷物の荷車にぐるみの入れ替えや配送に金が掛かると思われるが、この物流会社は実際に運営している正式な会社だ。

名前はオクトパス運輸となっている。

社員のほとんどは宗教団体オクトパスの信者なのだが、請負体制は大手の物流会社より配送出来ない荷物を預かり代わりに配送するのを生業としているので、その荷物の中にタコショッピングモールアプリからの荷物を入れても対した事ではないのだ。


幹部「営業利益は前年度同様に変化はありません」


その後いろんな報告を受けて話し合いは終了したのだった。


*


良太りょうたは宗教団体オクトパスの帰りに、早速スマホのタコショッピングモールのアプリで狙っていた漫画を購入した。数日後メールで届いたとの知らせが来た。

良太りょうたがコンビニに取りに行き商品を受け取ると、袋の表紙にはオクトパス運輸と書かれていて袋の中には注文した通りの漫画の本が入っていた。

これで購入できることが実証されたので思う存分にバイトが出来ると良太りょうたは思ったのだった。


*


俺の名前はシグナルスキャン。

今度の週末に久しぶりにイベントに出演する事になった。

普段ならイベントは忙しいのと余り利益がないので参加を見送っているのだが、とある懐かしい人物がゲストとして登場するので出演を了承した。妻のゆうこは『どうしたの?突然に出演なんて』などと言っていたが、気分転換だとお茶を濁しておいた。

俺の書斎に大切に保管してある物を再度見直すとそこには、若々しい姿で満面の笑みで写っている女性がいた。

そして写真の片隅には本人のサインが入れてあり、今これを売ればいくらになるのかな?と邪推じゃすいな考えをしたが、当然の如く売る訳がなく永遠と俺の書斎に保管されるのだ。

早く週末にならないかなと久しぶりに心を踊らされるのだった。

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