第2話 柄樫サリエの世界②
美麗は、当初、故郷へ帰る気は無かった。
サリエは、東京では父が宛がった高級マンションで美麗と二人で暮らし、私立の有名な女学校に幼稚園から通っていた。
父は、頻繁に家にいて彼女を可愛がり、両親はとても仲睦まじかったので、サリエは家族の事情をずっと後まで知らなかった。
父が、どうしても長期間本国へ戻らなければならない事情が出来た時、第二次成長期に差し掛かった娘の美しさが周囲に及ぼす影響を鑑みた両親は、祖父に助言と協力を求めた。
加えて、その時期に、習い事のピアノの男性講師が起こした誘拐騒ぎが、最終的に大人達をこのように判断させたのだ。
彼は父が長年可愛がり、信頼をしていた教え子で、美麗とも親しかった。
彼自身も美丈夫で、可愛らしい恋人がいた。
サリエの本来のピアノ講師はその恋人だった。
ある日、都合がどうしてもつかないから、彼にピンチヒッターを頼みたいと彼女から要望があり、両親は1日だけならと了承した。
いつもの通り、1時間のレッスンを受けて、その3日後に事件が起きた。
悪意をねじ伏せる事と欲望を抑える事は別ものだ。
少しの時間ならば、遠くから眺めるだけならば、純粋に、美しいから好ましいと思っていられたとしても、手が届く距離で言葉を交わし、目が合えば、サリエはたちまち恋い焦がれられ、欲しがられてしまう。
父はお別れの時、彼女にこう教えた。
「君は迂闊に人と目を合わせてはいけないよ。」
サリエは自分が特別だと知っている。
大人達から常に、よくよく言い含められてきたし、美麗からは、教育と呼ぶにはあけすけで分かりやすい、経験談をいくつも聞いたし、同性の友達が出来憎い事や、どうしたって異性に好意を持たれてしまう事も、当然だと教えられた。
それでも、女の子達はサリエに優しく接しくれたし、男の子達は遠巻きにしてくれたので、目に見えて孤立する事も、揉め事も、窮屈と感じる事も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます