第5話 ティナ・ガルシア
「まだまだ魔力の練度が足りておりませぬ、魔力を掌の中心に集め回転させるイメージを持ってもう一度!」
「その灼熱を以って灰塵に帰せ…
短文詠唱による基本魔術の発動練習。
魔術の発動には、全文詠唱、短文詠唱、そして無詠唱の三種類の方法がある。
基本は全文詠唱なのだが、魔力から魔術への変化のイメージをより早く完成させることにより、短文、もしくは無詠唱による魔術発動が可能となる。
しかし、普通は全文詠唱を完璧にこなすことでさえ相当な精神力を必要とする技術なのだ。
つまり魔術というものは、詠唱文さえ覚えたら発動できるという単純なものではないということである。
(全文詠唱はほとんど完璧な俺…やるやん)
それなのに家庭教師を雇ってまでして、13歳で短文詠唱を叩き込まれているのは、何もただ貴族として優秀でいなければならないから、というだけでなく、なんとしてでも『国立魔法学院』の〈グリーンクラス〉に入学するためでもある。
国立魔法学院は王都にある創立1000年を迎えようとしている由緒正しき学院だ。
クラスは、上位クラス通称〈グリーンクラス〉と下位クラス通称〈ホワイトクラス〉の二つに分かれ、それぞれ20人と30人の合計50人で構成されている。
もし、グリーンクラスのまま卒業することができれば、魔術師としての未来は約束されたようなもので、そのまま冒険者になって名を売る者もいれば、宮廷魔導士として王直属で働く者もいる。
つまり、仕事上の立場も貴族としての地位もより強固なものになるというわけだ。
そして俺の場合、これから起こるであろう『
(なんとしても〈グリーンクラス〉に入らないとな…)
学院の入学試験は毎年あり、今年13歳となった俺も受験することになる。
(友達100人できるかな……同級生50人しかおらんけど)
なんて呑気に考えながらもスパルタ家庭教師の指導のもと、修行に勤しんでいる。
「アクセル、ティナちゃんがいらしてるわよ」
庭にある修練場にいる俺たちに向かって母さんが窓から声をかける。
「ティナ?あーうん、もう少ししたら行くよ」
「もう、あまり待たせちゃかわいそうよ?」
いつにも増してニコニコと笑みを浮かべながら母さんは窓を閉めた。
(あの顔はなんだったんだ…?)
「…おまたせ」
「ああアクセル、遅かったわね。修行してたの?」
客室の扉を開けるとそこには白いワンピースを着た俺の幼馴染…子爵家令嬢ティナ・ガルシアがクッキーを頬張りながら座っていた。
よく手入れされていることが分かる長くて艶のある紅色の髪は、きれいに三つ編みにされて先端を黄色いリボンで結ばれている。
「うん、短文詠唱の練習してた」
「短文詠唱!?そんなことまでできなくても魔法学院に入学できるわよ…」
呆れ顔でティナが言う。
「うん、でも俺はグリーンクラスの上位に入らなくちゃいけないから…」
「そう…あんたも苦労してんのね」
そう言ってまたクッキーを頬張りはじめた。
「ドレッドおじさんは?元気?」
修行の時に着ている耐魔性ローブを脱ぎ、使用人のロレーヌに手渡しながらティナに話しかける。
「父さまはいつも通りうるさいわよ…昨日の夜だってあたしがクッキー焼いてたら、
『だ…誰に渡すんだ??あ、おいティナ!……ティィィナァァァァァァアア(大泣)』
って感じで叫び出して…あー本っ当にうっとうしいわ」
「はははっ、変わらないなあ」
楽しそうに話すティナを見て、思わず笑いがこぼれる。
ドレッドおじさんことドレッド・ガルシア子爵は、俺の父ジムと母マリーと魔法学院時代からの付き合いで、3人でずっとパーティを組んでいたらしい。
さらに俺とティナが同じ頃に生まれたと言うこともあってガルシア家とベーカー家のつながりは深い。
ティナとは昔からよく一緒に遊んだものだ。
ティナと話を弾ませながら、彼女の首から下げられているネックレスを見て俺はふと7年前のあの日のことを思い出していた…
「アクセル!ほら隠れて!いーち、にー、さーん」
俺はよく、親父に連れられてガルシア邸に来ることがあった。
「ちょっと待ってよ…何をするの?」
「見ればわかるでしょ!早く隠れなさいよ!ごー、ろーく…」
目をつぶってしゃがんでいるティナが、早く行けと言わんばかりに小さな手をしっしっと振る。
(よく飽きないよなあ…)
そんなことを考えながら隠れる場所を探す。
「にーじゅく、さーんじゅ!もーいーかい!」
しばらくするとガサガサと草をかき分ける音が聞こえてきた。
「ふっふーん、ここら辺にいるのは分かっているのよ!あたし最近、『まりょく』について父さまにおしえてもらったんだからね!」
ティナは10日後に誕生日を迎え、6歳になる。
ジムとドレッドはティナの誕生パーティの話し合いでもしていたのだろう。
俺たちの方を見ながら、
「このままいくとお前も血縁者になるかもなぁ、ドレッド!」
「ふん、アクセルがティナたんに似合う男になれば考えてやらんこともなくもないがな」
なんて声が聞こえてきたような…
まあいいや。
ガチャ!
大きな音がして、光が差し込んでくる。
「アクセルみーっけ!」
見上げると!ティナが嬉しそうな顔でこっちを見ている。
俺は三角座りしていた足を崩して、はいつくばってクローゼットから出る。
「ティナはすごいね、もう魔力を探知できるようになったんでしょ?」
「何言ってんのよ、あんたがとっくにそれくらいできるってことくらいわかってるんだからね!」
ティナは頬を膨らませ、ふいっと横を向く。
「次は…そうだ、フリスビーしましょ!アンバーも一緒に!」
そう言って玄関で寝ている
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