第4話 地図と記憶
俺は最近よく、こっそり下町まで足を運んでいる。
といっても、毎日の厳しい修行が終わった後の暇な時間にだが。
もちろん下町の市場に行って食べ歩きだの買い物だのをするのが楽しいというのもあるが、本当の理由は「前世の記憶にある場所」についての手がかりを探すためだ。
俺は13歳になったばかりだ。
俺は貴族の子という立場なので、これまではなかなか1人で外に出ることすら出来なかった。
ましてや王都の外に出るなんて出来るわけがない。
だが、俺はついこの前「成人」した。
ヤムル王国では、平民は15歳、貴族は13歳で成人する。
つまり親に全て従う必要はなくなり、ある程度自由に行動することが可能になるというわけだ。
何故貴族の方が早く成人するのかというと、それは出来るだけ早く結婚出来るようにするためだという。
貴族は、自分たちの家の権勢を大きくするため、できるだけ力の強い家との関係を結ぼうとする。
この国では一夫多妻制が認められているので、貴族たちは自分の子供をなんとか権力者の子供に嫁がせようと躍起になる。
いわゆる政略結婚ってやつだ。
成人して自由に動けるようになったのはいいが、これから俺はそういうドロドロとした世界に足を踏み入れることになるのだ…
(あーいやだいやだ。)
「さすがに1000年前ともなると全く違うな…」
グレゴ暦1219年発行と書かれた地図を見ながらつぶやく。
前世はグレゴ暦2188年生まれだったので、やはり俺は転生したんだな…というなんとも言えない不思議な気持ちになる。
そしてもう一つ大きく違うことがある。
地図がとても広いのだ。
前世では、人間は魔物によって世界の端に追いやられ、人間が住むところを表す地図は控えめに言っても狭いものだった。
だから俺は前世では行くことのかなわなかった土地(まぁ貧乏だったのでどっちにしろいけなかったのだが)に対して強い好奇心を抱いていた。
色々と調べ回った結果、前世で俺が暮らしていたアマンダ共和国は、この世界でいうギース帝国という場所のあたりだということが分かった。
今この世界は、ミリアス王国、ギース帝国、マルガ海洋帝国、そしてヤムル王国という四大帝国をはじめとする数多くの国から成り立っている。
四大帝国は互いに牽制しあいながらも、それぞれの国がそれぞれの国と独自の交流を持ち、色々な人種が入り混じって暮らしている。
そして時々現れる強力な魔物には、それぞれの国の冒険者や騎士団が手を結んで立ち向かう。
今この世界の勢力図は人間側が完全に魔物を押さえ込んでいる状態だ。
「ギース帝国か…遠いな」
俺の夢に現れた「何者か」によると、どうやらこの時代に、『
その選択を正しく導くために俺は転生したとかなんとか…
うん、まったくわからん。
正直な気持ちがそれだ。
(そもそも、世界が滅びるのが1000年後のことなんだし、今の俺の人生にはなんの関係もなくないか?
勇者がどうとかあんなわけの分からないこと無視していいんじゃ…
いやいや、でも1000年後の俺や俺の家族のためにも、なんとかしなくちゃな)
そんな事をふと考える。
いつものことだ。
そう、俺の中にある「未来」の記憶は実際に起こるまぎれもない事実なのだ。
ただの貧乏村人の俺がなぜ魂の勇者(?)とやらに選ばれて、転生したのかは全くわからないが…
とにかく、俺が何か『
うん、まぁその時までは俺の生きたいように生きよう。
変に気負ってても仕方がないからな。
出店で買った何かの串焼きにかじりつきながら、俺は馬車に乗り込んだ。
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