第2話 新しい出会い

 エヴェリーナは隣国に嫁いだ友人に手紙を送り、その夫の友人アルビンを紹介してもらいそのまた隣の国ドランまで出てきていた。


 二つも国をまたぐと、文化も言語も少し異なる。もともと、竜がいるという伝説の山があるドラン国に興味があり、勉強していたこともあって新生活はドラン国と決めた。前回、一度訪れたこともある国だ。


 アルビンはエヴェリーナの母国ラッシュとドラン国の言語が扱えること、文化に精通していることから通訳として雇ってくれた。

「君のおかげで仕事がうまくいっているよ、ありがとう。」

「うれしいです。私も仕事が楽しくて、雇っていただいて感謝しています。」


 言葉だけでなく、双方の文化を知っているため売り込みに来る商売人ともスムーズに話が進み、好条件で取引できることが増えた。また取り扱う品も増え、エヴェリーナが来てからドイル商会の経営は順調だった。


「エヴァリーナ、僕とこの商会を一緒に支えていってくれないかな」

 アルビンはエヴァリーナに求婚した。

「ありがとうございます。でも・・・私は結婚するつもりはないのです。」

「それは前の婚約者がひどかっただけだろう?そんな男ばかりじゃないよ」

 本当は今のところ、婚約者のステファンは何の咎もないのだけれど、不貞を働いたから逃げてきたということにしてある。

 

 それに、前の時、結婚前にあっさりと自分から妹に乗り換え、それを罰されると逆恨みで自分を殺そうとしたのだから。人の心は変わってしまうものだと良い勉強になった。

 それなのに、自分の心は今回もステファンに惹かれてしまった。出会ってから今までとても素敵な人だったから。好きにならずにすんでいたら苦しむことはなかっただろうに。

 だからさっさと自分は身を引き、初めから二人が結ばれるよう願った。あんな辛くて惨めな思いはもう二度としたくない。


 実家でも父が再婚してから心が休まる日はなかった。特別いじめられることはなかったが、連れ子の妹に気を遣いそちらをことさら大切にしている父には何も期待はしていない。ただ自分の家なのに居心地が悪かった。

 私の居場所は自分で作るしかなかった。


「そうですね。素敵な方はたくさんいらっしゃると思います。ですが私は人生で今が一番楽しいのです。こうして仕事して、一人で立って自由に生きていることが幸せでたまらないのです。」

 アルビンは苦笑して

「確かに生き生きしているね。でも誰かに頼りたくなることもあるだろう。いつでも僕の肩を空けておくから遠慮なくよりかかるんだよ。」

「ありがとうございます。」



 エヴェリーナの通訳の評判を聞いて、王宮からも声がかかった。ラッシュ国の貴人を迎えるときに、通訳としてパーティに参加するようにとの依頼だった。

 エヴェリーナはまっぴらごめんと思っていたが、王宮からの要請を受けたほうがドイル商会にとって益になる。お世話になっているアルビンへの恩返しのため泣く泣く了承した。

 一応、国交に関わるような立場の貴族に知り合いはいない、会って気づかれる心配はないだろう。外交官や外務大臣には通訳は必要がない、その他に随行してきた貴族たちが困らないようサポートするのが役目だと聞かされ、さらにホッとした。

 念のため、髪の色を変え、化粧も派手目にして軽く変装をしてパーティに参加した。


 恐れていたようなことは起こらず、見知った顔は誰もいなかった。楽しくパーティーが進む中一人の貴族に声をかけられた。

「ねえ、君、ラッシュの人?」

「えっと・・・どうしてでしょうか?」

「ああ、ごめん。詮索するつもりはないんだけど・・・ちょっと人探しをしていて。ラッシュ国から来たエヴェリーナ嬢という令嬢聞いたことない?」

(おおっと!いきなり敵兵襲来!)

「ラッシュ国人同士、つながりがあるかなと思って。」

「なぜ、こちらの国でお探しに?」

「彼女に詳しい人が、彼女はドランに興味を持ってたといってたらしくて。今回こちらの国に来る機会があったからついでに聞いてくるように言われてね。あくまでもついでに頼まれただけで、ここにいる可能性も高くはないだろうけど」

「どなたから?」

「王太子だよ。でも、大っぴらにはしないでほしい。」

「…わかりました。心当たりはありませんが・・・もし何かありましたらお手紙差し上げますわ。」

「助かるよ、よろしく。」

 偶然声をかけられただけで、自分の居場所が見つかったわけではない。しかし、なぜ王太子が国を越えてまで自分を探しているのだ、ステファンか。

「なんでだろう。必要のない私なんかほっとけばいいのになあ。せっかく幸せにやっているのに・・・」



 あくる日、暗い顔のエヴェリーナに

「昨日のパーティーお疲れさま。何かあった?」

とアルビンは心配になって聞いた。

「とくにはありませんでした。ただ、誰かが私を探しているようで・・・落ち込んでいます。これだけ離れたら大丈夫と思っていたのに、今の幸せを穢されたようで悔しくて。」

「まあ、家出だからね。ご家族も心配するだろうし仕方がないとは思うけれど。よくこの国にいると思ったね?」

「私がドラン国に興味があること知ってたみたいです。誰にもわざわざ言ったことないんだけどなあ。」

 大きくため息をついた。

「それだけ君のこと見ていた人がいるってことだよ。」

「・・・・。アルビンさん、今までお世話になってて申し訳ないんですが、今日でやめさせていただきたいのですが。」

「ええ?!それは困るよ。仕事も君がいないと困るし、その‥僕個人としてもいなくなられるのは嫌だ。」

「アルビンさん…」

「じゃあ、もう通訳はやめていい。表に出る仕事は一切やめていいからよそに行かないでほしい。僕のうちで暮らさないか?うちで書類の翻訳してくれれば助かるよ。それにその方が見つかりにくいし守れるよ。」

「そんなわけには・・・」

 しかし身を守るためだからと強引に話をすすめ、あっという間にアルビンの家でお世話になることになった。


 (ああ~自由な独り暮らしさん‥‥お別れです。)

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