第4話 「消えゆく者たち」
男は火の坂の謎を解くための情報を集めるため、村の人々への聞き込み調査を始めた。少女も一緒について行くというので、男は眉を下げたが、少女がもともと情報を持っていたということと、何より少女の大人びた口調にと強い探求心に根負けし、一緒に情報を聞き回ることにした。
二人はなんらたわいのない会話をしようと村の人々に坂が燃えるように見えるため、坂の名前が本当は、“火の坂であったのではないか”という疑問について話を聞こうと試みた。
しかし、彼らは相変わらず“火の坂”という言葉については避けるように話題を変え、火の坂についてはほとんど語ろうとしなかった。
さらにその日の夕方、火の坂の方向へと視線を向けていた男と少女は奇妙な現象に気がついた。
人々が次々と光の中へ姿を消していくのだ。
最初は数人だったが、次第に数十人、さらに数百人と村の人々が消えていく様子を目の当たりにした。
男と少女は驚きと不安を抱えながら、光の中へ入っていく人々の姿を見つめた。
「影…?影に見える。人型の」
陰る木々が人型に見えるのだろうか。男は怖くなった。
「不思議だね」
少女の落ち着いた声に男は支配されていた恐怖から現実に引き戻された。
「そ、そうですね…」
少女は隣で凛として立っていた。男は自分に恥ずかしさを感じながら近くに住む住人に明日、聞き込みに回ると伝えた。
***
「今日は、授業が午前中だけなの」
少女は幼い笑みを貼り付けていた。
男は困ったが、唯一信じてくれる少女を無碍にすることができなかった。
男と少女は日中、火の坂の近くに住む一つの一家を訪ねた。
「あんたがなにを探しているかはしらん。でも、あんたは何か特別な力に引かれているんかねぇ」
老婦人はそう言って、男の背中をぽんぽんと叩いた。
火の坂の前付近をうろついていると、老婦人が声をかけてきてうちでお茶でもどうだと聞いた。
男と少女は人の良さそうな老婦人について行き、縁側で冷えた緑茶をいただいた。
コップが一つしか用意されなかったので、「おばあちゃん、ごめんこの子にも」というと少女が「いいの。お手洗いに行きたくなったら困るから」と言った。
老婦人は男に「またうちにおいでねぇ」と言った。
時間を持て余しているからいつでも来て欲しい、と。
また別の日、火の坂に来ると、日が沈み、夕日の光が山々に照らされる美しい光景を見ることができた。
火の坂は赤く輝いた。
影が興奮した人のように坂を駆け上がり、そのまま姿を消していく。
美しい火の坂とぞっとするような影。
思わず声をかけて、「そっちじゃない!」と叫んでしまいそうになる。
もしかすると、陽炎のような現象で、たまたま見ているとも考えられる。しかし、この現象を引いても「火の坂には何か秘密がある」と男の考えは変わらなかった。
男は影の後ろを追いかけてみた。
すると、男を探していた少女も追いかけるように坂を駆け上がってきた。
そうして、二人が火の坂の頂上へとたどり着いた。
しかし、そこには何もなかった。
ただの坂であり、何も特別なものは存在しなかった。
坂の奥地はさらに山となっている。おいおいと茂る森たちがゴウゴウと男と少女に唸った。
****
「すっかりこの村も人が減ってねぇ」
少女と男はすっかり、老婦人の家に入りびたるようになった。
彼女は穏やかな笑顔で、長年この村で過ごしてきたと話した。
「わしも火の坂に長いこと住んでいるから、あんたの言うその消えるのを何度も目撃したよ。あれは昔いた人たちだねぇ。よく覚えとるよ」
「え?!」
老婦人のいきなりの告白に男は驚愕した。
男は興味津々で老婦人に聞き入っていた。男は老婦人に詳細を尋ね、火の坂に向かう人々のは誰なのか、様子について聞き出そうとした。
老婦人は「村の人々は火の坂に近づくと、急に表情が穏やかになり、幸せそうな笑顔を浮かべてなぁ。そして、静かに消えてく」と説明した。
「不思議な力に引かれてに火の坂へと向かうんかもなぁ」と老婦人は語った。
「おばあちゃんちょっとぼけとるから、話半分で聞いてね。話し相手ができてよかったねぇ、おばあちゃん」
老婦人の家族が見かねて話しに割って入る。
男は「あぁ、そうですか」と相槌を打つ。
老婦人はただ、ニコニコしているだけだった。
そしてその帰りの晩、男と少女は火の坂の頂上で驚愕の光景を目にする。影が坂の上で浮かび上がり、輝きながら姿を現していたのだ。
男と少女は近づくが何も応答せず、ただ消えていく。
男は声が出なかった。少女は「キレイ…」と呟いた。
この奇妙な現象を目の当たりにした男は、影がどこか別の次元や世界へと消えていくのではないかと考え始めた。
男の思考はどんどん現実世界を離れていくのだ。
今、目の前に起きている状況を理解できない男は、謎の影の現象を信じたくなかったのである。
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