初恋
楽が奏されて、腰に両の手を当てた
腰に両の手を当てた
「
善道が独り
背丈の差を、貫之は
楽が、止む。
定省が右の足を前に出しつつ、
貫之は側目(横目)にも見ていないのに、定省と同じく右の足を前に出しつつ、浅緑の両袖を左下へ下ろす。
定省と貫之は合わせて、右の足を踏む音を響かせ、戻したその足を、横に開きながら、両袖を上げ、上に舞わせて、右下へと下ろす。
「
貫之の微かな声に魅かれるように、定省は見る。
右から左へと、袖を振る時は、左の足を
定省と貫之が見合っているにしても、舞は写したように同じだった。
舞台の上、
貫之が定省に
その
――貫之と定省は、左の袖を胸の前に置き、右の片膝をつく。
楽が、舞が終わり、皆が息を
内
ふと(不意に)現れた
貫之は立ち上がり、そびやかに(そびえるように)背が伸びる。
「君、妹か姉はいるだろうか」
立ち上がった定省がいきなり、貫之を見上げて聞いた。
「おりません」
貫之は
「君を一目、見た時に思った。私が五つの時、初めて恋した
「ぶーーーーーっっっ」
善道が吹き出す。貫之は善道を睨んだ。
善道は口を閉じて、笑いをこらえ、冠(こうぶり)が落ちそうなほど、頭を振った。
「知らない知らない。初めて聞いた、そんなことっぶははははははははは」
こらえきれず笑ってしまう口を、浅緑の袖で覆う。
貫之は、定省の方を向いて、言った。
「
「
「おりません」
貫之は、たちまちに答えて(即答して)、笑いが止まらない善道を睨む。善道は口覆いした浅緑の袖から、止まらない笑み声を垂れ流しながら、舞台の
「君も知らないか」
定省は駆け寄り、高欄を掴んで、身を乗り出し、善道に聞く。
「紀氏の
「紀氏の
口覆いした浅緑の袖の内で、笑いをこらえきれない善道は、
善道は、睨む貫之に向かって、青海波の袖振りをしてみせた。
「っふはは、
「
ふっと、貫之の黒い眼が、
つられて善道は、
「鬼でもいたか」
「――………」
貫之は答えない。善道の笑み顔が消えた。
「こわいからっ。『いない』と答えてっ」
善道は
善道は、紀氏でありながら、
門の内に入っただけで、気配に気付くのか。
「紀氏の
定省は、貫之を返り見る。貫之は定省と目を合わせず、善道を見やる。
「
慌てて善道は定省に言った。
「向かい合って舞うと、覚えがいいみたいだから、」
「次は、舞の通りにやりましょう」
貫之が言う。
「――そうだよねっ。向かい合うの、嫌だよねっ」
「向かい合った方が、舞を覚えられる」
定省が言う。善道は、繰り返しうなずく。
「そうだよねっ。初めて最初から、最後まで、通しで舞えましたもんねっ」
善道は、舞台の
「つ~ら~ゆ~き~、頼むよ~~」
貫之が、戸の方を見た。
「
「善道は、おるか」
童が
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