第3話 柄樫サリエの世界③
中学進学の際、従兄である、同じ齢の柄樫尚希と一つ年上の柄樫賢人に引き合わされる。
高校進学には町の外に出なければならず、将来を考えても、異性との交流を阻んでばかりはいられない。
その為の準備だった。
二人は複雑そうで、特に尚希は最初から機嫌が悪いのを隠しもしなかった。
サリエは、自分を見て驚いた顔をしない男の子を初めて見た。
我儘で甘ったれなお嬢様の相手をさせられるのかとでも思っていた様子の二人は、サリエが物静かにお行儀良く身じろぎしないのを見ると拍子抜けしたようだった。
長いまつ毛を伏せ「目を合わせても大丈夫?」と聞くサリエを賢人が優しく構うと、尚希も渋々それに従うようになった。
柄樫の家系はもともと美男美女揃いで、彼らも充分見た目が良かった。
柄樫家の男性らしい、太く濃い黒髪と、少し浅黒い肌と、長身は二人に共通していたが、大きな目の優しい顔つきで細見の尚希と、大柄で男らしい精悍な顔つきの賢人は、もともと目立つ上に人気者であったのに、サリエを守るように歩く様はいっそ見ものだった。
中学校の登校時は、道すがら人が割れるので、最初のうちは「リアルモーゼか!」と、尚希が笑い、よく賢人に咎められていた。
尚希は洋弓の、賢人は水泳と空手の優秀な選手で、女子生徒の憧れの的だったが、サリエに嫉妬して意地悪をする者はやはり誰も居なかった。
中学校に入学してすぐの頃、少しヤンチャな上級生がサリエの教室までやって来て絡もうとしたが、サリエに真っ直ぐ見つめられただけで何も言えなくなってしまった事が有った。
周囲に囃し立てられ、煽られて引くに引けない故の行動だったが、教室に居た護衛にすぐさま拘束されて教員へ引き渡された。
周囲には、その扱いよりも、女王様を前にした乞食のような彼の姿の方が印象に残った。
その美しさは年々増し、中学校の大半の男子はサリエに恋をしていたし、恐らく職員の中にも彼女に恋をしている男性も居た事だろうが、誰もが、自分なぞ相手にされる訳が無いと考えて、近づかなかった。
尚希と賢人とは少しづつ仲良くなり、年相応の会話が出来るようになった。
目が合っても、微笑んでも、サリエを好きにならない二人は、大切な存在だった。
二人の前でだけ、サリエは顔を上げて微笑み、遠慮無く話をした。
同じ教室の女の子達とは小学校よりも上手な距離を保った。
校舎の中では、皆が親切で仲良くしてくれた。
でも、放課後も休日も一緒に遊びには行けないし、何より彼女達は、恋愛話や、噂話や、悪口を、けっしてサリエにはしなかった。
その明確な線引きをふわりと覆い隠すようにしてくれる彼女達を、寛容で有難いとサリエは思っていた。
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