第7話 ウェーブする経済と魔法
ーー 経済が回りだすと大きなウエーブとなる
王都では「女神に雫」「聖女の雫」と言われる商品が噂にならない日はないほど、貴婦人たちの注目を得ていた。
その効果を見せるのが王妃や一部の貴族夫人やお嬢様となれば、私もそれをと求める貴婦人や商会は目の色を変えて手段を探す。
しかしあの婦人の噂を聞いた者は、
「誰でも使えるわけではないようね、様子を見ましょう。」
と様子を慎重に見る者も居たがほとんどの貴婦人らは、目の色を変えて欲した。
メンデルの街に商人らが大挙して訪れるようになったのもその頃から、そして見本で作られた魔道具や便利道具に素晴らしい寝心地座りごちの寝具やソファーに目を奪われる。
ある者は屋台で売られていたファーストフードに驚き、宿泊先の料理の味に感動していた。
「メンデルの街で何かが起きている。ここから流行が発信されるのは間違いない。」
何人かの目先の効く商人が伯爵家やメンデルの街の商会に足繁く通いだす。
商人が多く訪れることから、商品が流れ街が潤い出す。
そして「女神の雫」などがここにあると分かると、その秘密を知ろうと躍起になる。
ー 不埒者は成敗されるのが当然
「本当か?あのスタンピードを殲滅し子爵になった聖女様がここにいると言うのは。」
ある商人がその話を嗅ぎつけてきた、
「聖女子爵様にお会いせねば、そして秘密をこの手に。」
そお思う商人や他領地の密偵が勇んで私の屋敷に群がったが。
「ここは国王陛下より何人も赦しの無いものが訪れて良い場所ではないとの認可を得ている。立ち去りなさいそして不埒な考えは捨てて下さい。」
そう言いながら伯爵家からお借りした兵士2人が訪問者を追い返す。
しかしながらそれでも欲に駆られた人間は止まらないもの。
次の日また次の日と者の横に縄で縛られた曲者が転がらされていく、そして同じ雇い主の者が捕まると雇い主まで晒されて転がされる。
それは貴族も例外ではない、密偵がそれを知るのは少し後になる。
女神の雫を作れる聖女の居場所が判明したと言う噂と、それに伴いその秘密を探ろうとした者たちの末路が語られ始めて久しく時間が経過したある日。
国王から次のお言葉が
「聖女セシル子爵に不埒な行いを致した者は、その身分を問わず極刑に処する。」
というものであった、これは王妃たっての望みであり国王の望みでもあった。
「最近この街も静かになったな。」
とメンデルの街の領民が語り合う
「景気は相変わらず凄いし、旅人も減らない何が静かだよ。俺なんかもう半年も休んでないんだぜ。」
とうれしい悲鳴のぼやきを聞きながら
「俺の言ったのは、子爵様の屋敷の簀巻きのことだよ。幾つかの貴族の当主がすげ替わったと聞いたぜ。」
「ああそれは俺も聞いたな。でもそれ以上に仕事が捌けないほどくるなんて、昔じゃ考えられないことだな。」
と新しく変わりつつある街を領民も感じているようだった。
ー ゼノン=ビブラン伯爵 side
私の領地は特に特産品や資源があるわけではない貧乏伯爵領であった。
それが今、多くの商人や旅行者が街に溢れ、職人や領民達が忙しそうにそして楽しそうに働き生活する姿を見聞きして私はただただ神に感謝するしかない。
あのスタンピードを止め、妻の病を快癒し、街に多くに人を呼び込んだ少女こそ女神の化身に違いない。
全力で女神を守らねばならぬ、それが私がこの世に生を受けた目的に違いないから。
その横で愛妻イメルダ夫人も微笑んでいる。
ーー 幸せは分かち合ってこそ。
「ご主人様孤児院の施設が完成したと連絡が入りました。」
セバスチャンが報告に来た、
「分かったわ商業ギルドに保母候補の選定を急がせて。調理人や下働きのものも忘れずにね。」
と指示を出した後私は、教会に向かう。
メンデルの街の教会は、あの王都の古びた教会の繋がりのある教会だった。
当然ボロボロだ、神父に3人のシスターそれに痩せこけた孤児らが10人ほど。それ以上の孤児がこの街に存在するが、それらを養うほどの経済的余裕が教会にはなかった。
その教会を立て直しその横に孤児院を建てていたのだがそれが完成したようだ。
近いうちにお披露目をしなくては、それまでは孤児狩りだ。
教会の孤児以外は街中のスラムのような場所に隠れ住んでいる、それを捕まえて矯正しながら育てるのだ。
冒険者ギルドに依頼を出し確保した孤児を仮の施設に収容する、当然逃げ出そうとする孤児ばかりだ。
しかしうちのタロウはそれを見逃さないし、一度タロウに捕まった故事は非常におとなしく素直になる。
何かしているようだが本人達のためだ目を瞑ろう。
「神父殿、新しき教会が出来上がりました。近いうちにお披露目をしたいと考えています。」
とまだ古い教会に住まう神父やシスターに声をかけると、何故か膝をつき頭を下げて
「神の住まいは神とその使徒のため、私たちはただそれをお守りしているだけです。思い通りにお過ごし下さい。」
としか言わないのだ、どうも私を聖女や女神の御使と思っている節があるが、もういいや。
ー 教会と孤児院のお披露目
5日後、伯爵や街の主だったものを集めて教会と孤児院のお披露目を行った。
お祭りや娯楽が少ないこの世界、私は周囲に出店や屋台を出させてお祭り風にお披露目を行った。
「凄い人出ですね。セシル様はやはり商売の神様ではないのですか?」
とスイフトお嬢様が私に語りかける、
「そんなはずないじゃないですか。神様になったら美味しい食事や飲み物が食べれないのですよ。私は嫌です。」
と答えると
「ふふふ、前言撤回しますわ。セシル様は食の神様でした。」
と戯けた感じのお嬢様に怒った振りで抗議して、一緒に屋台を巡る。
いつの間にか素直で礼儀正しくなった孤児達が新しい自分たちの家を興味深そうに見上げている。
「なあ、スメル。本当にこんな立派な家に住めるのか?俺たち。」
とレイという少年が年上のスメルに声をかけた、するとお姉さん的な女の子カレンが
「女神様の住まうお屋敷に奉公に上がるのよ、しっかりしてね。じゃないと従者様に食べられるわ。」
周りを気にしながらそういうカレンに頷く数人の孤児。
どうやらタロウは、セシルを女神の生まれ変わり化身として孤児に教え込んだようだ。
このことは別段嘘という話でもないことがその後わかるのだが、今は内緒だ。
ー 魔法の発現
この世界で魔法が使える者はごく僅かな者達だけである。
しかもその能力は概ね低く攻撃魔法と言っても、セシルが以前ギルド内で使った相手の動きを止める程度がやっとのことであった。
だからこそ、スタンピードを魔法で殲滅した2人の力は、王国一つを蹂躙することぐらいなんでもない程の力なのである。
その事を考えると国王もセシルを貴族としてこの王国にとどめ、他国からの守りとしたことは偉業と言えるものであった。
セシルは今、孤児院の子供達に魔法の手解きをし始めた。この世界で魔法がいかに貴重か知るセシルだからこそ、子供の内から教育して育てることにしたのだ。
既にスキルの果実は準備している、あとは誰にどれをどのくらいか決めるだけだ。
セシルが魔法の果実を与えることにしたのは、
・スメル 男 8歳
・レイ 男 7歳
・カレン 女 8歳
・サーシャ 女 7歳
・ジャイン 男 7歳
の5人だ。
彼らはパーティーとしてこれから苦楽を共に生きてほしいと望んでいる。
彼らのパーティー名は「女神の五指」、3年後に独立して冒険者として生きることが義務付けられている。
「セシル様お願いします。」
剣術や槍術に弓術それから解体や読み書き計算など、この世界の水準からしてもかなり高い教養と訓練を受けて彼ら5人は実力をつけていく。
「今日は君たちに大切な儀式に参加してもらう。」
と5人を呼びつけた私は、教会の祈りの間で1人ずつにスキルの果実を手渡し食べさせる。
十分な訓練をし基礎体力や下地ができた彼らなら問題ないだろう。
「さあこの実を食べて。希望を叶えるために。」
この後子供らは激しい苦痛に意識を失う、3日後目を覚ましたら子供らは立派な魔法師に変化していた。
「いい魔法は正しく使わないといけないのよ。スルメは皆を守る盾として結界と身体強化の魔法を、レイは前衛として攻撃魔法である火と風魔法を、カレンは周囲の危険を感知し気付かれす動けるように感知魔法と移動系魔法を、サーシャは皆の健康と安全を守るために治療魔法と水魔法を、最後にジャインは皆の能力を高めるために支援魔法と身体強化をそれぞれ授けました。」
と言いながらそれぞれに魔法の使い方と訓練の方法を伝授する。
「この世界で魔法はとても貴重で恐ろしい武器でもあります、故にあなた達を狙うものも現れるでしょう。そのために強く正しくありなさい、これから残りの歳月をかけて。」
というとタロウと共に森に行くことを命じた。
ーー 森での修行
タロウに森に連れられた5人は、魔法を少しづつ使いながら連携や魔物倒し方を習っていく。
「ブロック!」
大型の魔物に突進をスメルが結界魔法で防ぐ、ここでお気づきだと思うが魔法における詠唱とは結果が鮮明に想像できれば何でもいいのだ。
セシルの教育でこの世界にない言葉や現象を知った5人はそれぞれの性格で魔法に名をつけ始めていた。
「皆に力を!」
ジャインが支援魔法を発動すると皆動きが格段に良くなる。
「炎の刃!」
レイの攻撃魔法が魔物を両断する。
「今度も誰も怪我してないのね、残念。」
サーシャがガッカリするほど順調に皆の実力が付いていた。
「タロウ様、私達をもっと強くしてください、セシル様を守れるぐらいに!」
というカレンの声にニヤリと笑うタロウ。
この後5人は地獄というものを生きたまま見るのであった。
ー 1月後
孤児院に帰ってきた5人を見て私は、
「タロウ、やり過ぎだろ!」
と思わず怒鳴った。
皆のステータスが50倍も上がっていたからだ、
「彼らを英雄にでしたいの?」
と言えば
「いいえ皆、ご主人のお守りをしたいと言うので少しばかり力を貸しただけです。今なら5人でドラゴンさえも1匹なら倒せます。」
と胸を張って言いやがった。
「みんなごめんね。」
と謝ると
「とんでもありません、これは俺たちが望んだこと。女神の五指はもっと強くなってセシル様をお守りいたします。」
とスルメが代表で答えたのだった。
その後彼らは冒険者登録をしてたちまちこの街で1番の冒険者パーティーとなったのは言うまでもない。
ーー ギルマス ゴールド side
あの孤児院からの冒険者パーティーが破竹の勢いでランクを駆け上がっている。
まだ10歳そこそこの子供らが、何か理由がなければおかしい。
俺は彼らに職員を張り付けさせ見張らせたがことごとく失敗、彼らの方が上手のようだ。
そこで直接尋ねることにした。
「一つお前らに聞きたいことがある、お前らどうやって魔物を倒しているんだ?」
と問えば
「簡単だよ足を止めて弱点をつけば簡単に倒せるだろ。」
とリーダーのスメルが答える。
「だからその足を止めたり弱点を見つけたり、攻撃する手段だよ。」
と言えば
「そんなことか、それはセシル様から許可がないと答えられない。」
と答えた後はダンマリだ。
「もういい、俺がセシル様に尋ねる。」
と言い切りその場を後にした。
「しかしアイツらの倒した魔物の攻撃の跡は・・・魔法の跡のようだ。ひょっとして、まさか。」
そんな疑問を持ちながらセシル様の屋敷に伺う。
「珍しいねギルマスがうちに来るなんて。」
そう答えるセシル様に
「実は・・。」
と子供達のこととその実力の秘密を尋ねると
「そうだね、もう彼らもそれなりの実力を付けたからギルマスには教えてあげるね。彼らに魔法を教えたんだよ、かなり使えるようになってね今ならドラゴンでも大丈夫らしいよ。安心して。」
と答えた、
「魔法・・ドラゴン!」
安心する要素が何処にあるんだ。いや味方なら心強いのか?
「分かりましたここでの話は絶対外には漏らしません。」
というとギルマスは帰って行った。
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