第32話 外敵も変化もない国に新風を

外敵も変化もない帝国に新しい風を


ーー 辺境伯の決断


セリーヌ辺境伯は決断した、この女神の使徒たる女性を我が帝国に招き文明の風を吹かしてほしいと。

帝国は魔物以外の敵がいないため、平和であるが変化や文明の向上がない。

話に聞いた先祖が暮らした文明にも程遠いこの生活をもう少し向上させて、産まれくる子孫にもっと豊かで安全な生活を残したい。

そう心から思ったのだ、しかも今帝国内部では次期皇帝の座を争い内戦が起きそうな気配すらある。

何故敵もいないこの世界で身内同士で争わなければならないのか、馬鹿らしいことこの上ない。


今ならこの使徒一行を皇都に連れていけば、如何に我らが貧しく不安定な生活を送っているか分かる、しかも彼女は配下に神獣と呼ばれるフェンリルと絶対的強者であるドラゴンを従えているのだ。


身内のいざこざをしている場合ではない、ことが起これば国自体がこの世から消えることすらあるのだ。


私は密かに手紙をしたため皇帝にその意を伝えている。

その手紙が戻り次第彼女らをお連れしたいと考えているのだ。



ーー 皇帝ゼブラ五世  side



「皇帝陛下、セリーヌ辺境伯からの密書が届きました。」

私は言うことを聞かなくなった身体に喝を入れながら、密書を受け取ると人払いをして封を開けた。

[皇帝陛下殿

 例年の如き領地内の視察を行なっていた際に、我が祖先の初めての街タキロンにて異質な建物を見かけて町長に問えば。

「森の向こうから女神の使徒様の一行がこの町に訪れて今滞在しており、そのもの達が僅かな期間でこちらでは見ることもできない様な魔道具を多く使った屋敷を建てた。」

と言うのです。

 そこで私はその使徒なる人物に会い人物を確認したにですが、

「聖人君子」「歳取らぬ少女」「異国の侯爵」「神獣と及びドラゴンを従える者」

でございました。

言葉だけではその者の異常さがわからぬと思いますが、争いを好まず民に平和と富と健康を与えるために来たと申しております。

 私の人物眼でみても嘘偽りはないと思えるため、皇帝陛下のお許しがあれば皇都にお連れしたいと考えております、その共数は僅か20人ほどです。

                      セリーヌ辺境伯]


と書かれてあった。

内容もさることながら僅か20人ほどであの魔の森を抜けて来た事実が信じられなかった。

過去幾度となく帝国は魔の森の向こう側との交流を求めて森に人を派遣したが、ことごとく失敗しておりその望みはとうにないと決めつけていた。

そこからの使者、いや女神の使徒という者達。

しかも配下には神獣とドラゴンがいるという、我が帝国の運命すら左右しかねない武力であるのに辺境伯は我に合わせたいと言って来ている。

如何にすれば、今では息子達が醜く争い国を割ろうとしている。

これも何かの天啓やもしれず、私はすぐに返事を認めて送り返した。

「待っておる。」

とこ一言を。


密書を持たせた後私は、宰相を呼び出した。


「如何されましたか?」

俺と共に長年この帝国を治めてきた宰相もかなり老けていた。

「150年目にして女神が我らを見つけ出した様だ。使徒様がここに来られる。」

と言うと

「何をご冗談を、・・・冗談ではない様ですな。していつ来られるのですか?」

「今始まりの町に居られるそうじゃ、辺境伯が連れてきたいと言ってきたので許可したわ。」

「何と、始まりの町に。これも何かの天啓でしょうな。分かりました受け入れの準備をしておきましょう。して王子達には何と?」

「アレらには言わずにおけ、これがどう転ぶかアレらの運次第であろう。」

と答えてこの話は終わりにしたのち、宰相に

「それで息子達はどうなっておる。まさか国を割るようなことにはなりはすまいな。」

「はいそれだけは回避したいのですが・・・難しゅうございます。もしも使徒様にそれらを抑える武威が有れば話も変わるのでしょうが。」

と言うのでワシは

「それが有るようだぞ、しかも恐ろしきものが。」

と言うのみで詳しくは語らなかった。


宰相は少し考える様子を見せてはいたが

「それは面白いことになりましたな、使徒様のお力を御縋りしましょう。」

と答えて部屋を出て行った。


私も何か起こりそうな気がして久しぶりに身体に活力が湧くのを感じた。



ーー 宰相殿の憂鬱


ゼブラ帝国の宰相は、イーサン=コトーグという名で代々宰相の職を務めている。

最初の移民で有る皇帝以下の人々は、森の向こう側で災害級の干ばつに襲われた際に新天地を求めて旅に出た王家の人間を筆頭に約1万人が移民として旅立ったのだ。


しかし魔の森を越えることは非常に困難で、魔の森を抜けた時には1万の人々が3000にも減っていたにである。


その後始まりの町から始め、村や街を増やし今の皇都に大きな都市を構えるまでに至ったので有るが、職人の多くを失ったために文明的にかなり低くなったのが今に続いている。


王家については代々長子が後を継ぐことが明文化されていたにであるが、先代の時に長子が病弱で皇帝としての任務を引き継ぐことができない状態であったため、第二子と第三子が競い第三子が今の皇帝となった。


その為以前の長子が継ぐと言う明文が消されたことで、今回の騒動に発展しているのである。


今争っているのは、

・第一皇子 ケーメイ

・第三皇子 サーチラ

・第五皇子 ルムエラ

の三人である、第二、第四皇子は争いを嫌い継承権を放棄している。


それぞれの皇子に後ろ盾が付いており、特に第一皇子と第五皇子は激しく争い今にも内乱が起きそうな状況にある。

その理由は母親が違うからである、第一皇子の母は第三夫人、第五皇子の母は第二夫人で第三皇子の母は側室である。

その為第一夫人が病気で早逝した為に継承問題が過激になったものである。

第一夫人の死去についても怪しい噂が今なお絶えないところも問題の根深さを物語っている。


ゼブラ帝国自体ここ150年で人口は、25万人まで増えたがここで頭打ちになった。

食料の自給率がこれ以上上がらないのだ、魔物の被害も最近多くなり亡くなる民が増えたのもその原因だ。


そんな一国しかないこの世界で国を割るような争いなど誰得であろうか、誰も得をしない。


そんなところに女神の使徒の情報、しかも高い文明を広げられる能力もあると言う、宰相はこれに縋ることにした。

直ぐに王家御用の影の者達を始まりの町に向わせ、使徒の人となりとその能力を見定めるよう指示したのだ。


そして自ら始まりの町へ向かうことにした。


ーー 魔道具に量産で文明開化の音が鳴り響く


帝都から連絡が来るまでの間に始まりの町と呼ばれているここを私の作る魔道具で生まれ変わらせようと思い、今私はせっせと魔道具を製作している。

動力源と素材は魔の森を越える際に狩った魔物で十分賄えるので問題ない、ただ魔道具の修理や調整または製作ができる人材をどうするかが当面の問題と言える。


「これは冷蔵庫、これがコンロ、これがオーブン、これが温水器、これがヒーター・・・」

と説明しながら先ずは町長の家にから取り付けていく。

おおよそ20軒ほどの家に魔道具を取り付け使い勝手や便利さを体感してもらう。

この街の家はおよそ200軒、10分の1がお試しで魔道具生活を始めてもらったが、およそ1月でかなりの反響が来ている。

既にこの町の全戸数の魔道具の数倍の数の魔道具を準備している。


夕方になると今までは無かった光景が見え始める、街灯や家々の灯りが明々と点き家からは湯気の蒸気や調理場からに煙が立ち昇っている。

家々からは子供達の笑い声と親子兄弟の話し声も楽しそうに聞こえる。


穀物が大量に生産できるようになったお陰で、所持のレパートリーも私のレシピを使い多くなり栄養面からしても充分な状況である。

健康的な子供、年老いても健康に働ける安心、病気や怪我のためのポーション作りもその一端を支えている。


私は多くの子供達にそれらの教育と技術を教え込み、これからこの世界の発展を支える人材づくりに腐心していた。


「セシル様、本当にありがとうございます。」

辺境伯が皇都への連絡を終えて再度この始まりの町に立ち寄っていた。

「間も無くお迎えに皇都から宰相閣下が到着すると思われます,そこでこの町の変わりようを見てもらいます。」

と言うと改めて家々を確認し

「また更に生活が向上しているようで・・・。」

と半分羨ましいそうな顔をしていたので

「辺境伯様の分を始め100軒分ほどの魔道具を準備しておりますので、後でお受け取りいただけるとたすかります。」

と申し訳なさそうな感じで申し出ると、ニヤケ顔が元に戻らないほどニコニコとしながら

「有り難く頂きまする。」

と部下に準備をさせていた。

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