第3話 魂の勇者

「こんな遅くまでどこに行ってらしたのですか、坊っちゃま!」


広い玄関口に高い声が響き渡る。


「あれほど勝手な外出を控えるようにと何度も言ったではないですか!」



使用人のロレーヌ。

俺が生まれる何年も前からこの家に仕えているとても優秀な女性だ。


ま、俺からするとガミガミうるさいおばさん、ってとこだが。


「…わかってるよ、ごめん」


「ごめんで済むなら聖騎士団はいりません!!!」



ため息をつきながら自分の部屋に戻っていく俺を、まるで怒り猫アングリーキャットのように釣り上がった目で見送っている。


「あー疲れたなぁ」


ここはユーラス大陸、ヤムル王国王都の一等地にある屋敷。


俺はベーカー家の次男として生まれた。


ベーカー家は代々王家に仕える歴史ある名家である。


俺の親父、ジム・ベーカーは『伯爵』としてこの国の政治の一端を担っている。



「アクセル」


振り返ると淡いピンクの上品なドレスを見にまとった女性が立っていた。


マリー・ベーカー、俺の母さんだ。



「母さん、言いつけを守らずに勝手に遅くまで外出してごめんなさい」


俺が謝ると母さんはふっと笑い、


「あなたは本当にジムにそっくり…昔2人で下町まで勝手に探検しに行ったのがなつかしいわ」


と柔らかい声で俺の頭を撫でながら話す。


「でもやっぱり心配なものは心配なの。あなたは私たちのかけがえのない宝物だから」


(母さんは本当に女神様のようだなぁ)


「次からは母さんに心配をかけないよう早く帰ってきます、本当にごめんなさい」


「ふふっ、私だけでなく、ロレーヌもとても心配していたわ。ちゃんと謝った?」


「あー、はい。ちゃんと謝りました。…たぶん」


そういうと母さんはまたくすりと笑い、手を振りながら階段を降りていった。


俺の名前はアクセル・ベーカーだ。名家ベーカー家の次男坊で、この国の未来を担うために期待されている金持ちのお坊ちゃまだ。


魔術、武術、座学それぞれに家庭教師までついて、毎日をやれ勉強だやれ修行だって感じで過ごしている。


だが、俺の中には違う記憶がある。そう、前世の記憶だ。



俺は貴族の子、アクセル・ベーカーであり、それと同時に村人、アクセル・ディアスという記憶も持っているのだ。



前世の記憶を鮮明に思い出したのはつい2年ほど前である。


10歳だった俺は、ごくごく普通の貴族の子として生きていた。ただ、5日に1度、不思議な夢を見ることを除いては…


その夢では俺は貧しい村で日々魔物を狩り、村人として暮らしていた。


その世界では世界のほとんどが魔物によって脅かされているようであった。


見覚えのない村で見覚えのない人を親父と呼び、見覚えのない森の中を歩き、狩りをする。


当然、夢の中ではそれが普段通りだと思っていたのだが。


俺はその夢について不思議には思っていたものの、別にどうすることもなく生きていた。

あの日が来るまでは…




11歳の誕生日の夜、俺はいつもの夢を見た。


夢の中で俺は弓と矢を持ち、短剣を携え、狩りに出ていた。

なかなか見つからない獲物を見つけようと木に登り、とても珍しいと思われる黄金に輝く兎の獲物を見つけた。


夢の中の俺はとても興奮していた。


矢を放つが残念ながら命中せず、獲物とむかいあったその時、それはやって来た。


《暴災のフェンリル》


そう呼ばれる魔物は何故か俺の前に突然現れ、そして…俺を喰らった。



(頭が焼けるように熱い…)



「…セル、アクセル…」


声が聞こえる。


俺は真っ白な世界にいた。体は動かない。


「…ッ!?」


何かが俺に話しかけている。


「歴史を動かしなさい…アクセル。あなたは今から1000年前のこの世界に転生します。聖と魔のバランスを失っていくこの世界の歴史を変えるのです。」


目は開かない。だが、なんとか声は出そうだ。


「あんたは…?1000年前?一体何を…」



「これからあなたの世界は魔物に覆い尽くされ、人間は滅びます。それは聖と魔のバランスが崩れてしまっているからです。

原因はこの1000年の間に幾度となく繰り返された『運命の選択セレクション』の誤りにあります。


あなたにはこれから起こる『運命の選択セレクション』に干渉し、より良い未来に導いていただきます。」


「何を言って…」


「さあ、そろそろ時間です。あなたには私の加護

と、『魂の眼ソウル・アイ』を与えます。

《魂の勇者アクセル》、あなたに魂の祝福があらんことを……」



目を覚ました時、強烈な頭痛とともに前世の記憶が頭に入り込んできた。


「魂の勇者……運命の選択セレクション…」



ここから、俺の第二の人生は本当の始まりを告げたのだった。



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