第2話 2


私の名前はイブキ、瀬戸せとイブキ。

カタカナの名前を変なんて思った事は一度もない。理由は紙に自分の名前を書く事がほとんどないから。


私は気づいた時には宗教団体オクトパスの中で育った。両親が信者だった事からそうなった。世間的には二世にせいと言う事らしい。私の周りにも同じような境遇の子供たちがたくさんいたので、落ち込むとかどう言う事?なんて感想は抱かなかった。教団内と言っても暮らしは普通。学校にも行くし友達も出来た。普通と違うと言えば朝と夜にお祈りがある。時間的にはとても短いが欠かせない行事となっている。


私が神託の御子みこの話を聞いたのは小学四年生の10歳の時。良太りょうたに会う一年半くらい前の事。

教祖 たこ海海かいかい様より話があった。

私は話の流れから私はこの時の為に存在しているのだと気が付いた。そして話の後に個別に教祖様に呼ばれて話をした。教祖様はとても優しく接してくれて、私は素直に心を開く事が出来た。それから定期的に教祖様と会う事になり、教祖様の事を時折り『おじい様』と呼ぶようになった。


それから私は何かをしたかと言われれば何もしていない。神託の御子みこと会う準備でもするのかと思っていたけど、特に変わった事はなかった。後で聞いた話だけど変に情報を得てしまうと子供らしさが消えるので、えてそのような教育はしなかったらしい。その代わりと言っていいのか分からないけど、勉強や教養?見たいな事をたくさんやらされた…じゃなくて教えて貰った。正直に勉強は大嫌い、頭使うと疲れるから。


そんな感じで過ごして小学5年の終わりに初めて良太りょうたに会った。見た目は普通の男の子で特にカッコイイとか背が高いとかは全くない。そこら辺で騒いでいる男子とあまり変わらない感じ。でも話してみて分かったけどとても優しい男の子だった。私は直ぐに良太りょうたの事が気に入り遊ぶようになった。そして公園の林で私が転んで良太りょうたの能力を体験する事が出来た。最初、良太りょうたが何か訳の分からない事を言い出したので『大丈夫か?もうすぐ小6』とおちょくろうと思って口に出したが、自分に起きた奇跡を目の当たりにしてビックリしたけど直ぐにお金になると思っちゃった。だってあんな怪我が治せたら病院行かなくても良いと思ったから。


それから私は海海かいかい先生に報告して褒められた。そして私は決意した。生涯を掛けて良太りょうたを手に入れようと。


*


私の名前は、鈴木ゆうこ(旧姓 安藤ゆうこ)。

今は鈴木健一君の妻で、小学5年生の男子の母親でもある。

私は昔を思い出していた。

あれは、私と建一が日本一周の旅から帰って来た日の事。


私達は店の前に車を止めると見た事や関わった事のある人達が大勢待機していた。

待機と言うより待ち構えていたと言うほうが当たってるかな。

私達は逃げようとしたけど、直ぐに捕まって仕事の話をさせられた。


最初に話をして来たのが、厚生労働省 城島じょうじま真司しんじさん。

奈波ななみ詩織しおりさんを連れて来て、溜まっている仕事を早急にこなしてほしいとの事だった。

私は逃げる事は諦めて直ぐに段取りを組んで予定を入れた。


すると入れ替わる様に内閣情報調査室 新田にった和人かずとさんが話しかけて来た。

総理の菅原すがわらの病気占いをやって貰いに東京へ来て欲しいとの事だ。当然これも逃げれる事はなく了承し東京行きを決めた。残りの人達も依頼やお願いだったけど、みんな目が血走っていてとても怖かった記憶がある。


その時に彼氏の健一君は…今でもため息しか出ないんだけど、周りの人達と談笑したりスマホで遊ぶ始末。もちろん、後で二人きりになった時に正座してもらい30分は説教させてもらった。私の鬱憤うっぷん晴らしも込めて。


彼はそれに懲りたのかはわからないけど、依頼等は真面目にこなして行った。仕事も順調なように私達の恋も順調に育って行き、私達は流れるように結婚して子供が出来た。私が妊娠中に彼は驚くほど良く働いてくれた。だけど、子供が生まれてからはその反動?なのか子供と遊んでばかりで仕事をサボり気味になっていた。でも最近は息子が大きくなったせいなのか元通りになった。


今は順調に人生が回っているように思えるけど、私の直感なんだけど何か嫌な予感がするの。理由は少し前に一生笑顔スマイリー教の教祖 笑顔えがお万歳まんさいが警告して来たから。警告の内容は私達家族に問題が生じるとだけで詳細は不明。私はいつも以上に警戒しながら会社の運営をする事にした。


*


私は一生笑顔スマイリー教の教祖 笑顔えがお万歳まんさい

東京を拠点に活動していた宗教団体オクトパスが10年程前にこの名古屋へと拠点を移した。

拠点を移した背景には教祖 たこ海海かいかいが監禁容疑で逮捕された事も影響しているかもしれないが、実際の所詳細は不明だ。

ただハッキリ言える事は鈴木家を監視している事は間違いない。私共も陰ながらシグナルスキャンをサポートしている訳だが、宗教団体オクトパスの動きと言うより狙いがイマイチ良く分からない。

なので私はシグナルスキャンの妻であるゆうこに警告を発した。家族に問題が生じるであろうと。

今はそれだけしか言えないので私達は引き続き監視をするのであった。


*


時が流れて僕は中学へと進学した。

そこで懐かしい顔に出会ったイブキだ。しかしイブキは学ランではなくセーラー服を着ていたのだ。僕は悟った。こう言う時代つまり多様性の時代なのかと。僕は挨拶しつつイブキにこっそりと耳元で告げた。


「やあ、イブキ久しぶり。イブキってそう言う男の子だったんだね」


その瞬間に僕の頭にイブキの空手チョップがさく裂した。


「痛い!イブキ何するんだよ!」


僕は殴られた頭を押さえて叫ぶが、イブキは両手を腰に当てて言い放つ。


「私は正真正銘の女だ!」


「え!?そうだったの?いつも男の言動と態度だったし…」


そして僕は女性の特徴の胸を見つめてしまった。まな板の胸を。次の瞬間に僕の左頬にイブキの拳が直撃した。


「どこ見てるんだよ!これから膨らむ予定なんだよ!ぶざけんなよ!」


イブキは両手で胸を隠しながら言い放つ。これが久しぶりのイブキとの再会であった。なんともヒドイ再開だったけど僕は嬉しかった。引っ越しをしてしまった友人と又再開できる事を。そしてこれからの学校生活を。


それから僕達は指定された教室へと入った。当然?なのかそれとも偶然なのか分からないが僕はイブキと同じクラスになった。そして、あいうえお順で席に着くのだが僕の鈴木の『す』とイブキの瀬戸せとの『せ』が近い事もあり隣通しの席になった。最初は知らない人ばかりなので良いと思ったが、イブキは何かと僕にちょっかい?と言うかお節介をしてくるので友達作りに少し苦労したが、他は概ね順調な中学生活のスタートとなった。

ちなみにイブキは陸上部へと入部した。昔、公園でかけっこをしたのを懐かしく思った。

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