第17話 ゼン・ディアス視点
俺の名前はゼン・ディアス、もしくは前世で神宮寺創という。
今言った通り、俺には前世の記憶があり、今世とは違う、魔法なんてものは使えない、平和な『日本』という国で暮らしていた。
……まあ狂ったおっさんに線路に突き落とされて死んだんですけどね。
俺は自他ともに認めるゲームオタクであったため、この世界がいわゆる『剣と魔法の世界』であると知った時には興奮を隠しきれなくなり、前世の死への様々な思いなどは吹っ飛んだものだ。
ノブリス王国という国の貴族家に生を受け、過去数十年の間存在が確認されていなかった『空間魔法』という固有魔法をもち、それに加えて3個もの属性魔法を所有していた。前世と同じく才能に恵まれた俺は、小さい頃から『神童』として讃えられた。
前世の記憶も加わり、強力な魔法も持っていた俺自身も自分の実力を疑わなかった。
そしてある程度の年齢まで成長した俺は、その才能を腐らせるわけにはいかないということで、世界中の才能が集まる『リグニル学院』という学院への入学を勧められ、入学試験を受けることにした。
試験本番では、決闘形式の前座である試験は余裕で突破し、一位で入学できるだろうと思っていると、予想外なことに、俺と同レベル(負けているなどとは思っていない)の実力者がいた。
特にあの女剣士と戦っていた魔法使いはとんでもなかった。前世の経験もある俺に迫る(勝てるとは言っていない)とは、桁違いの才能を持っていたんだろう。
……てかあの女剣士の武器、日本刀じゃなかったか?
まあいいか。
試験後、宿に帰った俺は考えた。
もしかして、俺以外にも転生してきたものがいるのではないか、と
自慢ではないが、俺の今世の体もそうそう見つからないほどの才能を持っているし、それに加えて前世での十数年の経験も加わっているのだから、俺レベルのやつがそうそういるはずがないのだ。
前世のライトノベルの影響で「この世界に転生者は1人」という固定観念があったが、それ自体が間違いなのかもしれない。
特にさっきも話したあの魔法使い、あいつは転生者最有力候補だろう。
まあ、どうせ俺もあいつも試験には合格しているだろうし、また会った時にでも確かめればいいか。
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入学試験の一週間後、試験結果が発表され、俺は2位だった。
悔しくは思ったが、それよりも他の転生者の存在が気に掛かる。
結果発表後は、入学準備など諸々の手続きをした。
そして今日は記念すべき学院生活初日だ。
集合時間の30分前から教室で待機していると、続々と他の入学者たちが集まってきた。
その中にはもちろん入学試験一位のあいつ(ラウルという名前らしい)もいたが、俺が倒した女と深い間柄にあったというのは予想外だな。
あの女も強かったし、十分に転生者の可能性はあるだろう。
そんなことをぼーっと考えていたら、いつの間にか教師による説明は終了していた。
さて、ラウルに探りでも入れに行きますか。
そう思って俺が腰を上げると、視界に衝撃的なものが入ってきた。
「えぇ、わかったわ。もう説明会は終わったから、今から向かうわね」
なんと、薄い長方形の機械を耳にあて、目の前に人がいないのに会話をしている女がいたのだ。確か名前はリゼ・ミラーだったか。
あれはもしかして……スマホ!?
思わず俺が驚いていると、女の元に1人の男が歩み寄る。
「おい女ァ、そりゃぁもしかして……スマートフォンかァ?」
「…!あなた、これがスマホってわかるの!?」
あいつもか!
気になってしょうがない俺は2人へと走り寄り、他の生徒に聞かれないように、小声で質問する。
「お前らもしかして、『日本』出身か?」
「!え、えぇ」
「あァ」
2人は驚いた様子で肯定する。
まさか、転生者が2人もいるとはな……驚きだ。
どう俺が驚愕していると、
「何!?お前ら、『日本』がわかるのか!?」
と言って、先ほどまで爆睡していた、あの日本刀使いの女が飛び起き、こちらに走り寄ってきた。
……3人目もいたな。
しかし一位のあいつがこちらを見ながらもなんの反応も示さないとは……あいつは本物の化け物だったか。
まああんなのはそうそういないだろうし、勝てるように努力するしかないか。
それよりも今は、どうやって前世の現代人の知識の集大成、スマートフォンを開発したかの方が気になるな。
……もしかしたらゲーム機の開発も可能か…?
そうリゼ・ミラーに質問をしてみると、「ゲーム機触ったことないからわからない」ということらしい。……チッ。
まあ今の現状では退屈はしていないからそれはまだいいのだが。
スマートフォンに対して知っているような反応を示した者はこの教室内にはこの2人以外にはいなかったため、とりあえずの転生者はこれで終わりだろう。
まあ、気づかないふりをしている場合は別問題だろうが。
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