第3話 3


時は流れ僕は中学二年生になった。

桜も散らない4月に事件は起きた。言動や体も少し…ほんの少し女らしくなったイブキに僕は校舎裏に呼び出された。

僕は最近イブキに何かしたかな?と思いつつ校舎裏に行くと既にイブキは待っていた。


「お待たせイブキ何かあった?」


僕は直ぐにイブキに声を掛ける。イブキは肩まで伸ばした黒髪をふわりと浮かせる勢いで口を開く。


良太りょうた、私と付き合ってよ」


唐突に言われて僕は何の事か分からなかったが、直ぐに買い物だと思い口を開いた。


「どこに買い物行くの?ついて行くよ暇だし」


その瞬間にイブキの目が鋭くなり口を開く。


「はっ!?こう言う展開は恋の告白に決まっているでしょ!空気読めよっ!」


「嫌、突然言われてもね…」


僕は思考した。

イブキとは仲が良いのは分かるが、僕達はまだ中学二年生だ。恋をするには少しばかり早いような気もする。それに学校にはイブキ以上に可愛い子がまだまだいるのだ、ここで焦ってはダメな気がする。なので僕は断ろうと口を開きかけた瞬間にイブキがスッと僕の耳元へ口を寄せて来た。


「断ったら社会的に抹殺してやるから、そのつもりでね」


僕は全身に悪寒が走った!

駄目だ!これは断ったら絶対ダメな奴だ!

僕は声を震わせ顔を引きつらせながら声に出す。


「よっよろしくねイブキ。なっ仲良くしようね」


「ありがとう良太りょうた!嬉しい!」


イブキはそう言いながら僕に抱き着いてきた。イブキが抱きついた時にポケットから飛び出したタコの携帯ストラップが怪しく揺れる。すると周りから人影が現れて拍手をしているのだ。

僕はその瞬間に『ヤラレタ!既成事実を作りやがった』と思った。


そして僕は父さんの言葉を思い出す。


『父さんな昔占い師に、女難があると言われた事があるんだ』その言葉を言った時の父さんは少し寂しげだった。

父さん僕は父さんの女難を受け継いだかもしれないよ。僕はこの先の運命がどんな悲惨な物になるか、想像するとため息しか出ないのであった。


-


翌日から僕とイブキの噂はどんどんと広がりを見せていた。

男子からは『少しうらやましいな』と言うような視線で、女子からは『あの人がイブキの彼氏らしいよ』などの好奇心の目線で見られるようになった。僕はまだこの時の自分は幸せだったと思う。


それから僕に対する束縛が始まったのだ。ちなみにだが、中学二年生ではイブキとは違うクラスになっていた。

休み時間になると僕の教室に来て、僕の隣に座る気の弱そうなメガネ女子を追い出し話をしてくるのだ。

流石にこれはと思い注意をした。


「イブキ、隣の遠藤さんが可哀そうだよ」


「はぁっ!?何、慣れ慣れしく女子の名前呼んでるの?もっもしかして、もう浮気の兆候!?」


イブキのリアクションは大きく僕は少し引いてしまった。


「落ち着いてイブキ、僕ら中二だよ」


僕がさとすように言うとイブキはいきなり真顔になり口を開く。


「つまらない男ね。そんな時にボケの一つでも言って私を楽しませるなり、喜ばせてみなさいよ」


僕はイブキが何を言っているか分からなかったのでため息をついた。


「今日の所はもういいわ、クラスに帰る」


何か気に障ったのかイブキは教室から出て行った。しかしこの事が切っ掛けでイブキが休み時間に現れて、隣の子を追い出す行為はなくなった。僕は自分が注意したからなくなったのかな?と思ったが、あのイブキがその程度で引き下がるとは思えないので他に何かあるのかなと不思議に思った。


学校内では僕とイブキはそんな感じだったが、たまには外にデートのような事もした。

少し距離はあるが自転車で行ける範囲にショッピングモールがあり、そこへ二人で行く事があった。


「ねぇ良太りょうた、この服可愛くない?」


イブキが服を自分に当てながら聞いて来る。


「うん、可愛いと思うよ」


僕は笑顔で答える。僕は心の中で今のはいい感じで答えられたと思った。イブキの事は家族の父と母に報告はした。母はどんな子なのと興味津津きょうみしんしんだったが、父からはいろんな助言を貰った。その一つが受け答えだった。女が可愛くないと聞いてきたら、それは間違いなく可愛いと言えの合図だ間違えるなよなどのアドバイスだ。他にもたくさんのアドバイスを受けたので小出しにして行こうと思う。只、僕が父さんからアドバイスを受けている時の母さんの目は、あきらかに『それ、私があなたに指摘した事』と言う様な感じを受けたが、僕はあえて気づかない振りが出来る男に成長したのだった。


イブキはご機嫌だ。

僕達は中二なのでウインドウショッピングをしたり、ゲームセンターなどで遊んだりした。そんな感じで順調?に時は流れて行った。

その頃からイブキは部活動の陸上に力を入れ出した。入れ出したと言うより真面目に参加し出したと言った方が良い。今までも入部はしていたがあまり参加をしていなかった。理由を聞いたところ今までは他事が忙しく部活に時間をけなかったとの事だった。僕は何に時間を使っていたかはさっぱりわからなかったが、これで少しはイブキから解放されると密かに喜んだのだった。


その年の夏の陸上県大会でイブキは女子100メートル走で3位に入賞を果たしてしまったのだ。全国へは足が痛いとの理由で辞退したみたいだったが、夏休み明けの合同朝礼で表彰され得意げな笑顔を全校生徒にアピールしていた。そしてイブキは学校新聞の取材を受けて質問に答えていたみたいだったが、その新聞は僕にとって悪魔の新聞と化したのだ。


新聞の最初の方は陸上に関しての事だったが後半に行くにつれてイブキ個人の内容になって行き、最後の方には好きな男性のタイプなんて質問が書いてありそこには2年の鈴木良太が彼氏だと書いてあったのだ。僕はその新聞を読んだ時に『あっ僕の中学終わった』と思った。イブキとの付き合いを知っている人は居たが全員ではなかったからだ。ところが新聞で発表されてはもう諦めるしかなかった。僕はもっと他の女子達と仲良く話したりしたかったなと思った。そんな時にイブキから僕の家に遊びに行きたいと言い出し、僕はもうどうにでもなれと言う思いでOKし日曜日にイブキが遊びに来る事が決定したのだった。


*


良太りょうたの家に行く前日、イブキは宗教団体オクトパスの居城にて教祖 たこ海海かいかいと対面していた。


「イブキよ陸上で良い成績を収めたみたいだな」


たこ海海かいかいは自慢の髭を触りながら話し出す。


「ありがとうございます」


イブキは頭を下げる。


「勉強が忙しい中で陸上までも良い成績とは努力が凄いな」


「いえ、海海かいかい先生が背中を押してくれたからです」


「そうか、それで今日はどうしたのだ?」


「はい、明日良太りょうたの家に行く前に海海かいかい先生に挨拶と思い来ました」


「ほう」


海海かいかいは一言を発っして髭をいじりながら思考すし口を開く。


「両親への顔見せと言ったところか?それとももう少し踏み込むのかな?」


イブキは海海かいかいの言葉で若干頬を赤らめるが答える。


「今回は良太りょうたの両親への顔見せが1番の目的です。良太りょうたとはもう少し…その…仲良くなってからで…」


イブキはそれ以上言う事は出来ずに顔を赤くしてうつむいてしまった。


「はっはっは。イブキよ焦るでないぞまだ中学二年生だ。これからもチャンスはたくさんあるからな」


海海かいかいは軽快に笑いながら答えた。


「それじゃあ、明日行ってきますね」


「ああ、気を付けてな」


イブキは立ち上がりドアに手を掛けた所で海海かいかいが再度声を掛ける。


「イブキよ、良太りょうたの家からの帰り際頬にキスの一つでもしてやれば良い感じになるぞ」


海海かいかいはニヤリと口角をあげる。


イブキは小さな声で「頑張ります」と言い部屋を後にしたのだった。

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