第6話 6


時は流れて順調に中学最後の学年の三年生を過ごしていた。

勉強の面では初めて同じクラスになった橋爪はしづめヨウコが学年トップだと言う事を知った。先生の何気ない言葉で僕は気づいた。僕はこう言う頭のいい人はどんな高校に行くのかと考えていたが、正直に他人を心配している場合ではない。

僕の順位は250人中130番位だ。この順位ならなんとか家から自転車で通える高校に入れるとの目算だ。だが一つ問題がある。自転車で通える高校は二つあり、僕の今の順位では程度の低い方しか入れない。もし程度の高い方に行くならもう少し順位を上げなくてはならない。楽に高校生活を送るなら程度の低い方でいいのだが、高い方に行けばもしかしたらイブキとは違う高校になるかもしれないのだ。この前のイブキの順位は160番と聞いていたからだ。中学では女子と中々話せなかったが高校では新しい出会いがあるかもしれないのだ。ここは気合で勉強を頑張るしかないと思い夏休みはないと思い勉学に励むのだった。


*


私はイブキ。この前の学校の試験では160番だった。雑誌にバカの方が可愛がられると書いてあったので試験の手を抜いたけど、良太りょうたの反応はイマイチと言うか少し見下された様な気がした。もうすぐ受験だし良太りょうたと離れすぎるのも問題なので次は少しだけ順位を上げる様に調整しようと思う。海海かいかい先生の指示で今は高校1年の終わりの勉強までをこなしているが、受験の為にもう一度中学1年からの勉強を全て復習しようと思う。


*


私は橋爪はしづめヨウコ。

無事、良太りょうた様とお近づきになれた。そして私が頭の良い女性と言う事もアピール出来た。後は受験失敗を理由に良太りょうた様と同じ高校へ進学すればミッションクリアだ。残りの中学生生活を少しでも良太りょうた様に近づける様に努力しようと思う。近づく為には絶壁イブキを少し遠ざける必要があるけど、あまり手荒な事をすれば教団内での問題になるのでここは少し我慢のしどころ。


*


私は遠藤えんどうミチコ。

中学二年の時に良太りょうた君の隣の席で青春を楽しんでいたら、イブキとか言う絶壁女が邪魔をして来た。私は反論する事なくなすがままにしていたら、良太りょうた君が絶壁女に注意してくれてとても嬉しかった。良太りょうた君はメガネ女子は余り好みじゃないみたいなので高校ではコンタクトに変更する予定。そして…思い切って…私の思いを詰めこんだラブレターを渡したいなと思う。



季節は春。

僕は新しい高校の制服を着て自転車で高校へ向かっている。

僕は何とか勉強を頑張り程度の高いN高校への進学を果たした。

そして何故だろうか僕と並列に並び自転車を漕いでいる女子がいる…イブキだ。イブキ曰く彼氏の為に勉強を頑張ったとの事だが、僕は心の中で頑張らなくていいじゃないかと思ってしまったのは内緒だ。

僕らは高校の駐輪場に自転車と止めて歩いていると声を掛けられた。

そこには、橋爪はしづめヨウコと見た事があるような女子が居た。


「鈴木君又会ったね」


橋爪はしづめヨウコが声を掛けて来た。


「えっ!どうして橋爪はしづめさんがこの高校に?」


「えへっ受験失敗しちゃった、よろしくね。後、私の事はヨウコって呼び捨てでいいよ同級生だからね」


橋爪はしづめは舌を少しだして答え、最後にはウインクをして来た。

僕はその様子を見て美人がその仕草は反則でしょと少し口元が緩んだが、斜め横に鬼のイブキが居る事を思い出して気を引締めた。


「そっそうなんだ、とりあえず3年間よろしくね。よっヨウコ」


僕は言葉を詰まらせながら名前を呼んだ。そして横にいる女子を見たが名前が出てこなかった。

髪の毛は薄っすらと茶色に染めていて、目が出る様に前髪を可愛らしいタコのピン止めで止めている女子だ。

僕が黙っているとその女子は声を掛けて来た。


「すっ鈴木君おひさ。遠藤えんどうミチコです。メガネから変えたんだけど変かな?」


遠藤えんどうは前髪を触りほんの少しだが頬を赤らめながら話してきた。

僕は女子って凄い変わるんだなと思い声を掛けた。


「久しぶり。とても似合っていて可愛いよ、3年間よろしくね遠藤えんどうさん」


僕は笑顔で答えた。遠藤えんどうさんは僕の言葉の影響かは分からないが少し頬を赤らめていた。

すると後ろから制服を引っ張られてイブキが声をあげた。


「なんで遠藤えんどうさんには可愛いって言って、彼女の私には言わないのよ!」


出た!イブキの嫉妬。中学からそうなのだが直ぐに嫉妬するのだ。


「イブキは言わなくても可愛いだろ?」


「女は言って貰わないとわからないのよ!」


僕は面倒くさいと思いつつ口を開く。


「イブキも可愛いよ。さあ、立ち話もなんだし教室へ行こう」


僕は話題を変えてさっさと歩き出したのだった。

後ろで「ちょっと待ちなさいよ良太りょうた」と叫んでいるイブキが居るが僕は足を止めずに歩いた。

そしてクラス割はと言うと橋爪はしづめヨウコと遠藤えんどうさんは違うクラスで、運だけは最強のイブキと一緒となった。


このN高校は頭の良さは中の上となっていて、ほとんどが就職ではなく進学を選択する高校だ。なのである程度は勉強に力を入れている高校だ。そして制服は一般的な男子は学ランで女子はセーラー服なのだが、流石高校せいなのか女子のスカートが短いのだ。父の時代は頭の良さとスカートの長さは比例しているなんて事を聞いた事があるが、今の時代はファッション重視なので頭の良さは関係なく女子の制服は可愛いのだ。あのイブキでさえスカートを短くしてお洒落に気を使っているのだ。

そして高校生活を送って一ヵ月も経たない時に僕は遠藤えんどうさんに、お昼休みに話があると言う事で人気のない校舎裏へと呼び出されたのだ。

なぜ教室とか廊下で話さないのかと思ったが直ぐに理由が分かった。恐らくイブキが常に僕の周りにいるからではないかと思った。僕はなんとかイブキにトイレに行くと嘘を言って、昼休み早々に校舎裏へとやって来た。校舎裏へと行くと既に遠藤えんどうさんが待っていたので声を掛けた。


「お待たせ遠藤えんどうさん。イブキを説得するのに少し時間が掛かって」


「ごめんなさい、鈴木さんに迷惑を掛けて」


「あっ別に気にしなくていいよ。それで話ってなんだった?」


遠藤えんどうさんはモジモジしていたが決意が固まったのか、後ろ手に隠してあった本を僕に差し出しながら口を開いた。


「こっこれを鈴木さんに渡したくて…うっ受け取って下さい」


僕は差し出された本を見ながら受け取る前に口を開いた。


「この本は何の本なの?僕文学小説は苦手なんだけど…」


「これは小説じゃなくて…その…ラブレターです」


僕は硬直してしまった。なんと言い響きなんだと。しかし僕には一応イブキと言う彼女が居るのだ。でも遠藤えんどうさんもその事は知っているはずだが…聞く事にした。


遠藤えんどうさん、僕一応・・彼女いるんだけど…」


「知ってます。でも、付き合う付き合わないは別として、思いを伝えるのは自由じゃないですか?」


確かに彼女の言う通りだ。僕は受け取る事にした。人生初だからね。


「ありがとう遠藤えんどうさん、受け取らせてもらうよ」


僕は遠藤えんどうさんよりラブレターと言うより本を受け取った。だが、僕は中身を見て後で後悔する事になったのだった。

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