第4話 4
4
日曜日、僕は自宅の近くのコンビニエンスストアでイブキが来るのを待っていた。
イブキは大体の家の位置は覚えているとは言っていたが、引っ越しで滞在したのが20日しかなく記憶が確かでない事から待ち合わせをした。時刻は13時遠くの方から歩いてくる女性を見つけた。季節は夏が終わりかけとは言え気温が高く太陽の日差しが強いので、女性は麦わら帽子を被っていたので顔は良く見えないが僕は恐らくイブキではないかと予想した。そして近くに来てイブキだと確信したのだが、僕の心臓は少しドキリとした。
麦わら帽子を被り薄い水色のワンピースに身を包んだイブキは少しの化粧をしているのか、中学二年生の僕には少しばかり刺激が強かったみたいだ。僕は心臓が少し静かになるのを待ってから声を掛けた。
「やあイブキ、暑かった?」
「大丈夫。冷却スプレーを掛けながら歩いてきたから平気よ」
イブキはそう言いながら肩から掛けたポシェットからスプレーを見せた。
「それなら安心だね。さあ、行こうか」
そして僕達は特に会話もなく5分程で自宅へと到着した。
僕が玄関のドアを開けるとそこには母さんが待っていた。
「ようこそ我が家へ。私が
母さんはなんだか無邪気に声を掛けて来た。
「はっ初めましてイブキです」
イブキはそう言いながら麦わら帽子を取り、両方の手でワンピースの端を摘まみ軽く持ち上げ膝を曲げながら挨拶をした。
僕はまるで小説に出て来る貴族がするカーテシーの様に見えた。
「あらあら、お上品な挨拶ね。何処かのお嬢様なのかな?」
「違います。母がその…昔の貴族とかの映画にハマっていまして、その影響で覚えさせられました」
「ふふふ、面白いわね。玄関じゃ暑いし中に入りなさい」
「お邪魔します」
そして僕達は家の中に入った。そのままリビングルームへ行き母がジュースを二人分持って来てくれて、母は「お邪魔虫は消えますね」とだけ言い残して部屋から出ていってしまった。僕はなんだか気まずく直ぐにジュースに手を出したが、イブキは黙ってキョロキョロと回りを見ていたので声を掛けた。
「どうしたの?ジュース飲まないとぬるくなるよ」
「ありがとう、頂くね」
イブキはいつもの学校とは違い上品にジュースをストローで飲んでいた。イブキは少しジュースを飲んだ所で声を掛けて来た。
「ねぇ、
「ああ、べつにいいけど一応母さんに一言言うね」
僕は立ち上がり両親の部屋へと歩き出した。両親の部屋は二階にある。普通は子供部屋が二階だが、僕の家は二階が両親の部屋で僕の部屋は一階になる。何故僕の部屋が一階かと言うと僕の世話をする時にイチイチ二階に上がるのが面倒との事でそうなったらしい。僕としては部屋が貰えるだけ嬉しいので一階でも二階でもどちらでも良かった。僕は階段を上がりドアの外より声を掛けた。
「母さんイブキを僕の部屋に入れるね」
声を掛けると母さんが部屋から出て来て一言。
「イブキさんに変な事しちゃダメよ」
「しっしないよ!変な事言わないでよ!」
僕は顔を赤らめながら答えた。
「それなら安心ね」
僕は直ぐに一階に降りてイブキを自分の部屋へと案内した。僕の部屋は6畳のフローリングタイプの部屋だ。机、ベッド、本棚しか置いていなく、服はクローゼットの中に全部閉まってあるシンプルな部屋だ。イブキは部屋に入りぐるりと見渡して口を開いた。
「へぇ~結構綺麗にしているのね」
「そう?これが普通だと思うけど母さんが床とかを掃除してくれているからかな」
「そうなんだ、ねぇベッドに座ってもいい?」
僕の部屋は確かに座る場所は勉強机の椅子かベッドしかないので必然的にそうなるなと思った。
「どうぞ」
イブキはベッドに座り、僕は勉強机の椅子に座った。
「特に何もないでしょ」
イブキは本棚の本を見つめていて一つの本に興味が湧いたみたいだった。
「医学の本があるけど勉強しているの?」
「あっこれは父さんの本を借りてそのまま入れてあるだけだよ。僕の父さんは病気占いって特殊な仕事をしていてね、その影響でいろんな医学とかの本が家にあるんだ」
「へぇ~面白い仕事ね。私も占って貰おうかな」
「いいんじゃない?もし父さんが家にいる時に遊びに来た時にはお願いしてみるよ。家だとお金掛からないからね」
「やったっ。ありがとう」
イブキは両手で小さく拳を握りガッツポーズをしていた。僕はそれを見てまだイブキも中学二年生の女の子なんだと思った。その後イブキといろんな話をしたけど特にする事が無く沈黙した所で助け舟が出された。母さんがおやつを用意してくれたのだ。僕達はリビングルームへと移動して紅茶とケーキを楽しんだ。その後イブキを途中まで送る為に外に出た。
「僕の家はどうだった?」
「楽しかったよ」
「それは良かった」
僕達はそんな他愛ない会話をしながら迎えに行ったコンビニエンスストアが見える所まで来た所でイブキが声を掛けて来た。
「今日はありがとう。
「そう?あんな何もない部屋でよければいつでも見せるよ」
「ほんと?嬉しい」
イブキはそう言うとスッと僕の横に来て頬にキスをした。
「えっ!?」
僕が驚き声をあげる。
「今日のお礼よ、又学校でね。バイバイ」
イブキはそう言いながら歩いて行った。一瞬しか見えなかったがイブキの顔が赤かったような気がした。僕はキスをされた左の頬を手で押さえながらしばし途方に暮れていたのだった。
次の日に学校でイブキと会ったが何事もなかったように普通に接して来たので女子は凄いなと思った。
それから時は流れて僕は次の春から中学三年生になるのだった。
*
時は3月、宗教団体オクトパスの居城にて教祖
「お久しぶりです、おじい様」
背中付近まである黒髪を垂らしながら綺麗に頭を下げる女性がいた。
「久しぶりだな、ヨウコ。元気にしていたか?」
ヨウコと呼ばれた女性は頭を上げ美しい笑顔を見せる。
「ええ、元気に中学生活を送っていますよ」
「それならよい。ヨウコも年頃となって一段と綺麗になったな」
「ありがとうございます。全ておじい様のおかげです」
「うむ、春から中学三年生になるんだったな。
「ええ、現生徒会長として学校全体を把握すると共に、
「はっはっはっ。そうイブキの事を悪く言う事はないぞ。あやつが
「確かにイブキが最初かもしれませんが、そろそろ私も
「まあ、良かろう。どうせ来年高校も同じ所に行くんだろ?」
「もちろんです。学年トップの私ならば
「頼もしいな。頭脳明晰、スポーツ万能、外見に劣る所なし完璧だな」
「お褒めありがとうございます。でも今思えば幼少の頃に誕生日を一年遅らせると聞いた時はビックリしましたよ。おじい様はこのような事態になる事を想定なさっていたんですね」
「私も完璧ではない。ただ、同年代だと少し子供っぽく見えてしまうのを補うにはどうすれば良いかと考えた時に、年齢を一つ上の物を下だと言えばいいと気づいてしまってな、咄嗟の行動だったと言う訳だよ」
「なるほど、これで
「ふふふ、ヨウコが知る限りはそうだな」
「後3名は秘密なんですね」
「秘密と言えば秘密かもしれないが、いずれ顔を合わせる事になるよ。今は別で勉強をしてもらっているからな」
「じゃあ、その時を楽しみにしていますね」
こうして新たな刺客?が
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