第3話 残された婚約者
エヴェリーナが姿を消してから4か月がたつのに何の情報もなかった。随分前から周到に準備をしていたのだろう、何の痕跡も残されていなかった。
エヴェリーナの実家でも原因はわからないというが、エヴェリーナ付きの侍女からはこの家には身の置き所がなかったと教えられた。
父親は、再婚当初、早く打ち解けてもらおうと後妻とその連れ子をかわいがり、ついついエヴェリーナを後回しにしていたそうだ。それが年月が経ってもその傾向は変わらず、まるでエヴェリーナ一人が他人のように見えたと侍女は証言した。
怒りのあまり、それを父親と後妻にぶつけた。二人は後ろめたさは感じていたらしい。しかしエヴェリーナがおとなしくしているのをいいことに、そのまま来てしまったと弁解した。ただ大切には思ってるとの言い訳に思わず声を荒げた。
「彼女に何かあったら、あなたたちのせいですよ!」
「ステファン様。お母さまたちをお責めにならないで。私たちはこの家の一員になろうと必死で頑張っているのをお父様が支えてくださっていただけなのです。お姉さまはそれを寂しく思われてしまっただけなのです」
「ではなぜ4人で頑張らなかったのですか?3人で頑張ってきた・・・彼女をはじめから仲間にする気がなかったという事でしょう。被害者ぶるのはやめていただきたい。」
「ステファン様、そんなことおっしゃらないで・・・」
エヴェリーナの義理の妹のテューネはほろほろと涙を落とす。
彼女はいつもこうだと聞いていた。何かあったらすぐに泣きだし、それで両親を味方につけていつもエヴェリーナが悪者にされると言っていた。
小柄で華奢な体に、天使のように可愛いと形容されるその美貌で涙を流されると誰だって、庇護欲がわき彼女の味方をするだろう。
そうだ、とステファンは思い出した。エヴェリーナが珍しくそう愚痴を言った時、「でも彼女はとても繊細だから。君が大丈夫と思ったことでも彼女には泣くほど辛いことかもしれないだろう?もう少し優しくしてもいいんじゃないかな?」と偉そうに言ってしまったことがある。
その時、エヴェリーナはそうねと笑った。
自分も、この家族と一緒だった。エヴェリーナはどんな気持ちだったのだろう。血がにじむのにも構わず、唇を噛みしめた。
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