第31話 異国の世界

ーー 異世界に来た私にとって異国とは?


この世界に来たときに感じたのは、まるで中世ヨーロッパのような世界観だと言うことと、魔法による不思議な文化の発展だった。


お風呂にはあまり入らないが「浄化」や「洗浄」の魔法があるためか、意外と清潔なのだが衛生についての考え方が足りず病気の予防ができていないのだ。


こんな世界観の元今いるところではなく国交のない異国の文化とはどのようなものであろうか、此処以上に発展しているか又は逆に未開の地のような定文化圏か、行ってみなければわからない。


ここで最初に出会った少女が賢く礼儀正しいが、文明的に低い感じを受けたことから僻地がそうなのか、それとも全体的にそうなのか調べる必要があるでしょう。



ー 町長ゴッホの家



誘われるままに町長の家に来た一行は、この小さな町の文化的水準に少々驚いていた。


水については、毎朝川の水を汲んできては亀に貯める。

火については、竈門に囲炉裏があるのみでお湯に浸かる習慣はない。

調理は焼くか煮込むかの二通りで味付けは、塩と酢のような物くらいであった。


寝具はと言うと大きな葉っぱを単枚か重ねてその上にシーツのような布か毛皮を被せるベッドに、毛皮の毛布が主な寝具だ。


そこで私は、町長に幾つかの質問を行った、

・井戸は知っているか

・布織物についてはどの程度の知識があるか

・調理法や調味料についての知識

・炭やそれ以外の人工的な燃料について

・鉄製の道具や農耕の知識

などであるが、およそ予想通りこちら側に世界は遅れているようだ。


当然魔法(スキル)については同じと考えていたが、それ自体もかなり後進的であった。



ーー こちら側にも文明の光を



私は町長の許可を得て、私たちの屋敷を建てることから始めた。

土魔法で土台と地下室を作ってから基礎の上に整形した木材と鉃骨で骨組みを組むと、この辺りでは見かけない3階建ての立派な建物を完成させた。


当然深井戸を掘り魔道具で水道の設備と上下水の区別排水を行うと近くの地下に排水用の浄化槽を設置した。


当然お風呂は完備で、少し大きめに作った。

調理場は焼く・煮る・蒸す・炒めるの他燻製や酢漬けに味噌漬けまで準備した。


灯りについては魔道具での灯りと蝋燭を準備、寝具はベッドからスプリング式のマットレスに羊毛や羽毛の布団に寒冷地の山羊の産毛を使った毛織物の毛布使用。


暖については、囲炉裏もあるが薪ストーブに魔道具のヒーターを目立つところに設置した。



ー 新居のお披露目


約2ヶ月ほどで新居が完成した。

こちらの世界でこれほどの建物を2ヶ月で作り上げたことにも驚かれたが、中の内覧に誘うと

「これは何と!」

と言うような言葉ばかりで想像を超える文明に驚いていたようだ。


「セシル様の住む世界はワシらの世界と大きく違うようですな。」

町長がそう言いながら自分の町に導入できるものはないかと見ているには分かっていたので

「宜しければ暫くここにて私たちの技術を教えましょうか?」

と言えば

「願ってもありません、どうぞよろしくお願いします。」

と感激していた、その後立食形式のパーティーを開き多くの町人を招待して料理を振る舞うと

「こんな美味しい料理は初めてだ。」

「作りからを教えてほしい」

などと言う声が多く聞かれた。


さらにお風呂や寝室のベッドでは

「こんなにお湯が!」

「雲の上のような寝心地だ!」

と大好評だった。


次の日から私達は、町長と井戸掘りの場所の選定と排水施設の建設に取り掛かり、6ヶ月後には見違えるほどの違いが現れた。

石鹸とローソク作りもかなり本格的になり、風を引くような者も激減して人工増加の起爆となっていた。


建物の建築技術も向上し、隙間風の入らないが暖かい家が建ち並び、栄養豊富で美味しい食事は町人を強く明るくしていった。


こちら側の世界では信仰というと

「山神」「水の神」「大地の神」

という風に自然を恐れ敬う信仰で、具体的に神の名や姿については語らないし、神に会ったとか神のお告げなどという話も聞かないようだ。


異世界の神は、全体的に見ているのではなく好きなところだけを見たり手を出したりしている感じがする、神の手からも水は落ちるようだ。


ー 文字や知識は


言葉については同じ言葉を話すことから、本や文字による教育かと考えていたが、

「え!本がない。どうやって文字を覚えるの?」

「文字は殆どの人は書けないし読めません。」

「記憶力の良い者が領主様に報告に行くだけです。」

との回答に絶句した。


どうやら文化的な格差がひどいようで、そのために争い自体が少ないというか出来ないようだ。

これはこれで平和であると言えるのかもしれないが・・・。

最低でも自分の名前や家族の名前くらいは書けないと困るだろうと思い、簡単な読み書きの本を作り賢そうな子供から教え始めめた。

その効果はすぐに現れて、半年後には1000人の町人に50人ほどの読み書きのできる者が現れた。



ー 領主との対面


この町に8ヶ月ほど滞在した頃に

「もうすぐ領主様の視察隊が来られます。」

と町長が教えてくれた。

視察隊がとは、領主又はその後継が直接兵を従えて領民の数や税を納めさせるもののようだ。

納められた税は領主からその人口に応じて国王に納めさせるようで、王国の名は「ゼブラ帝国」、領主の名はセリーヌ辺境伯と言うそうだ。

多分ここはかなりの辺境ということになる。


視察隊がタキロンの町にやって来た。

町長の家に向かう視察隊が町長をはるかに上回る私達の屋敷に気づくのも当然である、

「町長よ、あの建物は何か?」

と視察のセリーヌ辺境伯が問う

「はい、辺境伯様アレに見えますのは、不毛の地の先に魔物森を抜けた先から来られた女神様の使徒と言われる方々の家にございます。」

「何!あの森の先から来たと言うのか?女神の使徒だと。」

狼狽しつつも何とか威厳を保った辺境伯は、

「その者たちと会いたいが可能か?」

と町長に尋ねる

「はい、是非にお会いしたいと申しておりましたので、後でお連れします。」

と答える町長に

「いや、あのあの建物にも興味があるこちらから訪れると伝えてくれ。」

と言いつけて本来の仕事をこなす辺境伯。


しかし幾つかの驚きの事態が

「かなり人口が増えているのか?」

「はい増えているのと死者が少ないために減らないのです。」

「それは何故だ?」

「これもあの使徒様方の教えでございます。これらの食事や飲み物で違いがお分かりかと。」

と言いつつ、澄んだ飲み水に美味しく栄養価の高い料理の数々。

「田畑の穀物も豊作でこの度はこれ程の税を納めることができます。」

と例年の3倍の量の税を差し出した。

「これ程までに豊作とな、しかもこの料理はうまい。」

と感心しながらまだ見ぬ女神の使徒の館に想いを馳せていた。


ー 訪れ



「お待ちしておりました、セリーヌ辺境伯様。私がこの一行の主スーザン王国は侯爵位を受けておりますセシル=アラガミです。今後ともよろしくお願いいたします。」

と挨拶をすれば

「侯爵!貴方は女神の使徒とお聞きしましたが、一国の貴族で有りますか?」

「はい、女神からの依頼はこの世界に平和と娯楽をと言いつけられておりますが、時間的なものや場所的な縛りはありません。そのため私の気がむくままに旅をしております。」

と答えると、辺境伯は

「いくつか教えてほしいことが・・・」

と言いつつこの町の変わりように興味を覚えた様子で、人口増加の秘密や生産性向上の秘密を聞きたがっていた。

「いくらでもお教えしましょう。これも何かのご縁、この町が私の行った施作の効果を証明しております。真似できるものは是非ご自分のお力にしてください。」

と惜しげも無く教えた。



ーー セリーヌ辺境伯 side



私はセリーヌ辺境伯5代目当主、我が祖先らが魔の森を抜けてこの地に町を開いて早くも150年が経過している。

私は見たこともないが祖先がいた場所では、魔法が盛んで民はもう少し豊かな生活をしていたらしい。

その様子を書き残した覚書が我が家には家宝として残され得ている、私はこれを読むのが幼き頃から好きで、いつかはこの町に同じような文明の火をと言うのが願いであった。


私はいつものように一番辺境の我が祖先の最初の町に視察隊を引き連れて訪れたのだが、今回は遠目にもこの町が変わったことがわかっていた。


「辺境伯様、タキロンの町が変わったと聞いておりましたが、町を守る塀が高く堅牢になっているようです。しかも町自体が大きくなったような。」

と先触で町に向かった部下からの報告を受けていたが、確かに立派な城塞都市のようだ。


門を潜り広く平らになった通りを進むと奥の方に立派な屋敷が見えてきた。

「あの建物は何だ?」

と出迎えに来た町長に問うと、あの魔の森を超えて来た女神の使徒一行だと言う。

しかもこの町自体がかなり様変わりしている、たった1年も経たずに。


そしてこの町の人口増加と穀物の生産高の向上に驚きつつも、食事などの豪華さにも目を奪われた。

これらもあの使徒がもたらしたと言うではないか。会いたい!あの屋敷をこの目で見てみたい。

この欲求に耐えかねていた時に町長から、使徒一行が私に会いたいと申していると聞かされた。


使徒の作った屋敷に入るとそこはみたこともない空間であった、町の建物はすべからず土間で板で区切る以外は外とあまり変わらぬ建物ばかりであったのに、ここは明らかに外と完全に隔離された空間が存在していた。

話で聞いた魔道具と思われるものが部屋のそこらじゅうに見受けられて、とても過ごしやすい空間が存在していた。

「これが森の向こうの文明かそれとも使徒の力なのか?」


その後歓待を受けた私は使徒と名乗る女性に色入りな質問を行ったが、彼女はその全てに丁寧に答えてくれた。しかも彼女は王国の侯爵と言う位の貴族なのだと。

その様な高位の貴族が僅かな共を連れてあの森を抜けたと言う、かなり腕の立つ共がいるのであろうひょっとすると魔法師かもしれない。


私は予定の日程を伸ばし、彼女らにことを知ることにした。


すると知れば知るほど驚きの事実が知れた。

あの中で一番強いものはと尋ねれば誰もが

「セシル様でございます。」

と答え、その実力の程を聞けば

「山を割り海を裂きドラゴンさえ足元にひれ伏します。その証拠に従者の1人は黒龍と恐れられたドラゴンで、使徒様に負けて従魔になったそうです。」

と教えてくれた、もう1人の従者も

「あのお方はホワイトフェンリルの王で御座います。」

と言うのだ、この2人だけで我が帝国が滅ぼらせることも可能であろう。

その2人を従えるあの女性は、少女の様に見えるが御歳32歳と聞いた。

「ここだけのお話ですよ、使徒様はお年を召されることがありません。」

と言う話はあのシスターの言葉であった。


私は彼女らをどう扱えばいいにであろうか、女神教に改宗しその教えを受けるべきなのか、それとも教えを拒絶し魔の森の向こうに帰っていただくのがいいのか、今判断することができない。


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