第33話 皇都へ

ーー 貴方が宰相閣下ですね



辺境伯が2度目に来日ののち10日ほどで豪華な馬車に列が現れた。

馬車から降りてきたのは、13・4歳の少女とその2つほどしたの男の子そして歳の割には老けた感じの男性とその妻と思える女性だった。

辺境伯の態度からしてあれが宰相閣下であろう、顔を見るに苦労人で根は真面目な感じが好印象だ。


辺境伯が私の元にその男性一行を引き連れて来て

「セシル様、紹介いたします。我がゼブラ帝国の宰相閣下であるイーサン様です、宰相閣下こちらが女神の使徒セシル様です。」

とそれぞれを紹介して私達は挨拶をすると直ぐに私の建てた屋敷に宰相閣下一行を案内した。


「これは真素晴らしい屋敷ですな。外の暑さが全く感じられませんな。」

と興奮気味に建物を確認すると、メイドの差し出すお茶菓子と飲み物にも驚いていた。

「この季節に氷が・・・このお菓子の甘さ・・帝都でも味わえぬものですな。」


お菓子類はお子様方にも好評のようで「美味しい」と連発しながら食べていた。


屋敷には空き部屋が10ほどあったので、滞在中はここで寝泊まりをしてもらうことにして宰相様の質問や疑問に答えること3日、2日後には皇都に向かい出発が決まった。

その夜、宰相閣下が

「内密で申し訳ないがお話がございます。」

と今の帝国のお家事情を話してくれた、かなりひどい状態で何時内乱状態になるかとヒヤヒヤしているようだ。

そこで私は一計を案じた

「ドラゴンが皇都に出現して「国の王を差し出せ」と言わせましょうか?そのような事態に身の危険を冒してまで国を思うものが王に相応しいのではございませんか?」

というものだった。

「それは良い考えですが・・そのドラゴンは何処に?」

というので

「クロ、そこの先で竜の姿に戻って見せてあげなさい。」

と命じるとクロは素早く空に舞い上がると真っ黒い黒竜に姿を変えたのだった。


「これは真に・・・龍神であります。この禍々しいほどの迫力・・誰がこのまえに立てるのでしょうか?誰も立てないことも考えられます。」

と心配事を言うので

「その点は大丈夫ですよ、女神の配下である龍神が新しき王を見定めに来たといえば、まえに出られない者が王になることは無理でしょう。」

と答えると

「それなら、第二、第四皇子も呼んでおきましょう。」

と言う話になった。


ーー 宰相の娘 メルカ=コトーグ 13歳  side



私はゼブラ帝国の宰相の娘メルカ、父の旅のお供で家族全員が始まりの町に向かうことになったの。

旅自体初めてのことで私は楽しみにしていたわ。

でも少し心配事と悩んでいることがあるの、それはお母様のお身体のこと。

母であるシメール=コトーグッズ28歳は、帝国でも3本の指に数えられる美しさと言われて久しい女性だったのだが、最近急に体調を崩して顔を隠すようになさっているのが気になっていたのです。

お父様も仕事の重責からか歳以上に老けたように見えて、私とても心配なのですわ。


でも今回珍しくもお父様が

「家族で始まりの町タキロンに行くぞ!準備をしなさい。」

と帰ると直ぐにそう言いつけるとお母様も連れ出したの。

何か考えることがあると思うにだけど、私にはそれは分からないわ。


もう直ぐタキロンの町に着くと言う時になってお父様が

「いいかよく聞くのだよ。今から行くタキロンの町に女神の使徒様が来ていると言う話だ、私はその方を皇都に向ける為に来たのだが、その使徒様は女性で信じられない力をお持ちだと聞いている。そこで私は可能であればシメール、其方の身体を診てもらおうかと思っている。」

と言われたの、お父様はとても深くお母様を愛されていたのは知っていましたが、使徒様にお願いする為にここに家族を連れてきたと知って私は、いつも以上にお父様のことが好きになったわ。


お父様の仕事のお話が終わり、セシル様と言われる使徒様の建てられた屋敷に滞在することになった私達、そこで出されるお菓子ですら信じられないほど美味しかった。


お父様がセシル様に

「個人的なお願いをするようで申し訳ないが、我妻の診察をしていただけないでしょうか?原因不明の病状で妻も家族も苦しんでおります、何卒お願いします。」

と普段見せないほど真摯な態度でお願いしていたのが印象的だった。

するとセシル様は

「ああそのことですね、分かっていますよ。後で私の部屋に来てもらいます、心配せずともいいのですよ女性ならこれほどの呪いを受ければ生きて行くのも辛かったでしょう。」

と答えて下さったのですが、私はその言葉を聞いて

「お母様はそこまで辛い症状だったのですか?」

と思わず聞いたほどでした。


その夜、お母様がセシル様お部屋を訪れて30分ほどで自室に戻られて直ぐにお休みになったと聞いていましたが、私は心配でなかなか寝つけませんでしたわ。

次の朝、昔の美しいお母様のお顔を拝見して

「お母様、お元気になられたのですね。もう大丈夫なのですか?」

と尋ねたのです、するとお母様は

「貴方にも心配をかけましたね。この通りもう何も心配することは無くなったわ。」

と明るく返事をしてくださいました。


その後聞いたところによると、セシル様が呪詛返しという魔法を使われて呪いを消したのち女神の雫という名の化粧品類を頂いたと教えていただきました、その化粧品は肌を若返らせる力があるそうでだから昔のままのお母様のお顔だったのです。


私は改めてセシル様にお礼を言うと

「貴方も気を付けなければいけないかもしれないわね、貴方にも化粧品を差し上げるわね。」

とおっしゃって聖女の雫という商品をくださりました。

女性として一番欲しいものだそうで森の向こうの国では、この化粧品が王国同士の褒賞に含まれるほどだそうです。



ーー 皇都ゼブランド


ゼブラ帝国の皇都ゼブランドに着いた。

約10日の馬車の旅だ、私の馬車なら3日で着きそうだけどそこは宰相殿の思惑がありそうで。


途中で立ち寄った貴族の館では黒が夜な夜な活躍をしていたようだ。

そして情報が私達よりも先に皇都に届くように計算されっていたようだ。


皇都ゼブランドに着くと、皇都民が大通りに集まり私たちの姿を一目見ようとしていた。

城に入ると近衛兵による出迎えの儀式があり中々面白かった。


皇帝との謁見は次の日ということになっていたが、その夜のうちに宰相が私を隠密裏に皇帝の寝所に連れて行き

「セシル様、皇帝陛下のご病気は自然なものでしょうか?」

と聞いてきた、妻が呪詛を受けていたことが判明してまさかと思ったようだ。

そこで私は皇帝を診察してみた、結果から言うと

「呪詛と毒を受けいていますね。」

だった。


皇帝自身は肌身離さずの魔道具である程度の呪詛や毒に耐性があるが、それもある程度の範囲。

かなり強烈な毒と呪詛を受けたようだった、そこで解毒と呪詛返し更にはハイヒールを行うとすっかり体調を戻した皇帝がそこにいた。

「これならまだ20年はやっていけそうだ。」

と軽口を叩く皇帝陛下に涙を流して喜ぶ宰相の顔が印象的だった。

そこで宰相に話したクロを使った人物鑑定を伝えると皇帝も乗り気で

「是非にお願いしたい、ワシも黒竜地やらを間近に目にしたいしな。」

と一芝居することになり更に、ドラゴンの加護で健康を取り戻したことにすることになった。



ーー 呪詛を返された人々のそれから



宰相夫人を呪ったのは、侯爵夫人であった。

以前は帝国内でその美しさを褒め称えられていた彼女も歳には勝てず、老いさらばえる自分の顔を見ながら次第に美しい顔の女性を呪うようになったのだ。


その黒い思いは何時しか黒魔術の世界に足を踏み入れていた。

丁度そのころある魔法師が恨みを抱き復讐に燃えていたのだがそれに目を付けたのが侯爵夫人、魔法師に禁術の魔法書を手渡し自分の嫌いな者を呪うように命じたのだ。


当然、魔法師は自分の恨みのある人間にも同じような呪詛を振り撒き、ここ一年で不審な病や死が急増していた。


更にその力を知った跡目争いの第五皇子の関係者が、皇帝陛下にまでその呪詛を向けたのと、時を同じくして第一皇子の関係者も陛下に毒を盛ったのであった。

流石に呪詛と毒を受けた皇帝陛下は日に日に体調を崩して、現在の後継騒ぎとなったのであった。


当然今回私が、呪詛返しを認め呪詛を掛けた本人と依頼した者がその呪詛を受けて現在虫の息のようです。



ーー クロの大活躍



それは晴天の昼間に突然起こった。

城の上空がにわかにかけ曇、雷鳴が轟くとそこから巨大な黒竜が姿を現した。


「我は女神の僕、黒竜なり。この世界の王国を確かめにきた、国王を我の前に出せ!」

と皇都が震えるほどの大音響で怒鳴ったのである。

王都民はもとより、城を守る近衛兵達もその畏怖すべきドラゴンの声に震えて立っているものさえ稀であった。

そこに宰相が姿を現し、

「竜神様、申し訳ありません。今この帝国の王は重い病に罹り貴方様の前に姿を見せることが叶いませぬ。」

と申した。

するとドラゴンは何か考える風に思案すると

「では次期の王をここに、長くないうちに変わるのであろうそれならすでに決まっておろう。早く我がまえにその姿を見せろ、王たる資格を示せ!」

とまたもや大声で怒鳴った。


その声を聞いた宰相は、近くにいた者に

「竜神様がああ申されておる、次期皇帝を望むものをここに連れてきなさい。」

と指示した、しかしそこに姿を現す者が居なかった。

ドラゴンは言う

「なんと言うことか、この国はこの王の代で終わりというのか。それならば我がこの町ごと葬りに来よう。」

と。

そこで声が聞こえた

「私が出ます。」

声の主は第一、第三、第五皇子でもなく継承権を放棄したはずの第四皇女であった。

「竜神様、私は未だその約束はありませんがこの皇都を失うならば私がその代わりにこの身を捧げましょう。」

と言いながら竜神役のクロの前に身一つで姿を現して、静かに傅くと頭を下げた。


その姿を見たクロは

「その心確かに確認した。その方が次代の国王となれ、それ以外は認めぬ。しかしまだ若いようだしばし今の国王が治める必要があるようだ、力をかそう。それまで国王としての研鑽を積むのだぞ。」

と言うと城の一角(皇帝の寝所)付近に光が届き、竜神は空の雲へと帰っていった。


そして呆然とする城の者の前に健康を取り戻した皇帝陛下が姿を現し

「今、竜神の加護を受けた。次の国王の指名も受けた我はこれより次の皇帝が十分に引き継げるまでこの身を捧げるつもりじゃ。」

と言い切ると竜神の前に姿を出せなかった皇子達に

「お前達には絶望した、三人とも継承権を剥奪の上伯爵に身分を下げる。」

と命じたのだった。

この決定に不服を言えるものはない、何故なら権力争いをしていた双方の有力貴族が謎の死を遂げていたからだ。


これによりゼブラ帝国を揺るがす継承問題は無事に終わったのであった、以後は以前の通り長子が跡を継ぐことに戻された。

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