第6話 あやまち
「庭でするの?」
俺が聞くとティナは、にたーっと笑みを浮かべながら、
「公園に行きましょ!」
と俺の耳元で囁く。
「だめだよ、父さまに怒られちゃうよ」
「父さまたちは今お話中だし、すぐ戻ってくれば大丈夫よ!」
俺たちはまだ5歳と6歳だったので、2人とも父親には勝手に家の外に出るな、と強く言われていた。
「でも…」
「ほら早く!アンバーも一緒に裏口から出たらバレないでしょ!」
(怒られるのは嫌だけど…すぐ帰ってきたら大丈夫かなぁ)
俺たちは自分たちがしようとしていることの重大さを理解するには、いささか子供すぎたのだ。
空は晴れ渡り、雲ひとつない。
俺とティナ、そしてガルシア家の番犬…いや、番狼?のアンバーは、ガルシア邸のすぐ隣にあるタタラ国立公園でフリスビーをすることにした。
タタラ国立公園は王都一等地の外れにあり、王都に暮らす貴族たちが魔法や武術の修練ができるほどの広さがある。
公園の端では、的なども置かれてあり、魔法射撃の練習もできるようになっている。
まあもちろん、大きな魔法や広範囲に危険が及ぶ魔法の使用禁止されているが。
アンバーは首にティナの髪の毛の色と同じ赤い首輪をつけている。
「すごいわ!アンバー!」
フリスビーをアンバーから受け取り、ティナはアンバーの頭を撫でる。
(アンバーを撫でてもあんまり気持ちよくなさそうだなー、もふもふじゃないもん)
「ほら!つぎはあくせるの番よ!ほら!」
と、ティナはフリスビーを俺に渡す。
「よーし、それじゃあいくぞ!」
俺は遠くにある噴水をめがけてフリスビーを投げる。
「ガゥ!」
右に旋回するフリスビーを、アンバーが体を綺麗に曲げてガッチリキャッチする。
「すごいすごい!」
「えらいぞ!アンバー」
俺たちは周りのことなど一切気にせず、はしゃぎ回っていた。
フリスビーを追いかけるアンバーを追いかけようと、2人で走り出す。
その時だった。
「きゃあっ!」
目の前でティナが倒れ込む。左腕と左足から血が出ている。
「ティナ!………大丈夫!?」
俺がティナを抱え込むと、とても痛そうに腕を押さえながらティナは目に涙を溜め始めた。
「うぅ…うえぇぇん…うあぁぁん…」
周りには木片が散らばっていた。
ようやく俺は、自分たちが周りを見ずに走り回っているうちに、いつのまにか公園の端の魔法修行場まで来てしまったことに気づいた。
そう、木に放たれた魔法によって飛び散った木片が、ティナに飛んできたのだ。
「誰か!誰かきて!!」
俺はどうすればいいのか分からず、しどろもどろになりながらも声を上げた。
「なんだお前ら…どっから来やがった」
髪を後ろで括った、背の高い男が近寄ってきた。
先ほど魔法を放った男だろうか。
(ガキだけでこんなところに飛び出してきやがって…チッ、面倒なことになった)
男はあからさまに嫌そうな顔をしている。
「ティナが怪我をして…血が…いっぱい…」
俺は震えながら答えた。
「……お前ら親は?」
「ここに…いない」
「ったくめんどくせぇな…ほら手を退けろ」
と、男の服を掴む俺の手を払おうとした。
その時だった。
「グゥゥオォォォォォォ!!!」
怒りに満ち溢れた遠吠えが響き渡った。
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