【現代チート】怪我を治せる能力を得たけど、悪女が微笑んでいます

まさひろ

第1話 1

※この物語は、『【現代チート】病気がわかる能力を得たのだけど、聖人にはなれません』の続きとなっております。



せみが鳴きしきる夏の暑い日に僕は生まれた。

僕の名前は鈴木良太りょうた

父は鈴木健一けんいちで母はゆうこ(旧姓 安藤ゆうこ)だ。

父の職業は病気占い師をしている。ちょっと変わった職業だけどお客さんからはとても感謝されているらしい。

僕が小学校に上がる前までは母が家に居てくれたが、小学校に入ってからは一人の時もあったが、たまにおばあちゃんが僕の面倒を見てくれて育った。


僕がまだ幼稚園くらいの時だ、庭で走っていて転んでひざを打った時があった。

幸いに血は出ずに打ち身だけですんだが僕は大声で泣いてしまった。すると母が直ぐに僕の元へ来て抱きしめてくれて声を掛けてくれた。


良太りょうた、おまじないを教えてあげる」


「おまじない?」


「そう、痛みが飛んで行くおまじないよ」


母はそう言うと手を膝の上に置いて言葉を掛けた。


「ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んで行け~ほらっ痛くなくなったでしょ?」


僕は正直何も変わらなかったが、幼心から母を気遣った。


「うん、大丈夫だよ」と。


-


それから時が過ぎて僕は小学2年生になった。

相変わらず両親は忙しく働き、僕は一人でいつものように庭で走ったりしていた。

そして石につまづき転んでひざを擦りむいてしまった。

僕は以前父さんから転んで血が出た時はばい菌が入るから、最初に水で洗えと教えられていたので僕は水道で傷口を洗った。

凄く染みて痛かったが我慢して耐えていた。

そんな時に母さんの言葉を思い出した。

そう言えば『おまじない』なんてあったなと。

僕は何となくやってみる事にし、右手をそっと傷口に置いて口ずさむ。


「ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んで行け~」


その瞬間、体から何かが抜けるような感覚があった。

そして手をどかしてひざの傷口を見るとどんどん傷が塞がって行き、あっと言う間に傷がなくなってしまった。

僕はあまりの衝撃に言葉をなくして幼心にもこれからどうしようかと悩んだ。

そして父さんの言葉を思い出す。


『父さんな病気を占う力があるんだけど、この力を知った他の人達が父さんを自分の物にしようといろんな手を使って来たんだ。もし、良太りょうたにも人に知られたくない事がある時は黙っておくんだぞ』


僕はこの事(能力)は黙る事にした。


-


僕が小学5年生の春(もうすぐ6年生になる時期)に僕の家の前のアパートに、イブキって子が両親の都合で引っ越して来た。

挨拶に来た両親の話では仮住まいとの事で、アパートには20日程度しか居ないがよろしくとの事だ。

僕は近所に友達がいないので直ぐにイブキと友達になった。

そして僕達は短い期間だったが一緒に遊ぶようになった。


僕達は自宅近くにある公園の中の林を掛ける。足元はそれ程良くないが遊び慣れた場所だ。そんな中後ろから僕を呼びながら追いかける姿があった。


良太りょうた~待ってよ~走るの早いよ~」


「遅いぞイブキ!男なら林の中でも自由に動けないとな」


「ちょっと…あっ!」


ズシャ!

イブキは木の枝に足を引っかけたのか盛大に地面に転んでしまった。僕は直ぐに引き返してイブキの元へ向かい声を掛ける。


「大丈夫か?イブキ怪我は?」


僕が声を掛けるとイブキはひざを擦りむいたのか両手で押さえていた。


「いてて、転んじゃった」


「血が出ているじゃないか。公園の水道で洗いに行こう」


僕はイブキを立たせて公園の水道へとやってきた。


「少し染みるけど我慢しろよ」


僕は水道から水を出して、イブキの膝に水を掛ける。


「痛い!」


「我慢しろ、ばい菌が入ったら駄目だからな」


僕はなんとか傷口を水で洗い終え、近くにあったベンチへと二人で座り休憩する事にした。


「ごめんな、引っ越してきて直ぐにこんな遊びに付き合わせて」


良太りょうたが気にする事ないよ、僕が勝手に転んだだけだし」


少し間沈黙があり、時間が経ったので声を掛けた。


「だいぶ血止まって来たね」


僕がイブキに問うがイブキはまだ痛そうにしていた。

僕はそんなイブキを見ながら昔使ったあの能力を使うか迷っていたが、僕は友達であるイブキを見捨てる事は出来ないと決心し言葉を掛けた。


「イブキ、僕が今から傷が治るようにおまじないをするけど、絶対に人に言わないでほしい」


「おまじない?良太りょうた大丈夫か?もうすぐ小6なのに…」


僕はイブキの言葉を遮り言葉を掛ける。


「いいから見てて」


僕はそっとイブキの膝の傷口に右手を当てる。少し痛そうにイブキが顔を歪めるが僕は構わず言葉を発する。


「ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んで行け~」


その瞬間、体から何かが抜けるような感覚があり、手をどけると膝の傷口がどんどん塞がって傷がなくなった。


「え!?良太りょうた!今何を!」


僕は人差し指を自分の口へと持って行く。


「内緒ね」


少しイブキは動揺して僕と傷のあった膝を交互に見ていたが口を開いた。


「分かったよ良太りょうた。絶対に内緒にするよ」


だけどその時にイブキの目が『エンマーク』になっていたような気がした。それからイブキは挨拶もそこそこに引っ越しをして行ってしまった。


後に良太りょうたの能力はイブキによって『ソウルタッチ』と名付けられる事となるが少しだけ未来のお話。


*


時は少し遡りイブキが引っ越す数日前の事。


名古屋近郊の林の中にその建物群は存在していた。

敷地を覆うように高さ2メートルの壁に囲まれた場所があった。壁の上にはモリのように突き出した鉄柵が配置されており、侵入者を拒む仕様となっている。宗教団体オクトパスの居城である。

東京よりこの名古屋へと拠点を移して10年の月日が流れようとしていた。


敷地内にひと際豪華な建物があった。その建物の廊下を赤い浴衣にタコの文字が入った服を着て、割腹かっぷくのいい腹を揺らしながら歩く男がいた。男が歩くたびに背中まで伸ばした白髪交じりの黒髪が風に揺れてなびく。口元は立派な髭を生やしており、目つきは鋭いが少し愛嬌のある目をしていた。頭頂部とうちょうぶはハゲ上がっているが最後のあがきのように縮れ毛が揺れる。その風貌は『落ち武者』と呼んでも過言でもない男こそ、宗教団体オクトパス 教祖 たこ海海かいかいである。


「待たせたなイブキ」


たこ海海かいかいが部屋に入るなり声を掛けた。

黒髪のショートカットの少女が目を輝かせて答える。


「いえ、問題ありません。海海かいかい先生」


「はっはっは、いつものようにおじい様でもいいんだよ」


「まっまた今度に…」


イブキは顔を赤くして答えた。

その後落ち着き二人は向かい合わせにソファーに座り、最初に声を掛けたのはたこ海海かいかいだ。


「イブキよ、良くやった!神託しんたく御子みこの力を誰よりも先に良くぞ解放させた。改めて礼を言うぞ、ありがとう」


たこ海海かいかいはそう言うとイブキに頭を下げた。


「やっやめて下さい海海かいかい先生!」


「おや?イブキはまだ礼を言われ慣れておらんみたいだな」


たこ海海かいかいは口元を緩める。


「そうです、私まだ11歳ですよ」


「そうだった忘れておったわ」


たこ海海かいかいは爽快に笑う。

イブキは海海かいかいが笑い終わるのを待って口を開いた。


海海かいかい先生、誰よりも先にと言いましたけど他に誰か居たのですか?」


「おっ良い質問だ答えよう。神託の御子みこではなく良太りょうたと言った方がいいな。良太りょうたに接触したのはイブキで二人目で、もしダメなら他に四人待機させていた」


イブキは驚きながら答える。


「そっそんなにいるんですか?良太りょうたの同級生は」


「ああ、準備していたからな。ただ、鈴木健一と妻ゆうこの子供が神託の御子みこは掛けだったがな」


「掛け?ですか?」


「そう。日本の何処に現れるかは神託では示されなかったからな。ただ、鈴木健一が持つ病気を占うと言う能力はとても強力なので、その力の一旦を受け継ぐ可能性があると思って探っていたんだ。最初に鈴木健一が何時いつのタイミングで力を得たのか調べるのには少し苦労したがね。その後、妻ゆうこが妊娠した時期を計算して子供が神託の御子みこの可能性があると思い、信者達に子供を作る様に指示したんだ。そこで生まれたのがイブキだ」


海海かいかい先生、そんな大事な話を私なんかにしていいんですか?」


「何を言っているんだイブキ。お前はとてつもない大きい事を成し遂げたんだ。宗教団体オクトパスの幹部になる資格は十分にあると私は思うぞ」


「あっありがとうございます」


イブキは頭を下げる。


「良い、話の続きをしよう」


イブキが頭を上げると話を続けた。


「子供は生まれたが鈴木健一の息子、良太りょうたと同じ歳の子供は3人しか生まれなかった」


「ちょっと待って下さい。さっき私が二人目でダメなら四人待機と言っていませんでしたか?」


「言ったぞ。イブキよ、お前の誕生日は何日だ?」


「3月31日です」


「そう言う事だ。宗教団体オクトパスは産婦人科及び役所にも信者を配置しているから、誕生日の差し替えなんて物は簡単な事だよ」


「うっそんな事が…」


イブキは少しショックだったのかうつむいてしまった。


「少しイブキには刺激が強かったかな?」


「いいえ、違います」


イブキは震えながら顔を上げる。


海海かいかい先生がどれほど神託の御子みこいえ、良太りょうたの事を待ち望んでいたかを今実感しました」


「わかってくれるか」


「はい!」


「そうか、それなら良かった」


海海かいかいは笑顔で答える。


「それで私は今からどうすれば良いですか?」


イブキが真剣な眼差しで口を開く。


「イブキは予定通りに良太りょうたに簡単な挨拶をして身を一時的に身を引いてもらう」


良太りょうたから離れるのですか?せっかく能力が分かったのに」


「焦るでない。良太りょうたもイブキもこの先中学、高校そしてもしかしたら大学に行くかもしれない。その時に必要な物はなんだね?」


「…わかりません」


「頭脳だよ。勉強が出来る頭脳だよ。良太りょうたと同じ学校へ行ける頭脳が必要なのだよ。そして同じ学校へ通い同じ勉強をし、時には同じスポーツをして信頼関係を築くのだ。わかるかな?」


「わかった勉強を頑張って良太りょうたと同じ景色を見ればいいのね」


「イブキはなんて物分かりの良い子だ。これは将来楽しみだな」


そう言いながら海海かいかいは微笑むのだった。


その後イブキは勉強にスポーツと本来の学年より一つ上を目指して邁進まいしんした。

それは良太りょうたの為と言うより、教祖 たこ海海かいかいに褒めてもらいたいとか、認めてもらいたいと言う気持ちが強かったのかもしれない。しかしこの思いこそがイブキの原動力となった事は間違いない。

そして時は流れて中学校へ進学した。

そこで良太りょうたより痛烈な勘違いをされていて憤慨ふんがいするイブキが居たのだった。

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