第13話 「痕跡」


男は次男についての悪い噂が気になって仕方がなかった。

消えた理由を見つけるためにも、坂恨んでいる人間をあたるのが早いと考えたのだ。



「彼は村で評判の良い優しいお兄ちゃんとして知られていた。か…」


男は思い返した。次男の家族である山田家や彼に近しい友人たち。



「まだ学生って…」


男は次男のことをよく知る人々に話を聞くため、近所の酒屋と菓子屋を訪ねることにした。


酒屋は木造建で、でかでかと「酒屋」と表に書かれている。

村のほとんどの人はここに酒やタバコを買いに来ては、親父と時間を潰していく。


酒屋の親父はしゃがれた声で「ああ、あの次男坊はな、酒に酔っては乱暴を働いていたんだ。夜な夜な近所の女性を脅かすんだよ」と言った。


酒屋隣の菓子屋の老婆も出てきて、同じく悪態をつきながら、「あの子は見かけによらず、本当は悪い奴なんだよ。酒に酔っては人を傷つけるんだ。近所の子たちは彼を避けて通ってたさ」と言う。


男は何が何だかわからなかった。言葉がねじれてこんがらがっている感覚に襲われる。


「えっと、でもみんないい人だと言っていましたよ」


男は酒屋の親父と菓子屋の老婆の話を聞きながら、次男坊についての噂が事実なのかどうかを判断しようとした。


「見ず知らずの私の家の引っ越しも手伝ってくれましたし」


なにか、違和感を引き起こしていた。次男坊の人となりを知る人々が口々に彼の悪評を語ること自体が、なんとも納得がいかない。



その時、8歳の少女が男性に話しかけました。彼女は少し大人びた口調で言いました。「優しく見える人でも、心を許しちゃダメだよ。だって、もしかしたら悪人かもしれないんだから」と言葉を続けた。


「先生、だから次男坊はさ、酒癖が悪いのよとにかく」

老婆が畳み掛けるように話す。


「私、いつも人を見てるよ。顔だけではなくて、心も見るの。それが私の力。だから、あなたにも言うね?どんな人でも心を許しちゃダメだよ。もしかしたら悪人かもしれない」と少女は力強く語った。


「う〜ん。そうです…か」


男は驚きながらも、少女の言葉に深く考え込んだ。老婆も頷いている。

少女が言う通り、外見だけで人の本性を見抜くことはできないのかもしれない。


男は少女の洞察力に感銘を受けると同時に、彼女が何者かという疑問が頭の片隅によぎった。

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赭坂-akasaka- 暖鬼暖 @masaonmasamasa

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